10 ストレス 【10-1】

10 ストレス

【10-1】

運命の次の日、10時過ぎ。

『エアリアルリゾート』から、ほぼ時刻どおりに電話があった。

塩野さんがすぐに受話器を上げ、とりあえずの挨拶をすると、

保留ボタンを押し、社長に合図する。

デザイン画と向き合っていた三村さんも、手直しの書類をPCに打ち込んでいた私も、

動きを止めて、社長の表情に注目した。



結果は出ている。



だから、今更願っても何も変わらないのに、私の両手は自然とあわせた形になった。

お願いだから、伝わって欲しい。



「はい、いえ……ありがとうございました。
ぜひ、ご期待に添えますよう、これからも……いえいえ……」


『合格』

社長は、受話器を持ちながら、片手で小さく丸を作ってくれた。

塩野さんや優葉ちゃんも、音が出ないように拍手のポーズを取る。

小菅さんは、私と三村さんに向かってバンザイの形を見せてくれて、

伊吹さんは満足そうに笑っている。

そして、隣に座っていた三村さんが、私に片手を出してくれた。


「やりました」

「……はい、ありがとうございます」


本当に、本当に、私たちのデザインが採用された。

まだ夢みたいな気がして、左手で自分の太ももを軽くつねってみる。

間違いなく痛みを感じたし、

何度、目を閉じてまた開いても、私はきちんと同じ場所にいる。


「よし、よくやったぞ、三村と長峰」

「おめでとう……」


社長は上機嫌で優葉ちゃんに、急遽『お寿司』を取るようにと指示を出し、

みんなで簡単なお祝いをしようということになる。


「寿司だ、昼飯は寿司にするぞ」

「いいですねぇ」

「特上でいいですよね、社長」


優葉ちゃんの言葉に、社長は経理の塩野さんを見た。

塩野さんは事務所の金庫番。

ここで首を横に振られたら、無理だということ。


「寿司を取るのなら、3丁目の『松寿司』にしてくださいね」


塩野さんのOKが出たことで、事務所内はさらに盛り上がる。


「よし、昼食にするから、すぐに注文しろ」

「いいですね、昼に寿司って、贅沢じゃないですか」


伊吹さんは俄然仕事にやる気が生まれたと笑い、

小菅さんも甘エビが好きだから入れてもらうように頼んでくれと、嬉しそうに話しだす。

私は時計で時間を確認し、バッグを肩にかけた。

隣の三村さんはタバコをポケットに入れながら、こちらを見る。


「あれ? 長峰さん出かけますか?」

「はい。あの……萩尾さんの事務所へ」


萩尾さんが指摘してくれた時間は、今日の午前中。

三村さんは小さなカレンダーの印を確認し、納得するように頷いた。


「長峰さん」

「はい」

「あなたは立派なデザイナーだ。その証拠も今朝、
『エアリアルリゾート』からかかってきました。自信を持って向かってください」


三村さんも、私と萩尾さんの関係を、何も知らない。

私は頷き、『行ってきます』と返事をした。

『エアリアルリゾート』がうまくいったからといって、

いきなり自信を持つのは難しいけれど、私は何も悪いことなどしていないのだから、

きちんと言うべきことは言えるはず。


「知花ちゃん、行ってらっしゃい」

「あ、ありがとう」


笑顔の仲間に見送られ、私は事務所を出た。





調べた地図を片手に、初めて下りる駅。

商店街を抜けると、大きなマンションがいくつも視界に入ってきた。

都心から少し離れている、ベッドタウン。

大きな公園や小学校があり、子供たちの声が耳に届く。

駅から7、8分歩いたところにあるビル。その3階に、名前が書いてあった。



『萩尾建築事務所』



看板に名前が出るのだから、萩尾さんが経営している事務所なのだろう。

私と4つしか年齢が違わないのに、おかれている現実はあまりに違う。



幹人もこんなふうに、この場所を訪ねたのだろうか……



私の頭は、余計な想像力ばかりを働かせていきそうになり、

エレベーターを呼び、動く数字を見ながら、何も考えないようにした。




【10-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
『家具デザイナー』とは、オフィス家具などをデザインする人のことで、
インテリアデザインを兼ねることもある。大学や専門学校で学び、
家具メーカーやデザイン事務所に就職し活動する人が多い。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント