17 心のバランス 【17-2】

【17-2】

『彼にとって、都合がいい生き方は出来ないから……』

萩尾さんに言われたセリフ。


「私と結婚するつもりで付き合ってくれていたけれど、
その人とも終わっていなくて」


出張だとウソをつき、隠れて会っていた日々。

私は、何一つ疑ったこともなかった。


「それでも、もう結婚に向けて動き出しているし、終わりにするって言うし、
ここであれこれ言うよりって、弱気の虫が、顔を何度も出したのだけれど……」



『人は、必ず何かを傷つけて生きるんだと、俺は思います。
傷つけるのが自分なのか、相手なのか、知らない他人なのかわからないけれど』



三村さん……



「それは違うって、教えてくれた人がいた。
何もかもを受け入れ続けて、生きていくことは出来ないって、
そう気付かされて……」



『必ず応えますから……』



「初めて……幹人と対等に向かい合った」

「うん……」

「そうしたらね、幹人が大切にしたいものと、
私が大切にしたいものが違っているって、わかったの」


しっかりとまとめているつもりだったのに、浮かぶ言葉を並べるだけで、

語りつくせていない気がする。

それでも母は、何度も小さく頷き、理解しようとしてくれる。


「何か、つまみ出すね」

「うん……」


母は腰をあげ、冷蔵庫を開けると、お隣さんからもらったかまぼこがあると言い、

これでいいかと、聞いてきた。

私は、梅酒を軽く口に含み、頷き返す。


「知花……」

「何?」

「お母さんはね、知花が後悔をしていないのなら、それでいい」


後悔……

幹人と別れたことを、後悔はしていない。

私がしている後悔は……


「人生は長いのだもの、パートナーはまだまだじっくり選べばいいのよ」

「うん」


そう、人生は長い。

失敗の中から、また得るものもあるだろう。


「自分の思いが、口に出せてよかったね」

「うん……」


そう、相変わらずの弱虫だけれど、それでも一歩前に進めたのは、

間違いなくあの人のおかげ。



『ありがとうございました』と、何度も感謝した。



私は、きちんと一人で、歩いていかなくては……


「あ、美味しい」

「でしょう。ほら、ほら、飲もうよ」

「わかったってば、ゆっくり飲ませてよ」


女二人の静かな飲み会は、日付が変わるくらいまでゆったりと続いた。





週が開けた月曜日、私と小菅さんは、食事を終えた後、

とあるイベント会場に行くことになった。

『空間生活』というのが大きなタイトルになっているが、

その中で、色々な材質の木や、新しい素材を使った家具などの

部品を扱う問屋が集まることになっている。

ヨーロッパからも、魅力的な家具が数点展示される予定もあり、

私たちは、『NORITA』の部長から、招待状を受け取っていたため、

顔を出すことになった。


「輸入の家具がさ、大好きってお客様も結構いるのよね」

「あぁ……はい」

「ヨーロッパで作られたものの方が高級だってイメージが、消えないのかな」


アメリカやヨーロッパに対する憧れ、確かに日本には多い気がする。


「細工の細かさとか、彫りの繊細さなんて、日本は負けないけどね」

「はい……」


初日ということもあり、会場はなかなかの混雑ぶりだった。

今朝のニュースで取り上げられていた企業の前は、

開場してからすぐに列が出来ているし、カメラや記者らしき人たちも、

あちこちで見ることが出来た。

私たちは、まず、取引のある企業のブースを回り、挨拶をする。

そしてそれが終わってから、じっくりと会場内を歩くことにした。

小菅さんが、小さな部品のブースを見始めたとき、

私は隣にある木彫りの人形が気になり、そのまま数歩進む。


「あ……すみません」

「いえ」


視線が下向きだったため、歩いている人にぶつかってしまった。

申し訳ありませんと謝り、顔を上げる。


「……幹人」


ぶつかってしまったのは、幹人だった。




【17-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【迫田勝男】
和歌山に住む、知花の祖父。(知花の母、真子の父親)
幼い頃の知花を、よく山に連れて入っていた。
知花が『木』を好きになるきっかけを作ってくれた人。

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