20 別れの挨拶 【20-3】

【20-3】

お世話になったことを、あらためて迫田の伯父に、後で電話をしてみないと。


「知花ちゃん、『NORITA』さんから」

「『NORITA』さん? 私に?」

「うん」


電話を取った優葉ちゃんに言われて、受話器を持つと、

いつも営業相手になる部長さんの声が聞こえてきた。

何時でもいいから、今日中に、店へ来て欲しいと頼まれる。

私は、片手で受話器を握り、その反対の手で手帳を確認し、わかりましたと返事をした。


「何、なんだって?」


受話器を置くと、心配そうにしていた小菅さんから、すぐに尋ねられた。


「来てほしいそうです、『NORITA』に」

「来てくれって? なんだか怖いじゃないの」

「そうですね。でも、うちの商品は今、ほとんど置かれていないし」

「あ、そうか」


何が言いたいのか、電話だけではわからなかった。

私は、デザインに詰まってしまったので、

話を聞いてからコーヒーでも飲んできますと、事務所を出発する。


「知花ちゃん、強く言われても負けないでよ」

「はい」


強く言われる材料などないなと思いつつ、私は駅まで歩いた。





ホームで電車を待ちながら、不動産の情報誌をバッグから取り出した。

ネットでもあれこれ調べると、結構な物件がヒットする。

部屋の広さは、今くらいで十分。問題は、路線。

『DOデザイン』に通いやすくて……



……来てもらいやすいところ



「ここと……ここかな」


『引越しを考えている』ということは、車の中でつぶやいただけ。

まだ三村さんにも、きちんと話していない。

ある程度、気持ちを固めてから、意見を聞いてみたいと思っていた。


「何これ、高い……」


東京でも路線が違うだけで、駅が1つ2つ変わるだけで、

『福沢諭吉』が、あっという間に家賃に上乗せされる。

どういう仕事を持つ人たちがこの場所に住むのだろうかなど、

あれこれ考えながら電車に揺られていると、『NORITA』のある駅までは、

あっという間だった。





商店街を抜け、『NORITA』の看板が見えた時、

向こうから歩いてくるスーツ姿の男性が見えた。



……幹人



『NORITA』から出てきたのだろう。

事故で怪我をしたという足は、もういいのだろうか。

歩いている様子を見ると、問題はなさそうだけれど。

このまま挨拶をすべきか、気付いていないのだから、道を逸れておくべきか、

悩んでいるうちに、幹人が私に気付いた。


「『NORITA』に行くのか」

「うん……」

「そっか」


また、何か言われるのかと思っていたのに、

幹人はそれだけを言うと私の横を過ぎようとした。

聞かれたくないのかもしれないけれど、それでも……


「ねぇ、足、大丈夫?」


幹人の歩みが止まる。


「どうして知ってるんだ」


どうして知っているのか、話したらまた、怒られるだろうか。


「『NORITA』の部長さんから、前に聞いたの」


そう、前にここへ来た時、幹人ではない営業の人が来て、

幹人が怪我をしたことを教えてもらった。


「そっか……」


まだ、言葉の続きがありそうで、足を進めていいのか、自信が無い。


「知花……」

「何?」

「終わったら、駅前の喫茶店で話せないか」


幹人の提案は、私にとって予想外のもので……


「無理か?」

「ううん……」


そう、この駅前には確かに喫茶店があった。

近頃は、おしゃれなロゴを持つコーヒーショップが、幅を利かせている中、

昔ながらの喫茶店スタイルを貫く店構えは、逆に目立つ。

私は、目の前の幹人にわかったと頷き、『NORITA』に入った。




【20-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
知花の祖父がいる『和歌山県』。
梅やみかんの生産量が多いなのは有名だが、
実は『麻雀パイ』(御坊市)も1番。他にも碁石やサイコロも生産量が多い。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


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