9 意地の張り合い 【9-2】

【9-2】

「何かあるのではないかだなんて、あなた、ずいぶん気の強い方ね」

「すみません」


何があるのか……

萩尾さんは、ここで明らかにするのだろうか。


「でも、まぁ、そうね……私が長峰さんを指名した理由。
確かに、作品そのものを評価してここへ来たわけではないの、ごめんなさい。
ただ、自分と同じくらいの年齢の女性が、どういう思いを出すのか、
それを知ってみたい……って思うようになった。まぁ、そんなところかしら」


具体的な言葉など、出るわけがなかった。

私のデザイナーとしての実力など、萩尾さんが評価するわけがない。

幹人が選んだ女がどれほどのものなのか、それを知ろうとしているだけ。



彼の意見に逆らうことなく、都合よく動く私のことを、探ろうとしているだけ……



「そうですか……」

「えぇ、これでよろしいかしら。それとも、納得がいきません?」

「いえ、仕事を頼むのは自由ですから、これ以上は俺があれこれ聞けません。
仕事の中で意見をぶつけあえば済むことです」

「そうね、仕事をしながら理解していただきたいわ」


萩尾さんはそばにあったちらしをめくると、軽く事務所を見渡した。

優葉ちゃんは真剣な顔で萩尾さんを見続ける。


「三村さん……とおっしゃったわよね」

「はい」

「あなたは何を探ったの? 私がここへ来た理由を聞いて……」


萩尾さんは、三村さんに向かって逆にそう尋ね返した。

心の底にある嫉妬や憎悪が、彼女の表情を挑戦的なものに変えている。


「失礼な言い方だったら謝ります。でも、時々いるんですよ。
他の仕事に対する色々なものを、デザイナーにぶつけようとする建築士が」

「は?」

「あなたがいいと指名しておいて、あれは違う、これは違うと認めない。
自分のストレスを、逆らわない人に向けていく。
いえ、萩尾さんがそうだと言いたいわけではありません。
俺は、今までもそういう人を見てきたので、つい……」


萩尾さんの表情が、明らかに変わった。

命令する方と、される方。いきなり作られる関係性。


「すみません、もういいです、失礼しました。
お引き受けする以上、納得するものを作り出してみせます」


三村さんはそういうと何も言えないままの私の横で、

自分の名刺を取り出し、萩尾さんに差し出した。





「俺が守りますから!」

「あれ? 三村君そう言った?」

「そうですよ、小菅さん。あれ? 違いましたっけ?
いや、そんなようなセリフでしたよね、ね、知花ちゃん」


その日の昼食、私と優葉ちゃんと小菅さんは、『COLOR』に入った。

話題は、いきなり訪れた萩尾さんのことになる。


「そうじゃないって、頑張りますってことよ」

「あれ? そんなに低いトーンでしたっけ?」


優葉ちゃんは『エビスパ』をフォークでクルクル回しながら、

首をかしげている。


「そうよ、そういうことでしょう。それにしても女性建築士の依頼かぁ……。
なんだか退社を前にして、慌だたしいわね、知花ちゃん」

「はい」


そう、小菅さんの言うとおりになってしまった。

私に振られた仕事なら、なんとか断り続けるつもりだったのに、

三村さんが出てきたおかげで、避けられなくなってしまった。

幹人ももう、彼女と別れたと言っていたし、正直、関わりたくはない。

関われば知りたくないことも、知らなければならなくなる。

幹人と自分のことだけで、今は精一杯。


「でも、確かに三村さんの言うとおりですよ。どうしてあの人、
知花ちゃんでないとダメだって言ったのですかね。
あ、知花ちゃんが悪いとかではないですよ。珍しいでしょ、指名されるって」


小菅さんの前に、ミックスサンドが運ばれた。

注文どおり『レタスは多め』だと、聖子さんが言葉を付け足していく。


「うん、ありがとう」

「いえいえ……」

「あの人さ、萩尾さん。一級建築士だって言っていたでしょ。
あの業界も開かれているようで、実は締め付け強いのよ。
三村君は、あの人自身が意地悪をするのではないかって、考えていたみたいだけれど、
男が威張っていることの多い世界だから、女性のストレスもあるのでしょ。
同じような年齢の女性と組むことで、自由に仕事をしたいってことではないの?」

「自由……ですか」

「そう、年齢が近い女同士だと、考えも似ることが多いしね」


同じような年齢。

幹人と大学の同級生だと言っていたから、私より4つ年上なはず。



萩尾さんが仕事の依頼に来たことを、幹人に語るべきだろうか、

それとも、語らないべきだろうか。





隠すことは、逆効果になる気がしたので、私は仕事の帰りに幹人と待ち合わせをし、

正直に萩尾さんのことを語った。


「萩尾香住さんって人が、私に仕事の依頼に来たの」


幹人の表情はすぐに変わった。そして唇をかみ締める。


「……そう、あいつ、どこまで嫌味なヤツなんだ」


幹人はそうつぶやくように言った後、言葉を止めてしまった。




【9-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【矢沢聖子】
喫茶店『COLOR』のママ。年齢は秘密。
ここのお店はすべて『DOデザイン』が作った家具を使っているため、
社員もランチによく利用している。

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