【S&B】 31 恋を得る時間

      31 恋を得る時間



デパートへの道は、思っていたよりも混雑していた。前を走る車の運転手は、

その状況にいらつくのか、首を動かし何度も前方を確認する。

僕が赤信号にブレーキを踏み助手席を見ると、外の景色を眺める三田村の、耳の下のほくろが見えた。

京佳さんたちの車に、二人で乗った日に見た、あの場所にあるほくろだ。


「サリントンのシブースト、この機会に、食べてみようと思って」

「あ……主任、あのシブースト、まだ食べたことないんですか?」

「うん。あの店、ほとんどが女性客だから、入りにくいんだ。今日は三田村が一緒だから、
入れるかな……と」


僕はデパートから歩いてすぐの店で出す、ケーキの話題を口にした。急に連れ出されて

緊張している三田村の気持ちをリラックスさせるには、この話題が一番いいと思ったからだ。

それまでほとんど声を出さなかった彼女が、嬉しそうな表情をしたことを、

僕はハンドルを握りながら、確認する。


「あの店のシブーストは、リンゴが入ったものよりバナナの方が美味しいんです」

「そうなんだ、でもなぁ……」


何種類かある時には、まず基本を食べてみたいと僕は思うのだが、三田村の薦めはバナナらしい。


「じゃぁ、三田村はバナナにすればいいよ。僕はリンゴにするから、少しわけてもらう」

「……はい」


張り詰めていた空気が少しずつ自然に流れ出し、僕らはベビー服売り場へと向かった。

女の子だと聞いていたから、ピンクの洋服を手に取ると、三田村はサイズが小さいから、

もう少し上を選べと言い始める。


「どうして? こんなのまだ着られないだろ」

「いいんですよ。赤ちゃんの頃は寝ているだけですから。むしろ、歩けるようになると、
外へ行く回数も増えるし、かわいい洋服が欲しくなるんです。あ、ほら……、こんなスカートなんて、
上をあれこれ着回し出来るから、便利ですよ」


