【S&B】 28 届かぬ想い

      28 届かぬ想い



三田村と初めて二人で食事をしようと向かった母の店で、なぜか『コウちゃん』と

出くわすことになり、結果的に、母を入れた4人で、交流会のようになった。


食事中もアイツは楽しそうに自分たちの昔話を語り、母はそれを笑いながら聞いていた。

三田村は時々笑みは見せるものの、僕からはどこか怯え、早く食事を終えてしまいたいような

雰囲気が見えた。


「三田村……」


アイツがトイレに立ち、母が片付けをしている間に、僕は三田村の腕を取り、奥へ引っ張った。


「あらためて連絡するよ。食事は今度……」

「いえ、主任。もう、十分です。これでいいですから、気にしないでください」

「いや……」


バタンとドアの閉まる音がして、アイツが出てくることがわかると、三田村はすぐに僕から離れ、

リビングへと戻る。


「よし、望。そろそろ失礼しよう」

「うん……」


小さなバッグを手に取り、三田村は僕と母にしっかりと頭を下げた。

母が残ったお酒を持って帰るように言うと、アイツはそれを遠慮し、僕に持って行って欲しいと、

愛想笑いを見せた。


ベランダへ出て、自転車を引きながら家へ向かう二人を見ていると、無性に腹が立った。

いとこだというだけで、あいつは堂々と三田村の横に立ち、僕をはね返す。

辛いことがあるのなら、僕に話して欲しいと告げたくても、三田村は壁を作り、

メガネを外そうとはしない。


「祐作、残ったお好み焼き、ラップしたから悟の非常食にでもする?」


母の問いかけは聞こえたが、返事をするのが面倒だった。今、悟の腹のことまで、気がまわらない。


「三田村さんって、ずいぶん複雑なご家庭なのね。本人には、何も言うことないのに……」


その言葉に僕が視線を向けると、母はアイツが置いていった、ライブハウスへの地図が書かれた

名刺を左手に持ち、右手でテーブルを拭いた。最後の、のに……が、息子へ母からのアドバイスに

聞こえ、アイツの話に楽しそうにしていた中でも、ちゃんと母としての仕事は、

忘れていなかったのだと思う。僕の心が三田村へ向いていることに気づき、しっかり杭を入れられた。


「家庭の複雑さは、うちだって言えないよ」

「エ……まぁ、そうだけど……」


言ってしまった後に、母にはキツイひと言かと後悔したが、今の僕にはそうして自分の気持ちを

保つことしか出来なかった。母が悟への土産をあれこれ詰めている間に、

テーブルの上に置かれていたアイツの名刺を僕はポケットに押し込んだ。





家に戻り、来週都合がいい日を教えて欲しいと、三田村にメールを打ったが、

返事は『気にしないでください』の繰り返しだった。3度、同じやりとりをした後、

腹が立ち携帯をソファーに叩きつけそのまま横になる。背もたれにかけていた上着のポケットから、

ライターを取り出し、もう一度じっくりと見た。


「ただいま……」


あまりに色々なことがあったからか、悟が部屋に入ってきたことにも全く気付かず、

手に持っていたライターをいきなり取り上げられた。慌てて起き上がり取り返そうとするが、

手が届かない。


「おっと……祐作。ずいぶん怪しい店に出入りしてるんじゃない? なんだかいやらしいイラストが
書いてあるじゃないのぉ。なんだよ、これ……」


無理に奪い返そうとすると、逆に疑われると思い、無理して冷静を装った。冷蔵庫へ向かい、

飲みたくもない牛乳を取り出し、コップに入れる。


「接待か、接待だろ。いるんだよな、こういう店で、女の子に触りまくる親父。
そういうやつに限って、結構偉いポジションにいるから不思議だよ……」


下着が見えるようなスカートを履く女性の姿を、誇張したイラストに、悟は僕と同じような感想を

持った。ただ、悟はそれを部外者として見ればいいが、僕はそう客観的には見られない。


「ん? 住所が福島だぞ。お前いつのまに福島に行ったんだよ」


細かいところにまで、目がいく男だ。だから掃除が好きなのかもしれないが。


「違うよ、ライターがなかったから、部長の机からちょっと借りたんだ。
まさかそんな店のだとは思わなくてさ」

「あ……そうか。そうだよな、お前が福島まで行くなんて、考えられないもんな」


魚沼部長のものだと咄嗟にウソをついた。そんな店……と言ってしまった時に、仕事に失敗して、

下を向く三田村が見えた。アイツが僕にこれを渡したのは、三田村の過去を教えるためなのだろうが、

彼女の見せてきた顔と、どうしてもこのイラストを一緒にすることが出来ない。


悟が風呂に入る音が聞こえる中、僕はブログを開く。三田村はメガネをかけたまま、

僕を避けようとするが、『ぺこすけ』は少しずつ本当の顔をのぞかせる。


      >今日は、神園通りにある、小さなワッフルを買って食べました。
       味は3種類だけど、プレーンが一番美味しいですね。


