21 約束 【21-1】

21 約束


【21-1】

12月26日。

今日は伯父と会う日。

後藤の両親が、どういういきさつで僕を引き取り育ててくれたのか、

それを知ることが出来る、最後のチャンスとなるだろう。


「おはようございます」

「おはよう」


クリスマスを挟み、出社は半分ずつになる。

生田は実習を終えて、『半田自動車整備』を出て行った。

あいつが使っていた机の上が、片付いているのを見ると、少し寂しい気もする。


「今日も何もないだろう、のんびりやろう」

「はい」


今日の担当は、僕と社長。

1年の汚れを落とす掃除も、大詰めになっている。

いつもなら、洗濯物を干す奥さんだけれど、今朝は早くから出かけてしまった。


「おめでた?」

「あぁ、昨日の夜だよ、いきなり晴美から電話が入って。
クリスマスプレゼントをやるっていうからさ」

「そうなんですか」


クリスマスの夜、社長たちに届いたのは、

一人娘の晴美さんに、赤ちゃんが出来たという報告だった。

聞いただけでは落ち着いていられないと、

奥さんは朝から晴美さんのところに向かったという。


「女っていうのは、なんであぁなんだろうな。私がいなければダメなのみたいに、
突っ走っていったよ」

「嬉しいんですよ、きっと」

「まぁな」


そういう社長の顔も、当然ながらゆるみっぱなしだ。


「爺ちゃんも、もうひと踏ん張りしないとならないな、これは」

「そうですね」


来年の夏だろうか、秋だろうか、

『半田自動車整備』で赤ちゃんの泣き声が聞けることになるらしい。


「ほら、歩、そっち持ってくれ」

「はい」


心なしか張り切って見える社長と、その日はのんびりと過ごすことになった。





伯父には7時くらいまでに社内に入るように、言われていた。

遅くなると、受付がなくなり、警備の方を通らないとならないからだ。

あらかじめ話をつけてくれていたのか、すぐに通るようにと指示を受け、

僕はまず、延岡さんのいる秘書室を目指す。

スーツ姿のサラリーマンと一緒にエレベーターに乗り込み、

少しずつ速くなる鼓動を、呼吸でなんとか抑えた。


「すみません、ご迷惑をかけます」

「いえいえ、社長からは話を聞いておりますので、
あと1時間はかからないと思いますけれど、社長室でお待ちください」

「はい」


以前、納車の日に通してもらった社長室。

あの日と同じようなレイアウトになっていたが、テーブルの上には、

新しいポスターが置いてあった。


「『SAKURA』……ですか」

「はい、春の新商品です。部長の売込みがよくて、予約もずいぶんついているのですよ」


『部長』


「あの……拓は」

「おそらく、店舗めぐりだと思いますが……」

「そうですか」


遥さんのことがあってから、あいつは工場に顔を出していない。

今更、何を言わなければならないと言うことはないが、

このままずっと会わないわけにもいかない気がした。


「コーヒーでも、お持ちしましょうか」

「すみません」


延岡さんは、頭を下げると、社長室を出て行った。

僕は一人、広い空間に残される。

おそらく、こういう時間があるだろうと思っていたので、

今日は『1級』の問題集を持ってきている。

ソファーに腰かけ、テキストをめくった。

問題集に集中していると、扉が開く音がした。

そういえば、ここが伯父の社長室だったことに気付く。


「すみません……」


人が歩く音がしたので、コーヒーを運んできてくれたのだろうと、顔を上げると、

そこに立っていたのは、書類を手に持った拓だった。


「拓……」

「歩……お前、何しているんだここで」

「うん……」


拓にこの場で会うとは思わなかった。

何をしにきたのかと言われ、一瞬、言葉に詰まる。


「今日は、伯父さんに話があってさ」

「話?」

「うん……」


僕が後藤の息子ではないことなど、拓は知らないだろう。

もし、そうだということが知られたら、今度こそ、援助など必要ないと叫ぶだろうか。


「『MORINAKA』に入れてくれとでも、言うつもりか」

「……は?」

「僕が、あなたの片腕になって働きますとでも、宣言するのか」

「何を言っているんだ、拓」


拓の反応は、予想外のものだった。



【21-2】

『真実』を前に、苦しむのは、歩だけではなくて……
『なぜ』 『どうして』の思いは、ただ一つの願いに、変わり始める。
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