23 真実のネタ 【23-4】

【23-4】

その後、エレベーターから降りてきた他の会社の社員に、

何をしているんだという目で見られてしまう。


「驚かさないでください」

「長峰さんが何かを隠しているからですよ。妙におどおどしていて、
顔もあわせようとしない。話があるのなら、きちんと話せばいいでしょう」



話……



話したいことはあるけれど、でも……


「何かまた、トラブルですか」


三村さんは、どこかに無茶なことを言われたのかと、そう尋ねてくれた。

やはり、このまま黙っているのは、自分のもやもやを増やすだけで、

何一つ解決しない。


「あの……」

「あ、間に合った」

「優葉ちゃん」

「追いかけてきたんですよ、知花ちゃん……って、何しているんですか? 二人で」


優葉ちゃんには、まだ何も話していない。

ここで三村さんと二人、消えていくのもおかしく思われてしまうだろう。


「二人って、今エレベーターを降りたから。ね、三村さん」


私は優葉ちゃんの横に並び、慌てて帰ろうとしているのは、

これからデートでもするのかとからかった。

どうせ駅まで行けば、私たちと優葉ちゃんは別方向になる。

話はその後、すればいい。

三村さんは不満そうな顔をしたけれど、ここはごまかしておくことにした。


「今日は、知花ちゃんの降りる『花町』で乗り換えることになって。
で、一緒に帰ろうと思っていたのに、ちょっとした隙に出て行ってしまったから、
慌てて追ってきたんですよ」


『花町』

私と三村さんの路線、しかも私が降りる駅だ。

このままでは、三村さんと話をすることが出来ない。


「『花町』で?」

「はい。今日は彼氏の友達が経営しているお店で待ち合わせなんです。
『花道』から『南上線』に乗ってすぐなんですけどね。
あぁ、よかった、知花ちゃんが一緒だから、話し相手もいるし退屈じゃない」


これは、今日という日がこういう日なのだと、タイミングが悪いのだと、

そう思うしかない。そう、三村さんは明日から3日出張に出る。

考えてみたら、わざわざこのタイミングで、難題を振りかける必要もないはず。


「そうだね、退屈ではないわよね」

「はい」


私は、流れに任せて優葉ちゃんと笑いながら歩いた。

優葉ちゃんは、時折三村さんを話題に入れながら、何も知らずに明るく振舞っている。

ホームに電車が入り、それぞれが吊り輪につかまり、

時刻どおり動き出す。一番右に優葉ちゃん、そして私、三村さん。

3人のシルエットが、地下鉄の中で窓ガラスに映っていた。

優葉ちゃんの話を聞きながら、時々三村さんの表情を見ると、

明らかに不機嫌そうで、私はすぐに目をそらす。



『次は……『花町』、『花町』。『南上線』はここでお乗り換えです』



アナウンスが『花町』を告げる。


「あ、もう着きますね」

「そうね」


電車の速度がゆっくりになり、降りる人たちが少しずつ動き出す。


「それでは三村さん……」


優葉ちゃんがそう声をかけ、私も……


「エ……」


自由にホームに降りた優葉ちゃんとは違い、私は……

三村さんにガッチリと腕をつかまれたまま、結局、扉が閉まってしまう。

ホームには驚き顔の優葉ちゃんが残された。


「三村さん……」

「長峰さん、何、考えているんですか、
このまま、さようならってなるわけがないでしょう」

「でも……」


優葉ちゃんは、目の前で起きていることが理解できず、

どういうことだろうかと目を丸くしている。

三村さんは、これは偶然でもアクシデントでもなく、

意思なのだとわかるように、優葉ちゃんに向かって手を振った。

優葉ちゃんの人差し指が、私たちの方を示している。

私たちを運んでくれた電車は、また時刻どおり次の駅へと進み始めた。



明日の朝、どう説明しよう。



「こんなふうにしなくても……」

「話があるのでしょう。小暮さんが来たからといって、
ごまかして、さようならって出来るわけがないじゃないですか」

「あの場合は、仕方がないでしょう」


会社の前で、あれこれ言っていたら、他の人たちだって出てきたかもしれない。

そう思うと、私にはあれしか出来なかった。


「はぁ……まだ内緒でよかったのに」


まだ、事務所の人たちには知られたくなかった。

小菅さんならともかく、優葉ちゃんでは完全にアウトだろう。

『COLOR』の聖子さんまで、すぐに伝わりそうだ。


「どうしてですか。俺たち、悪いことしてます?」

「そうではなくて……私。まだ、あれから半年しか……」


色々な出来事も、色々な事情もあったけれど、結婚直前まで進んだ人がいたのに、

その話が壊れて半年しか経っていない。

三村さんがいたから壊れたのかと思われるのも、それも困る。


「誰が何を思おうがいいでしょう。大事なのは自分たちだ。
人なんて、何秒かあれば『恋』することくらい出来ますよ」


何秒って……


「あぁ、ほらまた、長峰さんの悪いところです。すぐに人のことを気にする。
人がこう思うから、自分は我慢しようって、割り切ったような顔をする。
でも、心の中にある疑問や不安は取り除けなくて、もやもや過ごすわけでしょう」


言い返そうと思ったけれど、確かに言うとおりだった。

話しをしたいと思い、事務所を出たのに、

状況を見てすぐに取りやめようと思ってしまった。

でも、一人で部屋に戻れば、頭の中は疑問や不安でいっぱいになってしまうのに。


「俺は、そういうもやもやした状態が嫌だったので。
気になるので、手を離しませんでした」


電車の音の中で、言い合いをしていた声が止まる。

3人だったシルエットは、私たちだけになった。

私の右手と、三村さんの左手がそれぞれ吊り輪をつかんでいる。



三村さんの右手と私の左手は、つながったまま。



私は、『ごめんなさい』の意味を込めて、少し強く握りかえした。




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《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【古川紗枝】
エステ業界で売り上げを伸ばす『MARBLE』、副社長の娘。
アメリカへ留学経験を持ち、食生活やエステの勉強を何年かし、日本へ戻る。
紘生とは母親同士が同級生で、兄妹のように育つ。

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