24 光りの先 【24-2】

【24-2】

伯父は、拓と目を合わせて小さく頷く。


「それって『TEA』って、あの……」

「あぁ、そうだ。『TEA』さんの本名は森中朋子で、お前の母、道子の腹違いの姉だ」

「腹違い?」

「あぁ、お前のお爺さんは親しくしていた女性に子供が出来たことを知り、
認知をしたそうだが、一緒に暮らすことはなかった。
朋子さんのお母さんは小料理屋を経営していて、
経済的にも自立している女性だったからね。
だから、道子と朋子さんは、姉妹と言っても一緒に暮らしたことはない。
お前にとっては伯母さんになるが、まぁ、縁はないのと同じだ」


拓の母、道子伯母さんと異母兄弟ということ。

それは僕も初めて知った。

『森』よりも下になる『木』を選び、『中』よりも下になる『下』を選び、

『木下朋子』と名乗っていたのは、自分は外にいる娘だという、

本家への遠慮ということだろうか。


「姉と妹、両方に手をつけたってことか、親父」

「拓、落ち着きなさい」

「落ち着けるか。あの手紙にはそう書いてあった。二人に託されたって、そう……。
だからだろ、だから親父は歩をかわいがった」

「拓……」

「出来がいいのに苦労している歩が、かわいくてかわいそうで、仕方がないんだろ」



『朋子さんと兄さんに託された……』



拓も長い間、あの手紙の言葉に苦しめられてきた。

どうしたらいいのかわからない思いを、話す相手もいないまま。



「歩の父親は、私ではない」

「ウソだ」

「ウソなどつかない。お前たちの前でウソをついてどうする」

「……だったら誰なんだ」


『TEA』さんの相手は、伯父ではなかった。

僕は、誰だとわかったわけではないのに、気持ちがほっとする。


「それを今から説明する。とにかく落ち着きなさい」


僕がこの世に生まれてきた歴史。そして、後藤の親の元に託された理由。


「本当に、親父じゃないのか」

「当たり前だろう」

「でも……」

「確かに、景子の手紙にはそう書いてあった。『お兄さんと朋子さんに託された……』と。
それは、私が朋子さんに頼んだからだ」

「……頼んだ?」

「そうだ。生まれてくる子供を、妹夫婦の養子にもらえないかと」



『歩』

『歩は私たちの宝物です』



父さん、母さん。

血のつながりなど関係なく、僕を愛してくれた人たち。


「朋子さんの相手、つまり歩の父親は当時、政治家の秘書をしていた人だ。
やり手で、将来も有望視されていた。朋子さんも事情があるので、
結婚は出来ないと思っていたが、子供が出来たことに気がついた」


ある大物議員の秘書をしていた男性には、すでに縁談が組まれていて、

本人も将来のため、その道を進もうと決めていた。

『TEA』さんは別れを決め、子供が出来たことも告げずにいたと言う。


「始めは、朋子さんも自分一人で子供を育てていこうと思っていた。
が、仕事のこともあり、少しずつ芽の出てきた将来を期待し、
お金をかけてくれていたスポンサーの意向もあり、
子供はおろすべきではないかという流れになってしまった。
さらには、彼女のことを狙うカメラマンから、隠れなければならないようになって、
何も知らない、相手の将来に傷をつけたくはないと、
まだお腹が目立たないうちにアメリカへ……」


アメリカ……

『TEA』さんは僕をお腹に宿したまま、一人旅立った。


「お前が生まれたことを、父親である彼は知らない。
朋子さんも、歌手になりたいという夢を、諦めることが出来ず、
色々と悩んだ結果、私の提案を受け入れてくれた」


伯父の提案。

そう、僕を養子に出すこと。


「アメリカでは、森中家が仕事で世話になっているご夫婦の元で暮らしてもらった。
その、ごく普通の家族と過ごす中で、朋子さんも自分が一人で育てようとしても、
援助してくれる親はすでにいないし、結局、父親がいない生活になってしまう。
それならば、子供を欲しくても望めない二人に託した方が、
子供が幸せになれるかもしれない……と。そう考えてくれるようになった」


