16 もうひとりの人 【16-1】

16 もうひとりの人

【16-1】

鍵を差込み、部屋番号を入力すると、ガラスの扉が大きく開いた。

私は、遅れないように、後ろをついていく。

三村さんの部屋は2階で、同じように鍵を差し込むとカチンと音がした。


「すみませんが、とりあえずここで待ってください」

「はい」


部屋には三村さんが先に入り、それから1、2分が経過し、どうぞと声がかかった。

私はおじゃましますと挨拶をして、中に入る。

靴を揃えて、振り返ってみると、目的の作品はすぐ目の前に現れた。

思っていたよりも大きい。確かに、天井に押さえつけられているので、

これでは運び出すのは無理だ。


「これですか」

「はい、これです。結構でかいんですよ。
イタリアにおいてこようかと思ったんですけど、せっかくですからね」

「それはもったいないですよ、当たり前です」


『スペースの有効活用』

その時のテーマはこれだったらしい。材料費も限度額が決まっていたため、

素材に大きな変化はないけれど、移動式になっている棚には、

網模様に見える扉がついていた。


「本は呼吸させないと長持ちしないでしょう。だから、落ちないようにはしましたが、
空気が流れるようには工夫しました」


日本家屋のように、統制された作りにはなっていない建物も多いため、

三村さんは、少しのスペースを見つけ、

本を収納できるように棚を1段ずつ増減させられる形を選んだという。


「その場所の特徴で、アイデアも変えるべきですから」

「はい……」


配色を変えれば、受け取る人の思い通りに形を作れるだろう。


「これ、何年前の作品なのですか」

「なんだかんだ言って、4年位前ですかね」

「4年前……」


三村さんは、こうして色々と経験し、実績を作ってきた人だった。

確かに意見を言えるだけの実力もあるはず。

私は6年事務所にいるのに、まだまだひよっこ。

『自分なんか』と思わずに、頑張ればよかった。



戻らない時間が、そこにあるのに……



しばらく、作品の前から動けなかった。

何も出来なかった悔しさと、自分の弱さに、目が潤んでしまう。

誰のせいでもない。私が……




弱かったから。




「行きましょう」

「行く? どこにですか」

「どこって、長峰さんは家に帰らないとならないから。
そうだな、駅前に味だけはうまい店があるので、食事でもして……」


三村さんは、そう言いながら、一度脱いだ上着を着てしまった。

私はもう少し見ていたい思いが湧き出てきて、すぐには出たくないと、

持っていたバッグを下におく。


「もう少し、もう少しだけ見せて下さい。細工の部分とか、ほら……こういうところ」


見たこともない組み合わせ、これだけでも発見。


「作りつけなどは俺とは無関係です。あくまでもデザインですから」

「……でも」


『でも……』

しつこいと思われただろうか、三村さんが黙ってしまう。

言い返されていると、言い返したくなるけれど、黙られてしまうと、

黙るしかない。


「長峰さん」

「はい」

「男の部屋に、あまり長居するものではないですよ」


『男の部屋』。

私、どこかのアトリエにでも来ている気分だったけれど、少し視線を動かすと、

奥にはベッドもある。


「わかりました。見ていいと言ったのは俺ですから。
先に出てますので、納得したら出てきてください」


三村さんはそういうと、玄関から外へ出て行ってしまった。

私は携帯を開き、時間を見る。

ここへ着いてから20分が経ったけれど、それってそんなに長居だろうか。


「納得したら……でしょ?」


私は、細工の部分まで自分が思うように見せてもらう。

ふと時計を見ると、さらに10分が経過した。

寒い夜、外に待たせているのは申し訳ないと思い、バッグを肩にかける。

最後に少し離れた位置で、全体像をもう一度確認した。



三村さんの部屋。

この作品がなければ、来ることもないだろうけれど。



キッチンの横に置かれた小さなテーブルの上に、小さな箱があり、

その下に封筒が挟まっていた。つい、視線がそっちに動いてしまう。



『紘生へ』



封筒には住所が書かれていない。

そのことが、素通りしようとした私の気持ちを揺さぶった。




【16-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
幹人が知花と行くつもりだった『カナダ』は、世界で最も湖の多い国。
その数は、300万にのぼり、(世界の60%)
そのうち、オンタリオ州に25万の湖がある。(す……すごい……)

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント