21 約束 【21-5】

【21-5】

「君、本気でそんなことを言っているのか、違うだろ。大人をからかうのはよせ」


ニュースで見るだけだと思っていたのに、

無視すればいいと思いつつ、腹が立ち始める。


「ふざけたことを言って、本気にされたらどうするんだ。
家の人も、君を待っているだろうから、早く帰れ」




『思うような結果にならなくても……』




遥……



僕を信じ、待ってくれている人がいる。

彼女の精一杯の思いを、僕は受け止めた。



何があっても、どんな話の内容でも、

こんなところで、くすぶっていていいはずがない。



「お金、ないんだよねマジで……。別に減るものじゃないし……」

「なぁ」

「うん」

「親に心配をかけるな。これ、やるから」

「は?」

「このコイン、君が好きにしていいから」


こんなところにいるべきではなかった。

早く、戻らなくては。


「親? 心配? 何言ってんの? 親なんてさ、心配なんてしないよ。
私、もう2ヶ月くらい家出しているけれど、一度も戻ってこいなんて言わないし……」

「そんなこと……」


女の子は、急に顔色を変え、僕のコインが入った箱を持ち上げると、

いきなりひっくり返した。店の中にシルバーのコインが巻き散らかされる。

近くに座っていた、親父たちが足元に転がってきたコインを、

我れ先にと拾い始めた。


「あはは……くれたんでしょ? だったらどうだっていいんだよね」


高笑いをする女子高生一人と、這いながらエサを求めるような大人たち。

店の店員が飛んできて、ブツブツ文句を言いながらコインを拾い出した。

僕も足元にあるものは、自分で拾っていく。


「親だの、大人だの、面倒なんだよ、バァカ!」


女子高生は、バッグを掴むと、そのままガムを噛みながら店を出て行き、

なぜか、その店の中では、迷惑な客だという視線が、僕に集中した。





とんでもない出来事が起こったおかげで、僕の頭は冷静さを取り戻した。

駅のホームまで戻り、携帯を取り出す。



『森中哲治』



伯父からの電話が、何回か入っていた。

きっと、飛び出した僕を心配してのことだろう。



『椎名遥』



僕は番号を呼び出し、ボタンを押した。

すぐに彼女の声がする。


「もしもし、歩だけど」

『うん……』

「今、駅にいるんだ。これから行ってもいい?」

『わかった、待っているから』

「それじゃ……あとで」


もうじき、夜の10時になろうとしている。

一人暮らしの女性の部屋へ、行くのは失礼な時間だけれど、

でも、伯父の声を聴くよりも、祖母の声を聴くよりも、



どうしても、彼女の声が、聞きたかった。





駅の改札を出て、彼女のマンションに向かう。

曲がり角を過ぎて部屋に灯りが見えたとき、ほっとするような、申し訳ないような、

なんともいえない気持ちになった。

インターフォンを押すとオートロックが解除され、僕はそのまま階段を上がる。


もう、落ち込んだ顔をするのはやめよう。

どんな結果が出ても、どういうことになっても、過去に迷わされないと約束した。

『今』を大事にしようと、僕を待ち続けている人に対して、

これ以上心配をかけたくない。

2階から3階に上がり、扉の前に立り、大きく一度深呼吸をした。

あらためてインターフォンを鳴らす。

部屋の中から、『パール』の吼える声が聞こえてきた。


「お帰り……」


扉を開けてくれた彼女の言葉と、一緒に出てきたのは、

炊き立てのご飯の香りだった。

横から飛び出てきた『パール』が、僕を歓迎しているのか、嬉しそうに立ち上がる。


「ごめん、夜遅いのに」

「ううん……必ず来てねって約束したもの。よかった、忘れていなくて」

「うん……」


忘れるわけがない。

遥さんがここにいることを思い出し、僕はくだらない時間から抜け出した。

靴を脱ぎ、温かい部屋の中に入る。


「お腹空いているでしょ、歩さん」

「ん? うん……」

「飛び出てしまったって、半田社長の奥さんから電話があったの」

「奥さん?」

「おじ様が、歩さんの電話にかけても出ないから、半田社長の家にかけたみたい。
それで、奥さんが心配して、私に電話をくれたの」

「そっか……」


いきなり飛び出した僕のことを、伯父が心配してくれているのは、

何度も入っている着信記録でわかったけれど、折り返す気持ちにはなれなかった。



【21-6】

『真実』を前に、苦しむのは、歩だけではなくて……
『なぜ』 『どうして』の思いは、ただ一つの願いに、変わり始める。
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