3 水と油 【3-3】

【3-3】

確かに、直線にしてシンプルにした方が、造りも楽になる。


「まぁ、そうね。確かに曲線よりも直線の方がスッキリに見えるは見える」

「あ……はい。高級ペンションなのですから、
材料は『ウォルナット』あたりでもいいと思いますし、
色は少し濃いものに仕上げて、重厚感を出せば……」

「重厚感を出して重く見せたら、部屋全体が暗くなりますけどね」


また、三村さん……

どうして私の意見に、噛み付いてくるのだろう。

握った両手に、じんわりと汗をかいているのがわかる。

悔しさにさらに強く握り締めた。


「部屋が暗くなると言いますけれど、カーテンの色彩もありますし、
それに、年配の方を意識した部屋作りですよね。だから……」

「うわぁ……つまらなくないですか」



つまらない……



「概念があるのもわかります。こうだからこうなる、
こうなったらこうしなければならない。でも、デザインをする俺たちが、
そういうのにこだわり始めたら、発想なんてないも同じでしょう」


言い返してやりたいのに、言葉が出ない。

『それは違う』と言えるくらいの思いが、私にはない……



心のどこかで、『カーブ』も魅力的だと思っているのも、間違いないから。



「70点を取ればいいと思えば、長峰さんの言うとおりここは直線で、
色もダークで行くべきです。でも、70点を取ったら、きっと次はないですよ」



70点

誰からも文句を言われない、平均的なもの。

それは、誰でも思いつくということを意味している。


「何、怯えているんですか……」

「怯えている?」

「そうですよ。何かに怯えて、そこから外れないようにしようとするから、
長峰さんのアイデアには、幅がない。
何も考えずに思うままを描いたこの間のデザイン画の方が、よっぽど魅力的だ」

「ちょっと、三村君」


小菅さんの制止にも、三村さんは何も動じず、どこか問題でもあるのかと、

涼しい顔を見せた。事務所内が、凍りついたように静かになる。

三村さんの目は私を見たままで、来るなら来いという表情が、そこにあった。

ここで言い返せば、また……


「コーヒー飲む人!」


優葉ちゃんがそう大きな声を出し、社長が大きく手をあげた。

伊吹さんも小菅さんも、遅れて手をあげる。


「三村」

「はい」

「お前、長峰と組め」

「は?」

「それでバランスが取れる」

「社長、あの……私……」


社長は用紙を机に置くと両手を広げ、私と三村さんの発言を、

同時に止める仕草を見せた。


「いいか。直線でスッキリ感を出そうとする長峰の意見もわかる。
ただ、三村が言うとおり、規定から外れないだけインパクトもない。しかし……」


社長の視線が三村さんに向く。


「三村の曲線も、現実味にかける」

「……かけますか?」

「あぁ、かけるね。お前、これだけの大きさの家具にカーブをつける工程を入れたら、
予算がどれだけ余計にかかる?」

「ん? あ……まぁ……」

「アイデアはいいけれど、それには現実が必ずついてくるものだ。
平面が立体にならなければ、それはお絵かきに過ぎないからな」



『お絵かき』

思わずおかしくて、口元がゆるんだ。

三村さんの目がこっちを見ている。


「二人で意見をぶつけあってみろ。もしかしたらいいものが出来てくるかもしれない」

「でも、社長、私」


この家具が出来ていくのは、秋以降のことになるだろう。

私はそこまで、仕事に関われない。


「辞めるその日まで、しっかりやってくれないと、給料は出ないよ。
我が社は小さな会社なんだからさ」


社長のその一言があり、私は三村さんとコンビを組むことになってしまった。




【3-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【三村紘生】
知花の同僚。年齢は31歳。
外国を数年旅しながら、デザインの仕事に携わってきた。
知花の『チェスト』に感動し、『DOデザイン』に入社。まだまだ謎の多い人物。

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