13 本音の言葉 【13-3】

【13-3】

「なさそうですね」

「いえ……あの」

「結局、長峰さんは彼から逃げられたらそれでOKだったんですか」

「逃げられたらって、どういうことですか」


幹人から逃げたらそれでいいとは、思ってはいない。

いや、ここまで来るのだって、どれほど悩み苦しんだか。


「嫌になってしまったから、とにかく離れましょうってことですよ。現実逃避です」

「現実逃避はしていません」

「そうですか?」


現実逃避などしていない。

現実がすぐそこにあるから、どうしたらいいのかわからないのに。


「していません!」

「うーん……でも、俺にはそう思えますよ。
なんとなくいつもこんなふうにボーッとして。中途半端な人ですね、相変わらず」

「中途半端、それも相変わらずって……」

「そうですよ。決めていたことから逃げて、それでほっとしているなんて、
あなたを一生支えようとしていた彼に、同情します」


……同情?

三村さんが、幹人に同情していると言うのだろうか。

以前会ったお店で、喧嘩寸前までいっていたのに。


「女心と秋の空って言うじゃないですか。結婚をやめることが出来たら、
それで満足なのかなと」


『満足』だなんて思っていない。

私は今、自分の思いと残された時間の中で、悩み続けているのに……


「さてと……」


三村さんはズボンの後ろポケットから、何やら資料を取り出した。

ホチキス止めをされているのは、『エアリアルリゾート』で手がけている家具の、

試作品写真。


「試作品の写真が送られて来ました。10月には設置が始まるそうですけどね。
やはり、図面からイラストが入って、材料の雰囲気もわかると、違いますね」


『見せてください』と言おうとして、言葉が止まった。

私は、あの家具が並ぶ姿を、スタッフとしてこの目で見ることが出来ない。





……心の底から、見たくてたまらないのに。





「そっか……こうなるのか」


ほんの数メートル先にあるのに、見ることが出来ないなんて……



私は、屋上の扉を開けると、そのまま階段を駆け下りた。

普段やり慣れていないことなので、目がグルグル回りそうだけれど、

エレベーターが到着することなんて、待っていられない。

なりふり構わず、みっともなくてもいいから……





この事務所に、残りたい!





「社長!」


私がいきなり飛び込んできたことに驚き、優葉ちゃんは電卓の入力を間違えてしまい、

小菅さんは受話器を耳につけたまま、手が浮いた状態になっている。


「社長……すみません」

「どうした、長峰」

「私……」


そう、言わなければ伝わらない。

誰かが気を利かせて、代弁してくれるなんてありえないし、

私が思っていることを、全ての人がわかっているとは限らない。

だからこそ、きちんと伝えなければ、また、我慢ばかりをしなくちゃならなくなる。

私は、幹人との結婚を取りやめたことで満足なんてしていない。



現実逃避だなんて、言わせない。



「お願いします。勝手に『退職願』を出しているのに。
わがままだとはわかっています。でも、もう一度、私を採用してください!」



給料は下がってもいいですし、みなさんのサブでも構わない。

デザインの仕事から、離れたくありません。

もっと、もっと、頑張りたい。




頭、これ以上、下がらない……




下がらないのに……




「長峰……」

「はい」

「今、三村が上に行かなかったか」

「……三村さん……ですか?」

「あぁ、『エアリアルリゾート』から資料が届いただろ。
長峰が結婚を取りやめたのだから、これからも二人で関われるだろうって、
そう話をして。で、あいつ、お前が上にいるからって向かったけれど……」

「社長……」

「『退職願』だって取りやめだろ、長峰。俺はそう、思っていたぞ。
でも、お前が何も言って来ないから、他にやりたいことでもあるのかと内心考えていた。
上に行って、三村に確認するように話したけれど、そうだよな、
よかった、よかった……」





よかった……

私は力が抜けて、その場に座り込んでしまった。

社長は、私のことを、考えてくれていた。



……でも



『もう一度、私を採用してください!』



思いを吐き出せたことは、とてもすがすがしくて。

心の中のもやもやしたものが、一気に晴れ渡った。




【13-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【長峰広也・真子・知己】
それぞれ、知花の父、母、弟。
口数は少ないが、知花をしっかり評価している父と、明るくて優しい母。
そして、社会人になっているのに、まだまだ親に甘えている2つ違いの弟。

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コメント

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ありがとうございます

ドレミさん、こんばんは

>13-3で拍手が1番目。嬉しいです。
 誕生日が3月13日なので---。

拍手1番手、おめでとうございます!
誕生日に縁がある数字って、なんとなく嬉しいですよね。
私も、自分の誕生日数字と同じ車のナンバーとかを見ると、
なんだか嬉しくなります。

毎日、楽しみにしていただけているというコメント、
メチャクチャ励みになります。
みなさんに読んでもらえていると、確信できるのは、
こうやって、反応をもらえることしかないので。

私の創作に出てくる女性は、
しっかりと意見を言うタイプが多いかもしれないので、
今の知花には、確かにイライラするところがあると思いますが、
成長も含めて、応援してやってください。