『幸せ』

そう言われてしまえば、そうなのだけれど……


「朋子さんも幼い頃から、母親と二人だった。
森中の義父、拓のお爺さんには正式な妻がいたため、家族が3人になることはなかった。
そんな子供の頃の寂しい記憶が、彼女の中にあったのだろう」


『TEA』さんのお母さんという人は、小料理屋をしていたと少し前に聞いた。

親も仕事でそばにあまりいない。そんな幼い頃の記憶が、

強く残っていたのかもしれない。



『仕事をしている母ひとりが、子供を育てる生活』



「私が、子供を望んでいるのに産むことが出来ない景子の事情を話し、
それを受け入れてもらった。アメリカで生まれた歩を、私が引き取りに向かい、
後藤の二人に託したんだ」



『お兄さんと朋子さん……』



二人の名前が並んだのは、そのことからだった。


「親父……母さんも知っているのか」

「あぁ、もちろん知っている。アメリカにいた頃の朋子さんを援助したのも、
道子からの頼みでだ。だからこそ、こうして歩を私が気にしていることだって、
何も言わずに受け入れてくれていた」


森中の血を引く姉の子供。

それを知っているから、今まで、僕は伯父の世話になれた。

伯父と母のつながりだけてはなく、朋子さんと道子さんの縁。


「最初に朋子さんと約束をした。子供を手放すことは辛いだろうけれど、
決して会いに行ったりしないようにと。歩は後藤の子供であり、
何があってもそれをねじ曲げたりしないことと」


『TEA』さんは、全てを受け入れ、その思いをバネして今まで歌手として生きてきた。

『仕事に誇りを持っているのか』と僕に問いかけたのは、

自分への裏返しもあったからだろう。



自分は突き進んできたという……思い。



「克信君と景子が、あのような形でこの世を去るとは思っていなかった。
景子は、歩が成人式を迎えて、色々なことを冷静に考えることが出来るようになったとき、
事実を話したいとそう言っていたが、それは叶わなくなった」


父と母は、僕に全てを話してくれるつもりだった。

その気持ちを思うと、胸が痛くなる。


「りつさんには、本当に養子斡旋会社から引き取ったということにしてあるんだ。
森中家の複雑な事情もあるし、克信君が、細かいことは話さなくていいとそう言ったので、
あえて言わなかった。だから、二人が亡くなった後、歩をどうしようかと考えたが、
りつさんは自分が引き取りたいと、そう言ってくれて」


ばあちゃん……


「もちろん、自分と血のつながりがないことはわかっている。
でも、息子夫婦が懸命に育てようとしたお前を、
手放すという選択肢は取れなかったのだろう。私が森中にと言ったときも、
それはと拒否された」


葬式の後、長い間話していたのは、こういうこと。

僕は何もわからず、現実を受け止めるだけで精一杯だった。


「一緒に暮らすようなことをしたら、歩も……それから拓君もかわいそうだと。
そうりつさんが言っていた」

「俺が?」

「あぁ……森中の家に育ててもらったら、自分にはその権利もないのに、
欲が出るかもしれないと」


小さなアパートに二人で暮らし続けて、ここまで来た。

贅沢は確かに出来なかったけれど、愛情はたくさん注いでもらった。

だから僕は、いまだに家事全般がまともに出来ない。


「これが事実だ」

「はい」


思っていたことと、さほど変わりはなかった。

でも、確認できたことで、少し心が落ち着いてくる。


「両親を思いがけない事故で亡くしたお前が、苦労をしているのではないかと、
いても立ってもいられなかったのだろう。日本へ戻ることになって、
朋子さんはお前のところへ行ってしまった。
『半田自動車整備』で、一生懸命働いている姿を見てほっとしたのと同時に、
自分の都合で、運命を背負わせたのではないかと、彼女なりに苦しんだ」


『TEA』さんは僕を知り、工場へきてくれた。

だから、誘導した赤石さんではなく、僕に仕事を頼んできた。

『スレイド』のチケットをくれたのも、自分の今を見せるためだったのかもしれない。



何かを感じてほしいと……。



【24-3】

僕は今、この場所に生きている。
『天使のはしご』から届く光と、優しい人の笑顔の元で……これからもきっと。
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