19 親子の絆 【19-6】

【19-6】

食事を予定していた22日。


「チケット……取れたのですか?」

「いや、伯父からクリスマスプレゼントだって」

「おじ様から?」

「うん。伯父も行こうとしていたらしいんだけど、行けなくなったって。
だから遥さんと行くようにって、わざわざ書留で送ってくれたんだ」

「すごい……」


遥さんは嬉しそうにチケットを持つと、本物ですよねと言いながら、

なぜかライトに向けた。僕は偽札とは違うよと言いながら、

彼女の行動がおかしくて、笑ってしまう。


「嬉しい、せっかくですから行きましょう」

「うん。でも、遥さんが行きたいお店はキャンセルしないとならないけどね」

「あ……そうですね」


遥さんは少し残念そうにしたが、すぐに納得するように頷いた。

どんなお店に行くつもりだったのか、少し気になりだす。


「どんなお店を考えていたの? フランス料理とか?」

「いえ、違います」

「なら中華?」

「いいえ……」


遥さんはチケットを僕に戻し、バッグをソファーに置いた。

フランス料理でも中華でもないとなると、いったいどんな店だったのだろう。


「『福さん』ってお店です」

「『福さん』?」

「はい。家庭料理をたくさん作ってくれるおかみさんのお店です」


遥さんが行くつもりだったのは、クリスマスのライトが似合うような店でも、

カップルが見詰め合って過ごす店でもなく、少し古めかしい暖簾をくぐるような、

家庭料理のお店だった。


「とっても美味しいって、職場の方からお聞きしたので、行ってみたくて」

「へぇ……」

「ご飯とお味噌汁は成長したと思いますけれど、
おかずの味付けがいまいち安定しなくて……でも、来年くらいからは、
自分でお弁当を作って持っていくつもりです」

「弁当……」

「はい。あの……」


遥さんは、右の人差し指で、左の人差し指を削るような仕草を見せた。


「後藤さんのお弁当に入っていた、『きんぴらごぼう』のようなおかず、
作れるようになりたくて……」


『きんぴらごぼう』

祖母の得意料理の一つ。あの甘辛い味に、僕は育ててもらった。


「それなら、うちのばあちゃんに教えてもらえばいいよ」

「……エ?」

「きっと、喜ぶから」


祖母の味を知りたいと言う人が出てきてくれたら、きっと面倒がらずに、

一生懸命教えてくれるはず。


「でも私、あまりにも出来ないから、呆れられるかもしれない」

「大丈夫だよ、やる気さえあれば、きっと上達する」


美味しいものを作りたいという気持ちさえあれば、きっと前に進める。

遥さんは嬉しそうに頷いた。


「22日、楽しみにしています」

「うん」

「よかった」

「よかった?」

「はい。今の電話、チケットのお礼だったのですね」

「あ……うん」

「とても真剣な顔つきだったから、何か悪いことでも起きたのかしらって、
少し心配でした」


お礼がなかったわけではないけれど、核は違う。


「お礼もあったたけど、伯父に聞こうと思うことがあって」

「……聞く?」

「うん。どうしても気になるんだ。自分を産んでくれた人のことが」


亡くなった母を、今でも自分の母親だと思っている。

たとえどんな相手が出てきても、それを越える存在にはならないだろう。

でも、自分の人生は、スタートから1本の線でつながって欲しいと思うのは、

僕だけではないはずだ。


「事実を聞くだけで、納めようと思っていたのに、出来ないんだ……。
遥さんのお父さんに会ったり、生田の家の事情を聞いたりすると、
ふと自分のことを考えてしまって」

「おじ様、答えてくれるって?」

「いや、どうかな。伯父にはまだ何も話をしていないからわからない。
僕が血液型のことから、過去に気付いたことも知らないだろうし。
全て話して、それで聞かないと」

「……そう」

「親不孝かなって、思っていたけど、でも……」

「親不孝ではないですよ。誰だって、知りたいとそう思う」

「うん」


そう、知りたいだけなのだ。今更その人を恨もうとか、文句を言おうとか、

しているわけではない。どうして今があるのか、その出発点を知らなければ、

結局、全てが宙に浮く気がしてしまう。


「亡くなった母は、僕をもらうことが決まって、『宝物が来る』って言ったらしいんだ。
それは本当に嬉しそうだったって」

「はい……」

「いつかきっと、こういうことに気付くから、自分たちで話をするつもりだって、
そう奥さんに話していたらしいけど……」


父も母も、大きなものを抱えながら、僕を懸命に育ててくれた。


「育てていく中で、やっぱり話すのは辞めようと思っていたかもしれない」

「後藤さん……」

「今まで、縁も何もない人のことを知りたいだなんて……
僕はどういう息子なんだとも思うけれど、でも……」


僕は、踏み込まない方がいい場所へ、踏み込もうとしているのだろうか。


「知ることも、知らないことも、後藤さんが決めることでしょ。
あなたが決断したことを、亡くなったご両親が反対するとは思えない」

「……遥さん」

「親って、結局は子供の決断を見守ってくれる存在だと思うから」



『歩……』



父や母は、僕の決断を認めてくれているだろうか。

そして、それを乗り越えることを、望んでいるだろうか。


「後藤さん」

「ん?」

「『TEA』さん、あの曲、歌ってくれるといいですね……」


『あの曲』

そう、ダイアナ・ロスの『IF WE HOLD ON TOGETHER』。


「うん……」


遥さんの優しい声に励まされ、僕はあらたな一歩を踏み出すことにした。



【20-1】

親と子のつながりを知るたびに、会えない人への思いは募る。
歩は、遙の笑顔に励まされ、さらに一歩前へ……
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