21 ひとつ先へ 【21-4】

【21-4】

私と三村さんの間にあるゴミ箱。

ここに入っていた1枚の紙が、スタートだった。

人のデザイン画だとわかっていたのに、どうしても見てみたくて、気付くと拾っていた。


「三村さんが『DOデザイン』に来た頃には、
私、自分にこんな日が来るとは思っていませんでした。
あなたの才能が、これから始まる時間が、ただうらやましくて、悔しくて。
本当は仕事がやりたいのに、そう言えなくて、グズグズしている自分も嫌だったし……」


そう、誰が悪いわけでもない。

今思えば、私が一番悪かった。

私の気持ちなど、私が言わなければ、誰も言ってはくれない。


「ケンカしたり、思い切り叩いてしまったり、デザイン画……破り捨てたり……」

「そうでしたね」


最初から思い切りぶつかっていた。

悔しいくらいに、全てをさらけ出していた気がする。

それはきっと、三村さん自身が持っている、私との共通点があったから。


まだ、あの日から1年経っていないのに、

とても懐かしい気がしてしまう。

私がそう思いながら横を見ると、三村さんがクシャミをし鼻を軽くこすった。

どんな素材を、どう使うのか。

使い手の目的、自分の思い、そのバランスをどう取るか。

デザインに対する考え方とか、仕事に対する考え方とか、

私の中で、本当に少しずつ変化し続けてきた。


「三村さん」

「はい」

「これからも、色々と教えてください。三村さんが頑張っている姿を見ると、
私ももっと頑張らないとって、思えるんです」


隣に見えるデザイン画、それが私をいつも奮い立たせてくれる。

そんな経験は、なかなかないだろう。

『わかりましたよ』くらい言ってくれたらいいのに、何も言葉が返らない。

少し素直に正直に、言葉が出たのに……


「長峰さん」

「はい」

「これからも、互いに刺激しあって、いいものを作りましょう」

「はい」


そう、互いに刺激し合えたら、きっと……


「それと……」


それと……


「あなたをもっと知りたいと思うことも……これからは許されますよね」


三村さんと私……


「もっと近くにいたいと思うことも、認めてもらえますよね」


もっと近くで、互いに気持ちを寄せ合うこと。



「……ご存知でしょうけれど、俺は、あなたのことが好きなので」



私は、ただ頷いた。

季節は間違いなく冬だけれど、これから確実に春へ向かう。

私の気持ちも、疑うことなどないくらい、あなたに向かっている。

なんてことないこの時間が、心地よいものだから。


「引越しするんです。手伝ってくれますか?」


そう、素直に聞いてみた。

私が新しい場所を選んだのだと、知って欲しいから。


「当たり前でしょう。俺以外の誰が行くんですか」


三村さんはそういうと、照れくさそうに笑ってくれた。

よかった。きっと、私がなぜあの物件を選んだのか、わかってくれるはず。




あなたのそばに、少しでもいたいから……ってこと。





『俺以外の誰が……』

そんな言葉が、自然と出てくるようになった。

三村さんと私は、ここから一歩ずつ歩き始める。


「あ……そうだ、三村さん」

「はい」

「古川さんとの話し合いって、どうなりました?」


私は思い切って聞くことにした。

幹人と付き合っていた時のように、一人で黙っていることを選ぶのは辞めた。

気になることは、聞いてみること。

三村さんは、応えてくれると、そう約束した人なのだから。


「あぁ……話してませんでしたっけ」

「はい、具体的にどういうお話をしたのかまでは、何も」


電話での声を聴いただけだったけれど、私にはとても親しい間柄に思えた。

過去とはいえ、親が決めていたこととはいえ、『婚約者』という響きは重い。


「紗枝を部屋に呼んで、自分の状況も、これからどういう道を歩くつもりかも、
それから……思っている人がいるということも、話しました」


三村さんは、疎遠になっている親に伝わるだろうということも考えて、

隠さずに伝えたと話してくれた。紗枝さんも、部屋にあった作品には驚きながらも、

三村さんの才能を褒めてくれたという。


「紘生は、机に座ってお金の計算なんかしているよりも、
こういう方が合うのでしょうねと、笑ってましたよ。
そこら辺はつきあいが長いですからね」

「……そうですか」


『紘生』

親しいからこそ、そう呼べるのだろう。その呼び方はまだ、私には出来ない。

さりげなく出てしまう間柄、その流れてきた時間に、小さな嫉妬をした。




【21-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
『DOデザイン』では、社長、伊吹、三村の3人が好むタバコ。
今でこそ、20歳以上でなければ吸えない規則だが、
明治時代は、子供が吸っても特に問題なくOKだった。

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