19 ぶつかりあい 【19-6】

【19-6】

「小さなケーキねぇ」

「聖子さんらしいでしょ。優しいんですよ、そういうところ」

「あぁ、そうですね、話もおもしろいし。こっちの話も楽しそうに聞いてくれるし。
だからあの店はいつも繁盛しているのでしょう」

「はい」


昼食を終えて、戸波さんに再会するため、

予定通り三村さんと事務所を出発することになった。

今日は前回とは違い、会社の軽自動車を使う。


「『浪漫亭』に行くって言ったら、
小菅さんが許してもらえるのなら写真を撮ってきてって。大丈夫でしょうか」

「平気でしょう、戸波さんも来てくれるし……」

「よかった」


デジタルカメラ。私が撮るのだから、不安もあるけれど。


「『浪漫亭』に行くって、話したのですか、小菅さんたちに」

「……行くってことは、話しました」

「行くってことだけですか」

「はい」

「ほぉ……」


三村さんは、それだけですかと少し笑いながら、ハンドルを切った。

私はその横顔をチラリと見る。


「見学を終えた後、『浪漫亭』で特別に食事をさせてもらうってことは、何も?」

「……何も……」


そう、実は戸波さんに連絡をすると、そのお知り合いの方ならということで、

急遽、食事までさせてもらうことになった。

その話は、二人に語っていない。


「小菅さんや優葉ちゃんもどうぞって、言えばよかったですか?」


そういうふうに言われてしまうと、

なんだか独り占めをしたと、怒られているみたいな気になってくる。


「そんなわけないでしょう。俺、長峰さんのためだから頼んだんですよ」


『私のため……』

昨日、言いあいの中で、互いの気持ちに素直になれた。

その次の日。こんなふうに言われると、急に照れくさくなる。


「だったら、そんな言い方しなければいいじゃないですか。もう!」


私は顔を窓の方へ向け、外の景色を見る。

でも、なんだかおかしくて、顔がゆるみだした。



『クリスマスに急に決まったデート』



互いにそんな気分だと思うと、にやついた顔になりそうで正面が向けない。


「長峰さんが言っていたお店って、次の角曲がればいいですか」

「はい」


お世話になる方たちに、私が大好きな和菓子屋の手土産を用意する。

車は信号を進み、次の角を曲がった。





「お久しぶりです」

「いえいえ、こちらこそ」


『浪漫亭』の広い敷地内で、戸波さんと待ち合わせをした。

まずは、次男の方が仕切っている工場の方に案内される。

戸波さんの工場同様、木材の香りが、心地よく鼻に届いた。


「注文を受けているのですが、なかなか進まなくて」

「『浪漫亭』が宣伝媒体のようなものですよね」

「そうですね」


『DOデザイン』も、近頃やっと、

買っていただいた商品自体を、宣伝に使うという方法を取り入れた。

『浪漫亭』は、そのやり方をオープン当初から始めていることになる。

派手な装飾や彫りはないけれど、滑らかで、手触りがなんともいえないくらい心地いい。

テーブルの素材も、吸収性があるものだからか、

食器を置く音が、あまり響かないと説明された。


「これは……」

「あぁ、これは……」


思いつくこと、全て質問するつもりで、

私は子供のように『なぜ』『どうして』を繰り返した。

戸波さんもフォローを入れながら、問題はどんどん解決する。


「あとは、どうですか」

「あぁ、はい。えっと……」


私一人であれこれ言っているのも申し訳なくて、そばにいるはずの三村さんを探すと、

ある作品の前で、何かをじっと見ていた。

私はその場所まで戻り、一緒に見ましょうと誘ってみる。


「見てますよ、長峰さんは好きなように動いてくれたらいいんです」

「好きなようにって、私一人であれこれ質問しているんですよ。
三村さんも一緒にしましょう」

「俺はいいです。人の工程を真似しようとは思わないし」


そう言われてしまうと、なんだかテンションが下がってしまう。

『真似』だけをするつもりはないけれど、そこから始まるものもあると思うのに。


「あ、言っておきますけれど、嫌みではないです。そうではなくて、
俺はものが見られたらそれでいいと思っているから」

「もの?」

「はい。後の細かいところは、その時はそうだと思っても、
結局、聞くだけで、頭が聞き流してしまうんですよ。
長峰さんのように、言葉とか資料を、きちんと引き出しに入れられないから」

「引き出しに?」

「そう。隣で長峰さんが仕事をしていたら、
聞けばその引き出しから答えてくれるでしょ」


『アトリエールの特集記事』や、『過去作品のリスト』など、

そう、私は応用が苦手なくせに、暗記はそれほど嫌ではない。


「ほら、時間がもったいないです。もうお腹一杯ってくらい、吸収してきてください」

「……はい」



これからも、互いに刺激しあいながら仕事が出来る。



三村さんの言葉に、そう強く思うことが出来た。

私は未熟で足りないところが多いけれど、出来ることも少しはあるようで、

互いにいいところを引き出しあいながら、積み重ねられたら……


「では、最後に一つ、いいですか?」


毎日が『幸せ』だと感じることが出来るだろう。


結局、私は1時間以上、質問し続けた。




【20-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
明治時代以降、ヨーロッパの家具に使われていたウォールナット(クルミ科)、
チーク(クマツヅラ科)、マホガニー(センダン科)が『世界三大銘木』と言われ、
特にマホガニーはワシントン条約によって制限されるほど、貴重なものである。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント