21 ひとつ先へ 【21-2】

【21-2】

「あぁ……もう」

「もう?」

「全く、女は面倒だ、すぐこうして嫌みを言う」

「嫌み? いえ、嫌みではないです」

「嫌みでしょう。真剣な顔をして、俺がどうしたんだって言わないから、
気に入らないのですか」

「そんなことは言っていません」


三村さんはベンチの横に板を置き、一度背伸びをする。

そして、両手を思い切り広げて私の方を向いた。

私には、何をしたいのかがよくわからない。


「ほら、何でも聞きます。頼りになりそうでしょう、
集中して聞きますから話してください」

「……だからいいです」


こんなふうにされたら、呆れてしまって、笑ってしまって、余計に何も話せない。

私は、先に事務所へ戻りますと宣言する。


「いいことがあったのでしょ」


三村さんは、そういうと軽く笑みを見せた。


「どうしてわかるのですか」

「私嬉しいの! って、長峰さんの顔に書いてありますよ」


三村さんはそういうと、私の顔に人差し指を向けながら、さらに笑い出す。


「笑わなくてもいいじゃないですか。私なりに色々と悩んでいたこともあって、
それが、解決したのですから」

「解決」

「はい。幹人と話が出来て……」


言うつもりはなかったのに、名前を出してしまった。

『幹人』って呼んでしまった。また、気にするだろうか。


「話?」

「はい。謝ってくれました。もっと自分の足元をしっかり見るべきだったって。
会社の上司の方に言われたそうです。遠くばかりを見ているから、
見えなくなっているものがある……とかないとか」

「へぇ……」

「でも、話を聞いていて、私にも悪いところがたくさんあって、申し訳なかったなと。
だからこそ、互いにそういうことに気付けて、ひとつ前に進めたというか……
なんだか今日は、安心できて」


この話をするつもりはなかったのに、話してしまった。

三村さんはベンチから立ち上がり、柵の近くまで進むとまた大きく背伸びをする。

幹人のことではない話を、すればよかったかも。


「……三村さんには、どうでもいいことでしょうけれど」


『NORITA』のことも、引越しのことも大事だけれど、幹人と話をしたことが、

私にとっては、一番の進展だった気がする。

だからつい、言葉に出してしまった。


「さぞかし、いい男だったでしょう」

「は?」

「自分の非を認めたいい男が、哀愁漂う去り際に、グラッときませんでしたか?」


何を言われているのか、聞かれているのか理解が出来ず、

私は答えを返すことも出来なくなる。

三村さんは、そんな私の腕を引いた。


「あ……」


まだ、お昼前の事務所の屋上。

誰が来るかもわからない。こんなふうに抱きしめられては困る。


「ちょっと、離して下さい。誰かが来ます」

「来るなら来ればいい。邪魔をするなと、睨みつけてやりますよ」

「三村さん……」


三村さんは冗談ですよと言いながら、私のことを離してくれた。

私はすぐに入り口の方を見る。

誰かが上がってきた様子は、なかった。


「……もう」

「何がもう! ですか。やきもちを焼かせようとしたのは、そっちでしょう」

「やきもち?」

「なかなかやりますね、長峰さん」


真面目なのかそうではないのかわからない三村さんの態度に、

私は呆れながら、背中を一度叩く。


「もう、行きますからね」

「一緒に戻ります」


三村さんは資料として持ってきた本を私に手渡し、自分はデザインの板を持つ。


「どうして重い方を私が持つのですか」

「いいから、いいから」


エレベーターのボタンを押し、空で上がってきた中に、二人で乗り込んでいく。

扉が閉まり、動き出した瞬間、三村さんの手に押され、私は壁に張り付いた。

そのまま左手が私の頬に触れ、唇が触れる。

私は、重たい本を持たされたので、手が動かせない。

結局、キスされたまま3階に戻り、扉が開いた。

三村さんは何事もなかったかのように降りていく。


「三村さん……」

「何か?」


文句を言ってやろうとした口は、なぜかそのまま閉じてしまい、

頭の中とは裏腹に、表情はゆるみっぱなしになってしまう。


「あ、知花ちゃん、今日は少しお昼に遠出しないかって、小菅さんが」

「遠出?」

「そう……って、何ニヤニヤしているんですか」

「ニヤニヤなんてしていないってば……」


優葉ちゃんと目を合わせていると、また何か探られそうで、

私は本を両手で抱えながら、席についた。




【21-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
『DOデザイン』では、社長、伊吹、三村の3人が好むタバコ。
今でこそ、20歳以上でなければ吸えない規則だが、
明治時代は、子供が吸っても特に問題なくOKだった。

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コメント

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いやぁ……

拍手コメントさん、こんばんは

>ももんたさんの創作、いつも楽しく読んでいます。

ありがとうございます!
以前、コメントをいただいたこと、覚えてますよ。
長くお付き合いしていただいて、とっても嬉しいです。


> 幸せそうな姿を読むのは楽しいのですが、
  いつもそのあとに、色々問題が起こることが多い気がして、

……いやぁ(笑)
山あり、谷ありの方がいいかなと。
そうですよね、そうかもしれないなと、思いました。
書くのが楽しい私ですが、お付き合いいてくださるみなさんあっての趣味なので、
どうかこれからも、お気楽にお付き合いください。

コメント、ありがとうございました。
とっても嬉しかったですよ!