9 意地の張り合い 【9-6】

【9-6】

「……以上です」


意見も言葉も地味だし、たいしたアピールポイントも作れなかった。

ただ、言いたいことだけを言い切ってしまった。

三村さんも立ち上がり、あらためて二人で頭を下げる。



ダメ……だろう。

三村さんのプレゼンには、色々と質問が飛んでいたのに、

私の言葉に対して、クライアント側からは何も反応がない。


せっかくつかんだチャンスだったのに、また結局……


頭を下げ、二人であらためて椅子に座った瞬間、

真ん中に座っていた代表者の方が、両手で拍手をし始めた。

それにあわせるように、残りの二人からも拍手が起こる。


「いやぁ……いいですよ、その『木』へのこだわり、思い入れ。
あなた方の作り出すものならば、きっと、お客様に押し付けではない、
本当のもてなしの思いが伝わるでしょう」


今まで、無表情に近かった皆さんの顔が、明るくあったかいものに見え始めた。

ガタガタと震えていた私の足は、少しずつ落ち着いていく。



伝わった……



ただ、それだけを感じることが出来た。



「返事は、明日事務所側にさせていただきます」

「よろしくお願いします」

「……お願いします」


私たちは深々と頭を下げなおし、プレゼンの会場を出た。





駅までのコンクリートの道。

前を歩く三村さんは、何やら鼻歌を歌っている。

時折、聞き覚えのあるメロディーが流れている気がするけれど、

洋楽だろうか……


「三村さん」

「はい」

「私の原稿がミスっていること、気付いていましたよね」


そう、プレゼン会場に行く前、私は原稿を三村さんに見せた。

三村さんが頷きながら返してくれたので、私は何も疑わなかったのに。


「気付きましたよ。でもあの場所で指摘したら、
長峰さん、プレゼン会場に入る前からガチガチになっちゃうでしょ。
それでなくても、頭から吹っ飛んでいたわけだし」


そう、吹っ飛んでいた。

大きな出来事が、いきなりのしかかってきたから。


「そうかもしれないですけど、直す時間があったのではないですか」

「直す?」

「はい。数字を直しておけば、他の部分は使えたはずです。
私なりに、あれこれ考えていた原稿でしたから」


『エアリアルリゾート』がどういうものを好むのか、

それなりに調べて、考えて、まとめておいたものだった。


「まぁ、それはそうかもしれませんけど、でも、よかったじゃないですか、
長峰さん自身の言葉で気持ちをぶつけたプレゼンの方が。そう思いませんでしたか?」



私の気持ち……



「ひらめきを理論的に伝えるより、どうしてそういう発想に至ったのか、
生い立ちや影響を受けた人の話を聞いたことで、
根本にあるものを理解してもらえたはずですよ」


『デザイン』には、その人の人となりが出て行くものだと、

確かに以前、言われたことがある。


「俺たちが、どういう意図を持ってお客様に安らぎを提供しようとしているのか、
それが向こうの目指しているものと通じるところがあるのか……。
隣で聞いている俺にも、長峰さんがこの仕事にどういう思いをぶつけたのか、
しっかりと伝わりましたけどね」



この仕事に対する思い……



「本気の言葉に叶うものなんて、絶対にないですよ」



『本気の言葉』

私は三村さんの背中を追いながら、ずっとこの意味を考えた。





事務所に戻り、社長に報告を済ませると、

待っていた優葉ちゃんが、私にコーヒーを入れてくれた。


「ありがとう」

「いえいえ、プレゼンお疲れ様です」


『疲れた』

そう、プレゼン会場を出る時には、本当に心も身体も疲れきっている気がしていたが、

こうしてここまで戻ってくると、やり遂げた感の方が圧倒的に大きい。


「発表はいつですか?」

「うん、明日連絡をくれるって言っていたけれど」

「そうですか、合格するといいですね」


私は小さく頷き、優葉ちゃんの気持ちがこもったコーヒーをゆっくり口に含んだ。




【10-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【矢沢聖子】
喫茶店『COLOR』のママ。年齢は秘密。
ここのお店はすべて『DOデザイン』が作った家具を使っているため、
社員もランチによく利用している。

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