3 水と油 【3-6】

【3-6】

アクセルを踏みスピードが上がる音、ブレーキで速度が落ちていく音。

左折、右折の音、時々聞こえる外からの音。


『園児発言』に、ふわりと明るくなった気持ちがしぼんでしまい、

世間話をする気持ちにもならないので、

こうなったら目に入ってくるものにでも頼ろうかと思ったが、

目立つ店もなく、緑色が増えていくだけで、あまり変化がなくなっていく。


「友達かぁ……」


三村さんから聞こえる、つぶやくような声。

まだ、友達のこと、考えていた。


「でも、俺から言わせて見たら、友達の数が多いなんていうやつは、
本当の友達を持っていないやつでしょ。メールをやりとりするとか、
電話番号を飲み会で交換したとか、そんなの友達ではないし」


上から言ってみたつもりが、ガッチリ正論を返された。

確かに、『友達の多さ』を自慢する人って、

やたらにアドレスの登録件数をアピールすることが多い。


「まぁ、そうですけれど……」

「心の内をさらけ出せる相手なんて、一生に一人か二人出れば、十分ではないですか」



『心の内をさらけ出せる相手』



確かに、そう言われてみたら、そうかもしれない。



「数なんて必要ないです。本当の自分をわかってくれる相手と、
俺はじっくり付き合いたいですけどね」



『本当の自分』



「本当の自分……」

「意外に、自分ではわからないものですから」


私は今、本当の自分なのだろうか。

笑ったり、怒ったり、泣いたり、どれも自分だけれど……


「キャー!」


いきなり予告なしに大きく車が曲がり、私はバランスを崩し、

慌てて前部分をつかんだ。運転席で三村さんは楽しそうに笑っている。


「ちょっと、三村さん。危ないですよ」

「危なくないでしょ、シートベルトはしているし。
ちょっと、ジェットコースターに乗っている気分じゃなかったですか?」

「は? ジェットコースター?」

「ほら、ここから二度ヘアピンカーブです」

「あ……そういうことは、もっと早く言ってください」


今度は逆方向に車が曲がり、私はまた慌てて手を動かした。

全く、人のことを『園児』などと表現しておいて、

こんなことして笑う三村さんの方が、よっぽど幼い。


「いやぁよかったですね、長峰さん。ベルトがなかったら飛ばされてますよ」

「何を言っているのですか」


あまりにもばかばかしい走り方だったけれど、

そこからは退屈で仕方がないようなことは全くなく、

気付くと目的地が目の前になっていた。





「はじめまして、戸波陽平です」

「こちらこそはじめまして、長峰知花です」


私たちが到着すると、戸波さんはすでに待っていてくれて、

住人である宮村さんも、縁側でお茶を飲んでいた。

私は名刺を出し、こういう機会を作ってもらえたことに感謝する。


「いえいえ、紘生の頼みとなったら、断れませんから」

「断れない? 何か……」

「何もないですよ。ただ、後が怖くて」


戸波さんはそういうと、三村さんの方を見ながら、楽しそうに笑い出した。

三村さんは車のカギを閉め、何を言っているのだと返事をする。


「あぁ、もう、いい加減なことを言わないでくださいよ。
戸波さんが、俺の何を怖がるんですか」

「は? 何ってお前の『行動力』だよ。ついにここまで来たかって……」



『行動力』

ついにここまでって、どういう意味だろう。



「行動力なんて格好のいいものじゃないですよ、俺は」

「そうか?」

「はい。さぁ、長峰さん。早速見せてもらいましょう」


戸波さんの話を断ち切るように、三村さんは宮村さんの家に入っていった。

私もその後に続き、雑誌に載った桐箪笥を見る。


「これですよ、箪笥」

「はい……」


古い箪笥だったのだろう。それを磨いて、さらに細工することで、

全く新しいものになっている。箪笥の引き出しは、深いものだったが、

宮村さんが歳をとって力が弱くなったので、浅めのものに作り直し、

引き出しの数を増やすことで、負荷を減らした。

目で見て、手で触れて、そうすることで見ていたデザインが平面から立体に変わる。

その引き出しにも、戸波さんが大工だとわかる細工が施されていた。

大量生産し、提供する家具とは、全く違う、

その製品を必要とする、『たったひとりのため』のもの。





「はぁ……」


宮村さんの家を後にして、私たちは戸波さんの工場へ向かうことになった。

戸波さんが運転する軽トラックの後を、

三村さんが運転する、この軽トラックがついていく。

道は、さらに山道らしくなり、カーブやアップダウンが続く。


「どうでしたか。実際に見てみて」

「すごく素敵でした。使い込んである桐箪笥でしたね」

「そうですよね、あのおばあちゃんが親から引き継いだものだそうですから」


難しい時代を、あのおばあちゃんと一緒に生きていた桐箪笥。

言葉を発することはないが、時間が色の深みにつながっている。


「ひとつひとつばらして、磨いて、組みなおしてあったので、
また別の風合いも見せていたし、人工では出せない味だと思います」

「そうですね。それをまた新鮮に見せてしまうのは、
戸波さんの、あれが才能ですね」

「はい」



うらやましい。心からそう思った。

思い描いたものを、しっかり形に出来る実行力。

戸波さんと三村さん。二人はそんな強さを持っている。




私に一番かけているところ。




「あ、あれです。見えますか?」

「はい」


宮村さんの家から車でさらに30分ほど走り、私たちは工場に到着した。




【4-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【三村紘生】
知花の同僚。年齢は31歳。
外国を数年旅しながら、デザインの仕事に携わってきた。
知花の『チェスト』に感動し、『DOデザイン』に入社。まだまだ謎の多い人物。

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