三田村はチェックのスカートと、かわいらしい上着を重ね、組み合わせを楽しむ。僕はそんな

彼女の自然な笑顔を見て、強引に連れ出したことが間違ってなかったと、自分自身に返答した。

支払いを済ませ、兄の家へ送ってもらう手はずを整え、姿の見えない三田村を捜すと、

少し離れた売り場に積まれている生地の山の前に立ち、あれこれ品定めをしていた。


「三田村……」

「あ、すみません」


彼女は手に持っていた何枚かの小さな生地を、会計へ持って行く。

そこは手作りを楽しむ人のためにあるコーナーで、かわいらしい作品が、並べられていた。





「そういえば、よく会社でも手芸関係の雑誌を読んでたね」

「はい、針と糸は得意なんです。PCは失敗ばかりでしたけど……」


シブーストの店に入り、すっかりリラックスした三田村と、お目当てのケーキを待った。


「本当に女性客ばかりですね、確かに」

「……だろ。これじゃ、甘いものが好きな男は、食べられないよ」


セットで頼んだコーヒーに口をつけ、いつものように携帯をチェックする。

休みなのはわかっていたが、取引先は今日も動き、いつ、何を頼まれるかわからない。

思っていた通り、『かいづか』から撮影会の知らせが届いていて、僕はすぐに返信した。

守口にも届いているはずだが、その日の予定が空けられるように、早めに動けとメールを送る。

ちょっとした休日仕事を済ませ、僕が視線を戻すと、いつの間にかシブーストが二つ前にあり、

出されたフォークを上手に使った三田村が、半分にわけている最中だった。


「あ……ごめん」

「いえ、相変わらずお忙しいんですね。でも、そんな主任の姿を見ると、なんだか懐かしく感じます」


僕の皿の上に、2種類のシブーストが並んでいる。こんなふうに、君の辛さも、

半分わけてほしいのだと告げたくなる気持ちを抑え、僕はフォークを入れた。


「どうですか?」

「ちょっと待って」


僕はリンゴとバナナを一口ずつしっかりと味わった。三田村は僕がわけたリンゴの方を

先に食べ進める。


「本当だ。三田村の言うとおりだ。バナナの方が美味しい」

「……好みですけどね、でも、私リンゴも好きですよ」


三田村はそう言うと、まだ口にしていないバナナのシブーストを僕の皿に乗せた。

初めからそうするつもりで、きっと口にしなかったのだろう。僕はそれをもう一度彼女の皿に戻す。


「そんなことしなくていいよ。三田村が頼んだのはこっちなんだ。自分で食べなくちゃ……」

「でも、私は何度も食べてますから……」

「三田村の悪いところだな、そこが」

「エ……」

「何でも、我慢ばかりしちゃダメだ」


僕はそう言うと、隣に置いていたコーヒーカップを手に取り、また一口飲んだ。

三田村は自分のフォークを持ち、その時初めてバナナの方を一口食べると、ほっとした表情を見せる。





三田村を車に乗せ、僕らは『初めてのデート』を楽しんだ。

いつまで戻ればいいかなど聞くつもりもなかったし、彼女もそんな雰囲気をみせることもなかった。

トリックアートの美術館では、不思議そうに角度を変え絵を見る三田村の、子供のような表情が見え、

そこに隣接するゲームセンターでは、モグラ叩きが意外に得意な、俊敏な三田村を見ることが出来た。

一緒に時間を過ごす中での心地よさは、僕に彼女が必要な人なのだと、あらためて感じさせる。

その後も渋滞に巻き込まれ、事故を起こした車に二人で文句を言い、注文を忘れたウエイトレスの

姿を見て、まるで自分を見るようだと言った彼女の言葉に、僕も一緒に笑った。


結局、買い物につきあわせる口実から、僕たちは一日行動をともにした。

彼女と話をしてもしなくても、違和感を感じることなく、まだ一緒にいたい気持ちの方が強くなる。

車が彼女のアパートに向かっていないことに気付いた三田村が、申し訳なさそうに横を向いた。


「あと1カ所だけ、つきあって欲しいところがあるんだ」


問いかけられる前に、僕はそう宣言した。三田村には少々強引な方が、受け入れやすいらしい。

ゆっくり距離を埋める作業などしている時間はない。僕が気持ちを白状すれば、

おそらく彼女は逃げるだろう。そんな性格はわかりすぎるくらいわかっている。

車からはある景色が見え始め、三田村は窓の外を見ながら、僕に問いかけた。


「海……ですか?」

「泳ぐ? 今から」

「エ……」

「あはは……冗談だよ。レインボーブリッジが見える景色の綺麗な場所だけど、
メインから外れているから、あまり混雑してないんだ。今日もきっと……」


そこはレインボーブリッジとは別の橋をすぐ上に見る場所で、ちょっとした散歩コースになりそうな、

綺麗な舗装の道がある。僕はその隅に車を止めて外へ出た。昼間よりも少し風が強く、この先、

天気が荒れそうな、そんな湿気を感じる。


「綺麗ですね……、レインボーブリッジ」

「だろ、ここからだとちょっと遠目なんだけど、ゴチャゴチャしてなくて、
ほら、下を抜けていく船の明かりも、結構綺麗に見える」


三田村はいつものメガネをかけたまま、その夜景をじっと見つめた。彼女にはこの景色が、

手の届かない宝石に、見えるのだろうか。


「また、こんなふうに誘ってもいいかな」

「……」


その問いかけに答える声は、僕の耳に届かなかった。いい返事がすぐ出てこないことは、

最初からわかっていたから、彼女の表情だけを僕は確認する。そんな僕の余裕に、

三田村は近づく何かを感じたのか、精一杯冷静を装い、笑顔を作る。


「もう……こんなことはしないでください。私に気を遣わないで欲しいんです。
会社を辞めたことの責任は、主任になんてないんですよ……私……」

