22 片隅の記憶 【22-2】

【22-2】

慌しい年末が終わり、また新しい年がやってきた。

年末年始で1週間くらい休みが取れたため、もういいよというくらい眠り、

いつも頑張ってくれるバイクの手入れをしっかりとする。


「そうそう、そういうふうに包丁を使うといいよ」

「はい」


約束どおり、遥は年が開けてから、祖母に料理を習うことになり、

僕も、日曜日に休みを取った。

自分が何も出来ない未熟者だと言った遥に対して、祖母はそれでいいと頷き、

僕はただ見ているのも手持ち無沙汰なため、同じくすることがない『パール』を連れて、

少し長めの散歩に出た。


『美味しいものを作って待っているからね』

部屋を出る僕に、祖母はそう言ってくれたが、果たして大丈夫だろうか。

やる気だけはあるけれど、遥の実力は未知数だ。


「ほら、『パール』」


川沿いを歩き、商店街の横を抜け、今日は駅の奥にある場所まで向かった。

ここは、新興住宅地として急に開発が進められたところだ。

10階建てのマンションがいくつか並び、その中心に小学校も作られた。

緑の多い場所なので、犬の散歩にはいい環境だろう。


「ん?」


どうしたのだろう。『パール』は急に歩を止め、うなりながら必死に爪を立てている。


「どうした『パール』。この中を1周して帰ろう」


こんな『パール』は初めてだった。子犬として拾った後、

しばらくアパートに連れて帰っていたけれど、近所の目もあるために、

外へ散歩には行かなかった。彼女のマンションからではここは遠いし、

今まで来たことなどないだろう。


「『パール』」


歯をむき出しにして、さらに強くうなり声を上げる。

特に他の犬がいるようには思えないし、そばにネコがいるわけでもない。


「行きたくないのか」


僕は少し歩いた足を戻し、住宅街に背を向ける。

『パール』はほっとしたのか、すぐに横に張り付くようになると、

また元の道を歩き出す。

先ほどまでの威嚇した顔はどこにもなくて、

時折スズメを見つけては、追いかけようとするいつもの『パール』に戻っていた。





「へぇ……『星の丘』で?」

「うん。そこまで何もなく歩いていたのに、そこで急に動かなくなって」


僕は、遥に行ったことがあるのかと聞いてみる。


「『星の丘』には一度も行ったことはないわ。うちからだと少し遠いし、
川沿いに出てあげた方がいいかなと思って」

「だよね」


心配していたけれど、色々とチャレンジ出来たのだろうか、

祖母がよく作るおかずが、テーブルに並んでいく。

少し太めに出来た『きんぴらごぼう』。遥の奮闘ぶりが見えてくる。


「もしかしたらさ、捨てられたのかもしれないよ、その近くの人とか、
住人さんとかに……」

「ん?」


祖母は、『パール』の中に、本当は悲しい記憶が、

しっかりと残っているのではないかとそう言った。

『パール』は祖母になでられて、嬉しそうにお腹を出している。


「そうかもしれないですね、『パール』を捨てた人が、あそこに住んでいるのかも」


道路沿いの茂み。

『星の丘』からなら、確かに直線で下りてこられる場所だ。


「そっか……」


そうだという確信はない。でも、そうなのだろうと思えて仕方がなかった。

記憶を持つのは、人間だけではないはず。

『パール』の出発点は、決して恵まれていたものではなかった。


「『パール』、ほら、お食事しようね」


遥は、『パール』のお皿を出すと、いつも食べているというドックフードを入れた。

『パール』は嬉しそうに尻尾を振ったが、

またすぐに僕達の食卓のそばへ来てしまう。


「あらあら、人の食べるものの方が美味しいって、知ってるんだね」

「社長が、いつもあげちゃうって、奥さんが嘆いてました」


遥は、それはみんなに愛されているから仕方がないのだと、

『パール』の頭をなでてやる。

僕は、祖母と遥が笑っている顔を見ながら、次のおかずに手を伸ばした。





「ほぉ……」

「へぇ……」


『毎週金曜日』。祖母と遥の取り決めが出来たらしく、

僕の弁当は、金曜日だけ遥が担当することになった。

朝、『パール』を預ける時に、一緒に奥さんが受け取ってくれる。

今日は、その第1回目とあって、赤石さんと栗丘さんの視線が、お弁当箱に集中した。


「開けないの? 歩」

「開けないのではなくて、開けられないのです」


二人とも、遥が料理下手であることを知っているから、どんな状態になっているのか、

興味があるのかもしれないが、それほど張り付かれると、開けようがない。


「俊祐、少し離れなって。それじゃ、あんたの鼻息がせっかくのお弁当に入るでしょう」

「鼻息?」


奥さんのフォローがあり、少しだけ赤石さんが離れてくれたけれど、

その代わり、また奥さんの視線が入り込む。

それでも、いつまでもこうしているわけにはいかず、僕は蓋を開けた。



【22-3】

普段はしまい込んでいる片隅の記憶、
真実に迫るキーワードが、歩の元に届く。
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