7 流れる風 【7-5】

【7-5】

『大阪』



大阪だと、手帳には書いてある。

幹人は、出張先に電話をすることを、前から嫌がった。

それは、一緒にいる上司に対して気をつかってのことだろうと思っていたのに、

別の意味だったのだろうか。


「長峰さん」


どうしてウソなんてついているんだろう。

有給を取るなら取ると、言ってくれたらいいのに。

出張だったとか違うとかより、ウソをつかれていたことの方が辛い。


「長峰さん、聞いてますか」


私に言えないようなことが、起きているのだろうか。


「長峰知花さん!」

「はい」


三村さんがデザイン画を広げ、私を見ていた。

混乱した頭の中に、ほんの一部分、現在が呼び戻される。


「どうしたんですか、心ここにあらずでしたけど」

「あ……ごめんなさい」

「これ、いけそうです。今、社長からOKもらいましたから」

「あ、そうですか、よかったです」


少し前に見せた特集記事。三村さんはすぐにそれを自分のものにした。

椅子のデザイン画は、細かい点で、色々と変化を見せている。

私がもやもやしている間に、三村さんはまた一歩前に……


「長峰さんのおかげです。助かりました」

「いえ……」



『有給』



別のことを考えるべきなのに、今は仕事中だと言い聞かせるのに、

あの言葉が離れない。



私は、強くないのだから、電話なんかかけなければよかった。

サイコロが嫌な方に転がれば、こうなることはわかっていたはずで、

そして、それを自分から解決できるほど、勇気がないこともわかっているのに。



私は……バカだ。



「お礼に昼飯でもおごりましょうか、俺」


幹人が、私にウソをついている。

出張だと言いながら、有給を取っている。

誰といるのかわからない。


「長峰さん……」

「ごめんなさい、いいです」


三村さんに、何も悪いところはないのに、今、どういう顔をしたらいいのかわからない。

私はとりあえず財布を持ち、事務所を出た。

今日は誰とも話したくない。




その日、私は色々と理由をつけて外に出たまま、事務所へは戻らなかった。





幹人の番号。それはわかっている。

出張中はかけないでほしいと言われているけれど、今日は出張ではない。

だったらかけてもいいはずだけれど、

そうなるとさらに一歩踏み込む気がして、ただ怖さだけが増していく。

最悪のことがあった場合、私はどうすればいいだろう。

なんだかうまく眠れないまま、その日は結局、電話することも出来なかった。





次の日は、昨日の雨がウソのように、梅雨の間の快晴。

身支度を整えて、会社へ向かった。

昨日、全く進まなかったプレゼン資料。今日はなんとしてもやり遂げないと。

資料は全て揃っているし、デザインの修正も終えている。

あとは……


事務所まで数メートルのところで、携帯が鳴り出した。

心臓が大きく音を立てる。




相手は、あの番号。




「おはようございます」


三村さんが挨拶してくれたので、とりあえず頭を下げた。

出てもどうせ、無言なだけ。だったらこのまま……


「長峰さん。携帯鳴ってますよ」

「わかってます」


出るべきか、出ないべきかと思いながら数歩進むが、

相手にも、何か意図があるのか、呼び出し音は終わらない。

そして、耐え切れなくなった私の手が勝手に動き、受話器を開ける。


「もしもし……」


やはり無言だった。

相手はきっと、私のことをわかっている。

何もかもわかっていて、こうしていやらしく意地悪をしてくるのだ。


「いい加減にして! 言いたいことがあるのなら、正々堂々と言いなさいよ」


言えばいい。

何があるのか……

結局、あなたから聞きださなければ、推測はあくまでも推測で、

事実にはならない。




『……なら言うわよ』




女性の声。

やはり、この番号は女性のものだった。




【7-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【木暮優葉】
事務担当。年齢27歳。
笑うとえくぼが出てくる。好きなメニューは『とろりんオムレツ』。
歩くスピーカーと言われるくらい、おしゃべりが大好き。

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コメント

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自信あり

拍手コメントさん、こんばんは

>幹人って、自分本位なんだな。 こいつぅ〜って思うのと同時に、
 知花にないものを、そっちに求めたんだろうなと。 結局、自分本位。

自分に自信がある幹人ですからね。
知花に対しても、絶対の自信があるのでしょうけれど……
この先、二人にどういう展開があるのか、そのままお楽しみください。
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