「気を遣ったわけじゃないし、責任を感じているわけでもない。ただ、僕が君に会いたいだけだ」


出来る限り正直に、偽りない気持ちをぶつけようとそう思った。閉ざされた心を開くには、

あれこれ考えるより、伝わるものが多い気がする。


「好きな人がいます」


三田村はそう言うと大きく息を吐いた。普通ならそこで力の抜けてしまうコメントだけど、

そんな言葉でさえ、僕には予想がついていた。


「好きな人がいるんだ……」

「はい……」

「だったら、どんな人なのか、聞かせて欲しい」

「エ……」


三田村はとたんに焦りの表情を見せた。簡単にウソを突き通せないような性格だから、

積み重ねていくことなど、出来やしない。


「どんな人なの? 三田村の気持ちを捕らえた人は……」


逃げることが出来ない三田村は、ただ黙って下を向いた。僕は橋の下を進む船を見ながら、

さらに言葉をつなぐ。


「もう一度だけ聞くよ。君の好きな人って、どんな人なんだ」


ウソの答えの続きなど用意していない三田村は、そこから何も言えずに下を向いたままだ。

責めているのではない。僕は君を救うためにここにいるのだから。


「三田村に聞いても、きっと本当のことは言わないだろうと思っていた。だから他の人に聞く」


僕の問いかけに驚いた三田村の顔が上を向いた。僕は手を伸ばし彼女のメガネをそっと抜く。

素顔を見せてくれるまで待つのはやめた。僕が鎖から君を解き放つ。


「だから『ぺこすけ』に聞くよ」

「……」


思いがけない名前の登場に、三田村の表情はどうしたらいいのかわからない、迷いの色を見せる。


「どうして、その名前を」


僕には何も迷いはない。右手に持ったメガネを強く握り、問いの答えをまっすぐに君へ返す。


「僕が……『チーズ』だからだ」





32 君の居場所 へ……




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コメント

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追いついたよ~!

二人にとって、この上ない展開に、私の方がドキドキ(笑)

そうよ、男は強引な方がいいのよ!

いけ、祐作、このまま押し倒せー!・・・って展開には、まずならないだろうと思うので、
じっと待ってます^^

>「僕が……『チーズ』だからだ」

愛の告白みたいだわ~
はぁ・・ケーキを食べたくなってきた^^;

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おぉ~ カミングアウト!

はぁ~^^
祐作頑張ったね!

迷いがなくて、余裕があって・・・、そして強引で・・・(〃▽〃)

こんな祐作に「チーズだ」って、カミングアウトされたら・・・
三田村ちゃんも素直になれるかな・・・^m^;

まだ・・無理かな? PCから姿を消しちゃダメだよ~!ペコスケ!

やったー!

こんにちはv-411こちらにもお邪魔しましたぁv-364

祐作、告っちゃいましたねv-218
ここからが正念場。吉と出るか凶とでるか。当然、吉だと思うけど
ももんたさんの事、すんなりとはいかないんでしょうね~v-398
できるだけ早くHappyv-238な二人をお願いしますネ

いいなぁ~!

今晩は。仕事帰りで疲れているのに 一人を覗いて ( ̄ー ̄)としております。 これから、(O.O;)(oo;)ドキドキがはしまりますね! チーズさん頑張ってください!

半分こ

素の望は本当に優しい素敵な女性なのに、アイツのせいできっとちじこまって息してきたのかも・・・v-406

ケーキを半分づつ食べるv-274もう恋人同士そのままじゃないですか(このこの・・)

勇気を出して告白した祐作、ちゃんと答えを聞きだしなさい。それこそが望を救うのだ!

うきゃっ[i:63889]o(^o^)o

オオォォッ!って感じです。 まるで私がコクられたように心臓バクバクです
そう言えば某ドラマの執事さんも、実生活では、彼女を守りたいと会見していたね。少しダブりました。
一緒にいたら、悲しみ半分、幸せ二倍になることを願っています

ところで、まだまだつづくんですよね?

はぁ~

はぁ~ 息を詰めて読んだよ。

>僕が……『チーズ』だからだ
普通なら嬉しいはずの告白だけど…
ぺこすけは自分の気持ちに素直になれるのかな。
眼鏡を外せる日が早く来ますようにv-22

ありがとう♪

なでしこちゃん、こんばんは!
忙しいのに、追いついてくれてありがとう。
無理しないで、読んでください。v-352
なくなっちゃうことは、おそらくないと思うので。


>いけ、祐作、このまま押し倒せー!・・・って
 展開には、まずならないだろうと思うので、

ん? わからないぞ。
次回始まって見たら、倒れてたらどうする?(……絶対ないけど)


>はぁ・・ケーキを食べたくなってきた^^;

うん、うん、私も食べたい。e-239

頑張りました!

eikoさん、こんばんは!


>祐作頑張ったね!
 迷いがなくて、余裕があって・・・、そして強引で・・・(〃▽〃)

祐作は、どちらかというと積極的な方ですからね。v-434
このままさらに押していきますよ。

祐作のカミングアウトに、望はどう対するのか……は、次回へ!e-63

あれやこれや

Arisa♪さん、こんばんは!
こちらにも、遊びに来てくれてありがとう。


>ももんたさんの事、すんなりとはいかないんでしょうね~

あれ? いつもすんなりじゃないですか(笑)
そう思っているのは、自分だけか?

