14 応える意味 【14-1】

14 応える意味

【14-1】

しばらくすると、別の仕事へ向かっていた伊吹さんと三村さんが戻ってきた。

社長は、二人にも同じように千葉さんを紹介する。

千葉さんは名刺を渡し、どうしてここにきているのかあらためて事情を説明した。


「じゃぁ、三村が聞いておけ」

「いや……俺は」

「すみません、ありがとうございます。
三村さんと長峰さんが、『エアリアルリゾート』のご担当と言うことですよね」


三村さんの顔が、私の方を向いた。

積極的な千葉さんと語ると、色々聞きだされそうで、私は目をそらす。


「三村さん、あのですね」

「あの……すみません。色々と聞こうとするのは職業柄仕方ないとは思いますが、
『エアリアルリゾート』の許可を取ってから、あらためて来ていただけますか。
何を話していいのか、話してはいけないのか、俺の方で勝手に判断ができませんので」

「あぁ、そうですね」


私たちの描いたデザイン画も、試作品として出来た家具の情報も、

『エアリアルリゾート』が権利を持っている。

確かに、簡単に図面を見せるわけにもいかない。


「そうですよね、それは」

「はい。知ってしまったら、あなた方はどんな情報でも書きたくなるでしょ」

「うふふ……」


千葉さんは、三村さんの意見を認め、

それではあらためてと頭を下げ、嵐のように去っていった。

扉がバタンを音を立て、いつもの仕事場が戻ってきた。


「汚いなぁ、長峰さん」

「汚い?」

「そうですよ」

「どういうことですか」

「目、あわせたのにそらせたでしょ」

「そらしてなんて……」



いえ、そらしました、完全に。



「だって、押し込まれそうで」

「まぁ、そうですけど」


三村さんが来てくれてよかった。

私一人だったら、話したらいけないことまで、強引に聞きだされそうだった。


「それにしても、業界誌の取材も、昔とは変わってきているな。
あんなふうに飛び込みでやってきて、張り込みますなんて、昔はなかった」

「社長、それは正社員を持つ会社が減っているからですよ。
取材力のある人を採用して、実力のないものはどんどん切っていく。
まぁ、外国はそれが当たり前ですが、日本ではあまり馴染みがないですからね」


伊吹さんはカバンから、書類を取り出し、社長に提出した。

社長は軽く目を通し、印鑑を押し、伊吹さんに戻す。


「いや、でも、『エアリアルリゾート』が宣伝になると思って引き受けたら、
うちにとってもいいPRにはなるかもしれないな」

「三村と長峰の若手コンビですからね」

「仕事の依頼が殺到するかもしれないぞ」


伊吹さんと社長は、書類の受け渡しをしながら、笑い出す。


「なるわけないじゃないですか。そういうのを皮算用って言うんですよ」


三村さんはポケットからタバコを取り出し、無意識に口にくわえた。

私はここで吸い始めるのかと、驚いてしまう。

私の視線を感じたからだろう、タバコは指に戻った。


「わかってますよ、そんな顔をしなくても」

「……ならいいですが」


三村さんは指にタバコを挟んだまま、事務所を出て行こうとする。


「長峰さん」

「はい」

「ちょっといいですか」


そう声をかけられたので、私はタバコを吸う予定はないけれど、

そのまま三村さんの後ろを追いかけ、屋上へ向かうことになった。

エレベーターが到着し、二人で乗り込むと扉が閉まり、

持ち上がる音をさせながら、ほんの数秒で屋上に到着する。


「萩尾さん、事務所に来ませんでしたか」

「はい。少し前まで話をしていました」

「そうですか」


屋上についたけれど、三村さんがタバコに火をつけることもなく、

静かな時間が過ぎていく。

ここは私の方が、しっかりと事情を説明すべきだろうか。


「あの……」

「萩尾さんから、どういう事情だったのかは聞きました。
俺、何も知らなかったので、仕事を長峰さんに戻した方がいいかと、
そう思ったんですけど」

「三村さんに、気をつかわせてしまって、申し訳ないです」

「いえ、そういう意味ではないんです」


意味……

どう、言葉を重ねたらいいだろう。

三村さんにはこちらが謝ることはできても、謝ってもらう必要など何もない。


「彼との結婚をやめた理由は、萩尾さんとのことを気にしているからですか」

「三村さん……」

「意地とか、勢いで決断するのは、きっと後悔します」


意地や勢い。

それはない……

私は、一つずつを積み重ねて、この結論を出したのだから。


「意地でも、勢いでもありません。それは、萩尾さんにもきちんと話をしました。
正直、彼女の存在が、全く影響なかったとは言いませんが、
そのおかげで、見えなかったものがはっきりと見えたんです」

「見えなかったもの」

「はい。あらためて、私と幹人がそれぞれ大切にしようとしているものが、
重なっていなかったことに、気付いたんです。だから、結婚は無理だと判断しました」


幹人にはどうでもいいことが、私にはとても大切なものだったから。


「それは……長峰さんの本音ですか」

「本音?」

「はい」


『本音』というのは、どういうことだろう。

私にはこれ以上、どう答えたらいいのかがわからないのに……




【14-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
日本にある『木』の中で、一番軽いものは『桐』。
世界的に見ても軽い部類に入っているが、寸法のずれなどは少ないため、
タンスの材料として好まれている。

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