2 二度目の謝罪 【2-2】

【2-2】

「まぁ、でもなぁ。『結婚』だもんな。おめでたいことだ。
長峰が決めたことならそれなら仕方がない。あと半年しっかりやりなさい」

「はい」


二人に頭を下げて振り返ると、三村さんと目があった。

私は、すぐにそらすとそのまま席に戻る。


この瞬間が、一番勇気のいるところだけれど、黙っているわけにはいかない。

私は今日、退社するわけではないし、乗り越えないと。


「三村さん、昨日はごめんなさい」


椅子の方向を変え、そういきなり切り出すと、

三村さんは、驚くような顔で私を見た。

なんだろう、あれだけガンガン言っていた女が、ずいぶんしおらしいなとでも、

思っているのだろうか。


「昨日は、失礼なことばかり並べてしまって、ごめんなさい。
本来ならその場で謝るところなのに、私、どうしようもない意地っ張りな面があって、
あのまま帰ってしまいました」


そう、逃げ出してしまったと言った方が、正しいかもしれない。

ぶつけてくれたセリフの内容は、三村さんの方が正しかったから。

それでも、『いいえ』とか『気にしなくていいですよ』なんて明るく言ってくれたら、

気持ちが切り替わるのに。



三村さんは黙ったまま。



「この仕事を馬鹿にしたわけではなくて、むしろ、本当はこの仕事が好きなのに、
何も出来なかった自分自身に腹が立っていたというか……」


そう、私はこの仕事が好き。

木の香りにつつまれて、人の幸せを手伝える仕事なんて、他にはないはず。


「結婚を決めているのも自分だし、それに納得しているのも自分なのに、
あなたがこれからって気持ちでここに入社して、それに……」




あんなふうに、素敵なデザインを描いてしまうことに……




「ものすごく、嫉妬したのだと思います」




そう……私は三村さんに嫉妬している。




実力もあって、時間も未来もある人。





もう、話すことがないのに。





相当怒らせてしまったのかもしれない。

これだけ言っても、何も言葉が返らないなんて。





あと半年、どうしよう。





「すごいですね……長峰さんは」


三村さんの顔が、急にそこから優しくなった。

『すごい』なんて言われるようなこと、私は何もしていない。


「すごいって、どういうことですか?」

「すごいはすごいですよ。
俺、正直、今日、あなたの顔を見たくないと思ってここに来ましたから」


ケンカをした次の日、確かに顔を合わせるのは気まずい。


「作ってしまった壁を、どうしようかとそれなりに思っていたのに、
長峰さん、あっという間にぶち壊したし」

「ぶち壊しって……」

「いやいや、表現が悪いですね。取り払ってくれたってことです。
すみません、俺も、すごく楽になりました。
こちらこそ、言いたいことを言わせてもらった気がして、申し訳ないです」


三村さんは、そういうと、ペコリと頭を下げてくれた。

よかった。


「それにしても嫉妬って。あなたが俺に? そんな必要ないでしょう」

「ううん……」

「これ……」




あ……




「これ、色をつけてデザインとして膨らませたの、長峰さんでしょ?」


三村さんが開けた、机の一番上の引き出しから出してきたのは、

昨日、ゴミ箱から拾ってゴミ箱へ返した、あのデザイン画だった。


「俺が、以前お世話になった家の家具が、すごく魅力的なもので、
頭の中に残っていたイメージを、とりあえず紙に興してみたら、
あなたが形にしてくれていて……」


三村さんに気づかれていた。私が拾ってしまったこと。


「これを見て、もっと発展させてみたくなりました。長峰さんの色使い……」

「違う」

「違う?」

「私じゃないです」

「は? だって、昨日、長峰さんの右手を帰りに見た時、
ペンの茶色がしっかりついていましたよ」

「あ……」


そうだった。夢中にあれこれ塗っていて、

自分の手に、色がついていることを忘れていた。

三村さんのデザインに、勝手に付け加えたことがばれてしまった。

そんなつもりはなかったのに。


「なぁ三村、いいなぁ、これ」

「あ……はい」


伊吹さんが、なにやらプリントを見ながら手招きしたため、

三村さんは立ち上がると、そのまま向こうへ行ってしまった。




【2-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【黒田幹人】
知花の婚約者。年齢は32歳。
大手家具メーカー『林田家具』のトップ営業マンという自信もあり、
女性を引っ張っていくタイプ。

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