だって、みんな、あれこれあった方が好きなくせに!v-391
違う?

happye-266な日々は、来るのでしょうか……続く。

お仕事、ご苦労様でした

anyonnさん、こんばんは!


>今晩は。仕事帰りで疲れているのに
 一人携帯を覗いて ( ̄ー ̄)としております。

仕事帰りの疲れた中で、読んでくださってありがとう。v-408
みなさんの、ちょっとした心の散歩に役に立てば
嬉しいです。

『チーズ』ますます頑張りますよ!v-291

ぺこすけ

yonyonさん、こんばんは!


>素の望は本当に優しい素敵な女性なのに、
 アイツのせいできっとちじこまって息してきたのかも・・・

誰にも言えない悩みv-313を抱えながら、生きてきた望です。
祐作のまっすぐな告白、伝わるといいのですが……

次回は望の素が見えますよ……v-290

いいぞ、いいぞ!

milky-tinkさん、こんばんは!


>オオォォッ!って感じです。
 まるで私がコクられたように心臓バクバクです

いいですね、その作品と一体化した感じ、すばらしい!
これからも、空想力、妄想力をフルに活用し、読んでください。v-354


>ところで、まだまだつづくんですよね?

もっちろんです。まだまだこれから続くんですよ!v-322
飽きずに、お付き合いお願いします。v-411

チーズとぺこすけ

midori♪さん、こんばんは!


>普通なら嬉しいはずの告白だけど…
ぺこすけは自分の気持ちに素直になれるのかな。

望にとっては、全く予想もしていない展開ですからね。v-404
でも、その方が、殻を破りやすいかもしれません。
どんなふうに受け止めるのかは、次回へ続きます。v-398

ブログ関係も、色々とお約束が出来て、大変だよね。
また、遊びに行くからね!v-422

拍手コメントさんへ!

おはようございます。

はい、やっとここまで来ました(笑)
長いでしょ? でも、ブログなので許してね。v-354

ますます楽しんでもらえるように、頑張りますので、よろしくお願いします。v-411

とうとう♪

やっとやっと・・ここまで来ました。

v-274を分け合いながら楽しそうなふたりv-238

三田村さんの性格も知っているから

どう言えば良いのか、どう次の行動を起こせばいいのかも

分かっている。優しいなv-221

最後の二人のやりとりにウルウルしました。

何かが起こるだろうけど、これからに期待をもってv-253

がんばれv-91祐作v-237






やっと……だよね

beayj15さん、こんばんは!


>やっとやっと・・ここまで来ました。

そうかぁ、みんなそう思うんだよね。
31話目って言うのは、長かったかしら(笑)
ごめんね、いいわけに聞こえるかもしれないけど、
文章は短いのよ……だから、ここまで来ちゃったの。
許してね……v-410


>何かが起こるだろうけど、これからに期待をもって

はい、期待を持って!v-353
これからもお付き合いを、よろしくお願いします。

導く! はず……

kippycooさん、こんばんは!
拍手コメント、ありがとうございます。


>これをきっかけにいい方向へ向かいますように^^

はい、みなさんやっとここまで来たかと思ってくださっているようです。
祐作も心を決めた以上、望をしっかり導く……はずですが。v-434

これからもよろしくお願いします!v-291

拍手コメント(9:32)さんへ!

こんばんは! コメントありがとうございます。

やっとここまで来ました。
じっくり互いを知ってきた二人なので、いい方向に動く……はずなのですが。v-290
すでに31話、どこまで続くのか……

サークルとはまた違った空間なので、楽しさも大変さもありますけど、
自分なりに続けて行きますので、またのぞいてみて下さいね。v-218

拍手コメント(20:09)さんへ!

こんばんは! コメントありがとうございます。


>この後の展開はどうなるんでしょうか?非常に気になります。

気にしてくれてありがとう。
やっと想いを口にした祐作と、思いがけないカミングアウトを聞いてしまった望。
一気に素直に進んでいけばいいのですが。v-291

幸せな方向v-439に動く……はずだけどなぁ

これからも、よろしくお願いします!

はい、言いましたよ

拍手コメントさん、こんばんは

>とうとう、青山さん、言っちゃいましたね~、
 なんて、誠実で男らしんだろう・・・。

拍手コメントさんが、久し振りに過去作の扉を開けて下さって、
私も、祐作に久々会ってます。
そう、本当に男らしいです(照)