なんてことないコメントを載せ、ぺこすけが食いつくのを待つ。それとも、今日はこのまま

顔を見せてくれることはないだろうか。


一度PCを離れ、風呂でカラオケ状態の悟を追い出す。アイツがまだ部屋にいて、

ブログを開ける状態ではないかもしれないが、それでもどこか自分との結びつきの方が強いのだと

思いたくて、僕は風呂を出てから、彼女のコメントを確認した。


      >あ、私も食べました。美味しかったよ
       もしかしたら、知らないうちに会ってたのかも


ぺこすけの書き込み時間を見ると、今から2分前で、僕はすぐに返事を入れる。


      >誰と食べたんですか? 私は友達ですけど
       もしかしたら、この間の人とか?


そう打ち込んだ後、冷蔵庫に向かい冷えたミネラルウォーターを取り出した。悟は携帯を片手に、

琴子とにやつきながら電話をし、悩みなど何もないような大笑いをする。

二人はゴールに向かって一直線なのだろうと、僕は部屋に戻る。


      >うん、そうなの。偶然一緒に過ごせる時間があったから。
       でも、もう無理。
       これ以上近づいたらダメだって、今日気付いたの
       遠くで見ているだけにしないと


アイツとどんな会話をしたのだろう。アイツは三田村に何を償わせるのだろう。

遠くに目指すものが見えるのに、そこまでの道が全くわからない。

僕は糸を手繰り寄せるように、返信する。


      >どうして近づいたらダメなんですか?


その返信の答は、PC前に1時間いても届くことはなかった。

いくらブログで顔が見えないからといって、少し突っ込み過ぎたかと思いながら、

PCの電源を切ろうとマウスをあわせる。


それでも彼女の性格から、何かしらのコメントが戻る気がして、指が動かない。

ふと時計を見ると、あと2分で日付を越えるところだったので、自分に区切りをつけるため

その2分、彼女からのコメントを待つことにした。


リビングで鼻歌を歌う悟が冷蔵庫を開ける音がして、外でネコが鳴く声がした。

そのあと何秒かして、長針と短針が僕の目の前で重なり合う。


そしてもう一度調べてみると、『ぺこすけ』から、たった7文字の答えが、届いていた。


      >私の宝石だから


決して声に出さない三田村の苦しさが、僕の心を締め付けた。





29 心のままに へ……




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コメント

非公開コメント

せ…セツナイ[i:63955]

お久しぶりです。
読み終え、三田村ちゃんのを思うと、胸がキューっとなりました

祐作、どうするのかな。勝手にいろいろと想像しちゃってます。

続きが気になり悶えてます。ももんたさん、次回待ってますね

祐作!

あーーーもう!!!!!もどかしい!!!!v-412
祐作何とかしなさい!!!v-217望が拒もうと、アイツがなんと言おうと、母がどう思うと、そんなに気になるならここ一番決めなさい!
【自分の宝石】とまで言われたのよv-353

琴ちゃんの妊娠はどうなったのかな?悟はまだ知らない?それとも違ったのかな?
気になるv-292

あ~どうして!

もう~もう~もう~イライラするよーーv-217

望は何が言いたいのか?これがまた気になって、もう~!v-56

祐作がんばれ!!これしかないねv-221

琴子ちゃんと悟くんはどうなの?こっちも気になるv-190





どんどん、膨らまそう!

milky-tinkさん、こんばんは!

ちょっとあれこれあり、お返事遅れてごめんなさい。


>読み終え、三田村ちゃんのを思うと、胸がキューっとなりました
 祐作、どうするのかな。勝手にいろいろと想像しちゃってます。

はい、想像して下さい。
そこが、創作の楽しいところですから。
1話が短いので、たった一日の出来事で、何話分かを使ってますが、
まぁ、のんびりお付き合いを

!!!

yonyonさん、こんばんは!


>あーーーもう!!!!!もどかしい!!!!
 祐作何とかしなさい!!!望が拒もうと、アイツがなんと言おうと、
 母がどう思うと、そんなに気になるならここ一番決めなさい!


あはは……、怒らせちゃったよ(笑)
24話の最後からここまで、たった1日のことを書いているからね。
進まない……でしょうけど、祐作の視線からしか書けないから、
急激には動かないのよぉ……

ちゃんと頑張るから、もうちょっと待って!

悟コンビのことについては、後から出ますよ

~~~

beayj15さん、こんばんは!


>もう~もう~もう~イライラするよーー
 望は何が言いたいのか?これがまた気になって、もう~!


あぁ、こちらも怒らせてしまった(笑)
24話から続く1日の出来事なので、許して!
祐作は、ちゃんとこれから動きますので(笑)

琴子コンビについても、後ほどでございます。

後ほどだらけだわ(笑)