17 心のバランス 【17-6】

【17-6】

こんなときには、いつもなら『COLOR』に行くところだけれど、

聖子さんには心を見抜かれそうで、とりあえず階段を駆け下り、反対側にわたる。



そう、私は三村さんを好きになっている。



どう気持ちをごまかそうとしても、何か理由をつけて忘れようとしても、

どうしても頭の中から離れていかない。

だからこそ、あの人が気になってしかたがない。



三村さんがかけなおすと言ったことを、嬉しそうに受け取った彼女の笑みが、

受話器から漏れ聞こえてきたことに、苛立ちを隠せない。

『紘生』と呼べる間柄だと知ってしまったことを、後悔している。


「最低……私」


後戻りすることも出来ず、気持ちが落ち着くまでだと言い聞かせながら、

事務所の周りを、ただ、ウロウロと歩き続けた。





季節は秋とはもう言えないだろう。今日は特に寒い。

息が白く見え、手袋のない手は、指先がかじかんでいく。



おかしいな。まだ、11月なはず。

どうしてこんなに季節は急いで過ぎようとするのだろう。



私の心は……

何も受け入れていないのに。



ただ、歩き続けても仕方がないし、さすがに体が冷えてきた。

暖まれそうな気がして、駅近くのコンビニに入る。

まだ、ランチタイムとは言えないからなのか、

店内には雑誌を立ち読みしている客が一人だけだった。

あてもなく、店内をゆっくり歩き続けると、自然とレジの前に出た。


「いらっしゃいませ……」


店員さんは、蒸し器を開けて、新しい中華まんをセットしている。

扉を開けると、美味しそうな温かい湯気が、ふわっと広がっていった。



今、事務所にいるのは、たしか6人。

蒸し器に入っている、すぐに食べられそうな中華まんも、あれこれ6つ。



「すみません、今出来ているもの、全部ください」


勢いで飛び出してしまって、しばらくウロウロしていたけれど、

何をしに行ったのかと聞かれるのも面倒。

ごまかす材料にしようと思い、人数分の中華まんを買い込んだ。

それぞれ好き嫌いはあるだろうけれど、何かしら食べられるはず。


「はぁ……あったかい」


暖房のついていた店内から外に出る。

また冷たい風がぶつかってくるけれど、

ビニール袋の中に入った中華まんのぬくもりに、手があったかくなる。


「いい香り……」


まだお昼までは時間がある。でもこれ一つくらいなら、みんなお腹に入るはず。

美味しいもので、気持ちを満たせば、少しは冷静になれるかもしれない。

私はビニール袋を右手に持ち、事務所への道を進んだ。





「ただいま」

「知花ちゃん、何よ、急にどこに行ってきたの」

「すみません、頭をリフレッシュさせようと思って、コンビニへ」

「ん? いい匂いがするねぇ、長峰」

「はい。中華まんです。よかったら一つずつどうぞ」


伊吹さんにそう言われて、今日は留守にしている社長のデスクに袋を置いた。

みんな温かくなりそうだと言いながら、周りに集まってくる。


「三村さん、屋上に行きましたよ」

「あ、うん……」



三村さん……きっと……



「ねぇ、優葉ちゃん、三村さんに声かけてきてよ」

「私がですか?」


優葉ちゃんは、ここは長峰さんが行くでしょという顔をした。

私は、たまには日本茶を飲みましょうと準備をし始める。


「いいじゃない、今日は私が食べ物を買ってきたのだから、
呼びに行くことくらい、行ってよ」


正直に言えば、行きたくない。


「はいはい、わかりました」


優葉ちゃんは、自分は『ピザまん』がいいと、小菅さんに頼むと、

すぐに事務所を出て行った。もちろん、私が行けばいいことはわかっている。

でも、屋上に行って、三村さんが何をしているのか、なんとなく想像がつくだけに、

見たくないという思いが、前に出てしまった。



楽しそうに、嬉しそうに、『あの人』と話をしていたら、

わかっていても、チクッと心が痛みそうだから……



「知花ちゃんはどれ?」

「私は、どれでも大丈夫ですよ」

「エーッ……そう言われると逆に迷うのよ」


小菅さんは、優葉ちゃんに『ピザまん』を取り、

自分のために『あんまん』を取った。残りは『肉まん』と『あんまん』。

三村さんは、『肉まん』を取るだろうか。


それぞれにお茶をいれ、自分の席に戻ると、呼びに行った優葉ちゃんと三村さんが、

一緒のエレベーターで戻ってきた。

話を聞いていたのか、社長の机にあった『あんまん』を先に取る。


「長峰さん、いただきます」

「あ……はい。あれ? 『あんまん』ですか」

「まずいですか? これ、長峰さん取ります?」


三村さんは、口に運ぼうとした袋を、急展開させこちらに向ける。

私は大丈夫ですと、手を添えた。


「いいですよ、私は本当にどれでもよかったので。
でも、三村さんが『あんまん』って思わなかった」


そう、絶対に取らないと思っていたものが、『あんまん』だった。


「そうですか。俺、饅頭は得意ではないんですよ。
羊羹とかも好きではないんですけど、なぜか中華まんのあんこは好きなんですよね」

「あ、そういう人っていますよね」

「いるでしょ。ちょっと普通のあんこと違うから」

「そうそう、そうなんですよ。私は特にこしあんが好きです」


三村さんの意見に、優葉ちゃんが賛同する。

小菅さんは、自分はどちらも好きだけれどと言いながら、あんまんを半分に割った。

三村さんは隣に座り、こちらを見る。


「長峰さん」

「はい」

「よかったら、半分ずつにします?」


小菅さんが半分に割ったのを見たからだろうか、三村さんがそう提案した。


「いえ、いいです、どうぞ」


私は、最後に残った『肉まん』の袋を取り、カップに入れたお茶を一口飲んだ。




【18-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【迫田勝男】
和歌山に住む、知花の祖父。(知花の母、真子の父親)
幼い頃の知花を、よく山に連れて入っていた。
知花が『木』を好きになるきっかけを作ってくれた人。

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