19 ぶつかりあい 【19-2】

【19-2】

『必ず応えますから』



私の思いには、全力で応えるなんて言っていたのに、『婚約者』がいたなんて。

もうこれ以上、惑わすようなことばかり、言わないで欲しい。


「乱す? 俺が長峰さんを乱しているってことですか」

「そうです。三村さんが……」


あなたがここにいるから……

私は……


「もう、いいです、帰ります」


そう、帰ろう。ここにいるから、顔を見るから腹が立つのだし。


「何も持たないで、帰るんですか」


荷物……


「いいです、それなら適当に走ってきますから」


もう、どうでもいい。

コントロール出来ない気持ちを、自分がどうしたらいいのかがわからない。

これ以上ここにいたら、私はまた……





強く腕を引かれた後、私は自分の意思とは別の方向へ動いていて……



そう……外へ向かおうとした私の体は、力強い腕の中に入っていて……



いつの間にか、誰かの唇に触れている。





三村さんに強く腕を引かれ、気づくと唇が重なっていた。

三村さんの行動が、突然の出来事だから逃げられなかったのはなくて……



気持ちと頭が、正常に機能していない。

何がどうなっているのか、もう……

これは、どう受け止めたらいいのだろう。



「バカにしないで!」



今、出せるすべての力を腕に込めて、体を離した。


「バカになんかしていない。長峰さんの方こそ……」

「私? 私が何をしたと言うんですか」


心の底から叫んでしまった。

だって、私が何をしたというのだろう。


「三村さん、あなたおかしいです」

「俺が? おかしいとはどういうことですか」

「……いるのに」

「いる? 何がですか」

「『婚約者』がいるのに、私をからかって、こんなことをするなんて。
あなたの方がよっぽどおかしいと……」



言ってしまった。

もう、元には戻らない。



いや、これだけもやもやイライラしたのは、言いたかったから。

聞きたくないけれど、それでも我慢できなかった。

これ以上、耐えきれなくて……


「婚約者?」

「そうです」


あなたに手紙を寄こし、仕事中でも平気で電話をかけてくる人、

部屋へ行くことも、名前を呼ぶことも、許されている人。

あの人……



古川紗枝さんのことです。


「何を言っているんですか」

「何って……」

「やっぱり……」

「やっぱりってなんですか」


三村さんの手が、そのとき私の左腕から離れた。

痛いのと悔しいのとで、自分の右手を添える。


「おかしいなと思ったんですよ、俺の部屋へ来てからの長峰さんの態度」


そう、私はおかしかった。

冷静に仕事をしているつもりだったけれど、

どう整理したらいいのかわからない情報があふれ、頭の中で混ざり合ってしまった。


「あの日、食事をするのも嫌がって帰りましたよね。ほんの数分前まで、
ご機嫌に本棚を見ていたのに」


確かに、あの日、三村さんの部屋まで行って、

見たいと思ったものを見せてもらった。

そこまでは、とっても幸せだったのは間違いない。


「おかしいなと思っていたけれど、でも、理由がわからなかった。
だから次の日聞いたんです。昨日はどうしたのかって」


確かに、次の日、エレベーターの中で、聞かれた。

鍵をさしっぱなしにしたという、低いレベルのごまかししか出来なくて。


「カギをつけっぱなしにしていたことを思い出したと、そう言ってましたよね。
あれだってありえないでしょ」


そう、ありえない。手紙の宛名を見たと、とても言えなかったから。


「それが本当なら、そのときに言えばいいことだし、
そもそも思い出すタイミングがおかしいです。きっと、何か隠しているのだろうなと」


やはり、おかしいと思われていた。

それでも、あの瞬間は、あれしか浮かばなかった。


「で、どうして『婚約者』のことを、知ったのですか」


優葉ちゃんに話題にするなと言った私が、

私自身で、こういうことを引き起こしてしまった。

個人的なことをあれこれ言われることが嫌いな三村さんだ、

それでも、ここまで来て、ごまかすわけにはいかない。


「優葉ちゃんが、屋上で電話をしていた三村さんから、その言葉が出てきたことを、
教えてくれたので」



『古川紗枝』



「あぁ……そうですか」


三村さん、違うとは言ってくれない。

『婚約者』という事実、それは聞き違いでもなんでもなかった。




【19-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
明治時代以降、ヨーロッパの家具に使われていたウォールナット(クルミ科)、
チーク(クマツヅラ科)、マホガニー(センダン科)が『世界三大銘木』と言われ、
特にマホガニーはワシントン条約によって制限されるほど、貴重なものである。

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