21 ひとつ先へ 【21-6】

【21-6】

「ご苦労様でした」

「失礼します」


積み込む作業に負けないくらい、下ろす作業も徹底したプロの仕事だった。

引越しは思ったよりも早く終了し、人の数が減った。

母には、引越し全てがパック料金に含まれていると説明したけれど、

本当は違っている。


「やっぱり、もう少し右かな」

「ん? 少し前に左って言いませんでしたか」

「でも……置いてみたらそういう気がして」

「そういう気?」

「……うん」


とりあえず家具も配置してもらったが、部屋の向きが今までと変わったので、

まだしっくりと来ない。他のものを入れているうちに、

別方向へ動かした方がいいような気がしてきてしまった。


「どう?」

「ありがとうございます。よくなりました。で、その棚はこっちに……」

「こっち? いや、これは絶対にこっちだと思うけどな、扉が開けにくくなる」

「そうですけれど、動線を考えると……」

「いや、こっちでしょう」


そう。今回、思ったよりもお安い値段で引越しが終わったのは、

三村さんが手伝ってくれているから。


「どうでしょうか」

「はい。OKです」


今まであるものを再利用しているのは当たり前だけれど、

床は全てフローリングになった。それでも大好きなコタツは、部屋の隅に置く。


「こたつか、いいですね」

「いいですよ。冬はコタツが好きなので。
夏は布団をはずしてテーブルになるし、結構便利です。
ほら、手を思い切り伸ばせば、平面全てに届くし、仕事もしやすいですし」

「ほぉ……」


最後にカーテンを取り付けて、その日の作業は終了にした。

まだ、引き出しなど、荷物が入れきれていないけれど、

それは私がゆっくりと、整理していけばいい。


「さて、それなら食事にでも行きますか」

「食事? 外にですか」

「はい」

「これから何か作ろうかと思っていたのに」


以前、下見に来た時、スーパーなどはきちんとチェックしておいた。

これからなら、まだ時間がある。

たいしたお礼は出来ないから、せめて……


「無理しないほうがいいですよ。
ここ数日、仕事しながら引越し準備してきたんじゃないですか?
一気に色々やろうとすると、疲れで潰れます」


料理は嫌いではないので、何か作ってゆっくり食べてもらおうと思っていたけれど、

確かに、疲れていないかと言われたら、気が張っているだけかもしれない。

手続きも書類の記入も、お金の引き出しも、それなりに色々とあった。


「ここでの食事は、また楽しみにさせてもらいますから。今日は行きましょう」

「……はい」


その日は三村さんに甘えて、食事に出ることにした。

以前、『エアリアルリゾート』を見に行った日に、乗せてもらったブラウンの車。

三村さんが運転席に乗り込むのを見ながら、助手席の扉を開ける。



もう、後部座席に乗るのかどうかなど、聞くことはしない。



「さて、何にするかな」

「なんでもいいですよ」


そう、どんなものでも、楽しく話ができたらそれでいい。

三村さんは、左右を確認すると、ゆっくりアクセルを踏み込んだ。





「社長が?」

「うん。正式にはまだ発表前みたいですけれど、おそらく4月からだと思います」

「それが動き出したら、すごいことですね」

「そう……すごいことなんです」


お嬢様大学として有名な『ナビナス女子大』が、

創立50年を記念して、『学生寮』をリニューアルさせることになった。

全部で50名が入る寮は、勉強机から箪笥、鏡台に至るまで、

すべて備え付けというものになるらしく、その家具をトータルでデザインし、

作り上げていく仕事が、『DOデザイン』に回ってくるという情報だった。


「テーブルも椅子も、ソファーから棚から、全てトータルにデザイン出来るなんて、
夢みたいな仕事」

「夢?」

「そう、夢です。
私、将来自分が住む家の家具は、全てデザインしてみたいと思っていて」


祖父に、連れられて山へ入っていた頃から、

空想の世界に入り込み、あれこれ考えることが好きだった。

いらない木の板をもらってきては、金槌や釘を使い、

テーブルらしきものを作ったこともある。

どこまでも続く森の中に、自分の場所を勝手に区切り、空想上の部屋を得ていた。


「じゃぁ、材料を集めて、トントンカンカンやっていたわけですか」

「そうです。そうすると、表面がザラザラしていることが気になるでしょ、
祖父の知り合いが、材木にカンナがけしていたのを見たりしていたから、
自分のものも滑らかにして欲しいと頼んだこともありました」

「あはは……すごいですね、それ。遊びを越えてますよ」

「笑えるかもしれないけれど、当時の私は真剣だったんです」

「いやいや、真剣だったでしょうね」


子供時代から、他のものを積極的に選ぶことなど一度もなかったのに、

『木』に関することだけは、いつも貪欲になれた。


「座ったときに高さがどれくらいだと使いやすいとか、角の丸みがどれくらいだとか、
誰に教わったわけでもないのに、自分で考えていたんですよね」


山の中にいたら、木があるところにさえ置いておいてくれたら、

私は一日中、色々と考えを巡らせることが出来る。

それはきっと、今でも同じ。


「だから長峰さんは、細かい細工の部分が得意なんですね」

「……うーん……得意ですか?」

「あの『COLOR』にあるチェストもそうだったし、今回のジュエリーボックスも、
俺には、あぁいったアイデアは出てこないですから」

「……そうですか?」


三村さんに褒めてもらうと、小さなことでもやり遂げた気分になれる。

ぶつかることが多いだけに、認めてもらえた時の喜びは数倍にもなった。


「まぁ、作るものが大きくなると、途端に一辺倒になりますけどね」

「……ん?」

「すぐ平均点を求めに行くでしょう」


『平均点』

せっかく気分よく食事が出来るところだったのに。

全く、一言多い。


「一言多くないですか、また」

「そうですか」

「そうですよ。三村さんのように、自分の自由さだけを追い求めていたら、
テーブルはいつまでも螺旋階段のようにグルグル回って、
絶対に平面にはなりませんからね」

「螺旋階段?」

「そうです。やりたいことを詰め込みすぎなんです」


まるで子供のケンカみたい。

私は、そう言い切った後、三村さんと顔を見合わせて、笑ってしまった。




【22-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
『DOデザイン』では、社長、伊吹、三村の3人が好むタバコ。
今でこそ、20歳以上でなければ吸えない規則だが、
明治時代は、子供が吸っても特に問題なくOKだった。

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