24 光りの先 【24-3】

【24-3】

「歩……」

「はい」

「朋子さんを恨まないでくれ。景子の事情を知り、強く頼んだのは私だ。
彼女はお前を育てていくつもりもあったし、愛情がなかったわけではないのだから」

「……はい」


『TEA』さんの子供として生きていたら、確かに今とは違った人生だっただろう。

でも、僕は話を聞きながら、あらためてこれでよかったという思いがわきあがる。



僕は今も……そして、両親と過ごしてきた時間も、十分幸せだと言い切れるから。



「拓」

「……はい」

「お前も長い間、手紙を見てしまったことで苦しんだのだな。気付かなくて悪かった」


伯父はそういうと、拓に向かって頭を下げた。

拓はそんなことはしなくていいと、目をそらす。


「『MORINAKA』は、これからお前を中心に動き始めるんだ。
私も役員たちも、お前の新商品展開を十分認めている」


『SAKURA』

そう、前にここへ来た時、拓が手がけているものだと、伯父がそう言っていた。


「歩も拓も、信じた道をしっかり進みなさい。
私は二人のためになら、何でもしてやれる」


『父親』

亡くなった父とは違った思いを、僕は伯父に持ち続けてきた。

堂々としていて、自分をしっかりと持っている人。

確かに、僕が頼めば力を貸してくれるだろう。

でも……



しばらく誰も話さない無音の時間が流れた。

それぞれが受け止めたことを、精一杯自分なりに解釈していく。


「さて、もう話がないのなら、俺は行くから」

「拓……」

「そうだな、打ち合わせで決めたことを、少しでも早く動かしなさい」

「あぁ……」


僕も、このタイミングで出ようとその場で立ち上がる。

伯父は、少し前にもらってきた洋菓子を、工場のみなさんと食べなさいと、

袋ごと渡してくれた。


「ありがとうございます」

「あぁ……」

「歩、お前はまだいればいい」

「いや、いいよ。なんだかお腹もすいてきたし」


僕と拓は同じようだけれど、同じではない。

それは伯父の視線を見たらわかる。


「伯父さん、ありがとうございました。本当に気持ちがスッキリしました」

「そうか、そう思ってくれたらそれでいい」

「はい」


そう、スッキリしたと言うのは、本当のことだ。

今という流れ以外の方法も、あったことはあったのだろうが、

それでは『TEA』という女性シンガーは、生まれなかった気がする。

素敵な歌声を聴けるのも、あの時の選択があるから。


「歩」

「はい」

「落ち着いたら、家に遊びに来なさい」

「はい……」


いつも伯父がくれる言葉をもらい、僕は拓と一緒に社長室を出た。

重たい扉が閉まり、僕は拓の後ろを歩く。


「歩……」

「何?」


森中拓。

拓は拓なりに、色々なものを抱えて生きてきた。

理不尽な態度に、腹を立てたこともあったが、今となってはどうでもいい気がしてくる。


「車、そろそろオイルの交換だ、また、持っていく」

「……うん」


今までの拓とはまるで別人だと思えるくらい、僕を見た表情が柔らかかった。

この真実を語ってもらった時間の中で、きっと拓も感じることがあったのだろう。

エレベーターは先に下へ向かうように降りてきた。


「乗れよ」

「うん」


何も言わない拓との間を、エレベーターの扉が流れていく。

ウィーンという音がし始め、僕の体は下へと移動した。



『拓と歩のためなら……』



伯父は最後にそう言ってくれたけれど、僕と拓は違う。

なぜなら、言葉を発していた伯父の目は、ほとんど拓を見ていたから……



それが……

親というものだろう。



【24-4】

僕は今、この場所に生きている。
『天使のはしご』から届く光と、優しい人の笑顔の元で……これからもきっと。
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