1 才能の種類 【1-1】

1 才能の種類

【1-1】

オーブンからいい香りがし始めた。

そう、これが焼けたら、冷蔵庫に入れてあるサラダを出そう。

幹人が好きな『ドレッシング』は確か……


「あ……」

「どうした」

「ごめん、やだ、ドレッシングがない」


少しチーズの入った『シーザードレッシング』

買ったつもりで、忘れていた。


「いつもの?」

「うん……そう」

「他のものは」

「あるにはあるけど……」


どこかのレストランが監修しているものだって、初めて幹人にもらってから、

サラダを食べるときには、いつも使っている。

今日だって、それを意識して、クルトンを散らした。

私は時計を見た後、エプロンを外す。

最寄りのスーパーまでは、自転車なら3分もあればつけるはず。

あれこれ迷っているよりも、行ってしまった方がスッキリする。


「すぐに買ってくるから、ちょっと待っていてくれる」

「今からか?」

「うん……ごめんね。幹人が来るのはわかっていたのに。
冷蔵庫の中、見たつもりになっていたわ」


幹人は部屋の奥で寝転がりながら、なにやら難しそうな経済誌を読んでいた。

その目が、壁にかかる時計に向かう。


「いいよ、知花。それなら俺が行くから」

「……でも」

「オーブンも見ないとならないだろう。焦げたような食事は、嫌だしさ。
それにお前が抜けているのは、今に始まったことではない」


幹人はそう言うと軽く笑みを見せ立ち上がり、玄関へ向かう。

私は、軽い嫌みをぶつけてくれた彼の背中に向かって、

精一杯の『ごめん』をお返しし、それに気付いた幹人は、軽く手を上げ扉を閉めた。




残りの準備は、全て順調。

幹人が戻ってくれば、すぐにでも食事が始められる。

私はテーブルのそばに置いたままのバッグを持ち、部屋の奥へ入れようとしたが、

少しだけ見えた1枚の紙を取り出した。



『ランプの置ける、コーナー家具』



あるペンションから直接注文を受けた、仕事の話。

あれこれみんなで意見を出し合った結果、デザインが決まった。


「はぁ……」


『どうして私に、このアイデアが出なかったのだろう』と、

同僚のデザイン画が採用されると、いつも繰り返しそう思う。

頭の中にはそれなりのものが浮かんでいるのに、しっかり形に出来ずに、

結局、どこかから崩れ始め、最後には諦めてしまう。



『DOデザイン』



私が働いているのは、社員が10名もいない小さなデザイン会社。

社長の名前が『土居信太郎』だから、『DOデザイン』。

予算も限られているし、規模も大きくはないから、宣伝もなかなか出来ない。

6年も世話になって申し訳ないけれど、

正直、第一希望の会社でも、第二希望の会社でもなかった。

しかし、色々厳しい時代の中で、縁があった会社。

そして、下手なのに、大好きなデザインに関われることが魅力で就職を決めた。

頼りになる先輩方と、形にこだわらない社長の温かい気持ちのおかげで、

こんな私でも、ここまで頑張ってこられたのだとそう思う。



でも、それもあと……半年。



『知花には、俺の嫁さんになって、美味しいものを作って待っていてほしい』



日本でも有名な一流家具メーカー、『林田家具』のトップ営業マン。

それが私の結婚相手、『黒田幹人』。

彼とは、とある仕事で知り合った。

物事をハッキリと決めることが出来て、

周りに流されることのない自分を持っている幹人に、私は自然と惹かれていった。

始めは、数名で会うことが続き、正式に『つきあってほしい』と言われたのは、

1年半くらい前のことで、交際はそこから始まりここまで進んできた。

来年の春、さらなる出世を目指し、

カナダに出来る営業所へ転勤となることが、ほぼ決まっている幹人は、

私に、一緒に来てほしいとそう言った。



『結婚して、俺の目標を一緒に追って欲しい』



そう、プロポーズされたのが、今から1ヶ月前のこと。



私の幸せは、きっと……

この先の人生にあるのだろう。


好きな人と、明るく笑える家庭を築いていくこと。

きっと、そうに違いない。



大好きだったデザインの『才能』はなかったけれど、

それは、今さら仕方のないことだから。




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《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【長峰知花】
この物語の主人公。年齢は28歳。
デザインの仕事が好きなのだが、自分の思いを言葉に出すのが苦手。
料理、裁縫など、女性的な仕事は得意。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


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