24 知らない顔 【24-2】

【24-2】

お母さんは、学生時代からの友人の娘を、息子のお嫁さんにしようと考えていた。

古川家は、エステで業績を伸ばしているので、

『折原製薬』と提携という形で会社はタッグを組めるし、

三村さんの代わりに紗枝さんが働けば、それなりに『折原家』に対し、

言い訳が出来ると思ったという。


「自分の周りが敵だらけだと思っている母にとっては、
幼い頃からかわいがっていた紗枝の存在は、特別なものがあるんですよ。
俺にとっては、デザインの仕事が出来ることが、何よりも優先でしたから。
肩書きだけ折原を名乗ればいいのなら、それで母親から責められなくなるのなら、
周りに気をつかう母も、気持ちを落ち着けてくれるのならそれで構わないと、
とにかく押し問答を納めようと思ったことは事実です」

「承諾したのですか」

「まぁ、そういうことになります。紗枝が受けるわけがないと思っていたのも、
ありますけど……」



『婚約者』



だからそういう表現になったのだろう。

親同士の勝手な約束と思っていたけれど、話の流れで聞けば、三村さんにも責任がある。

大事な部分で、適当にしてしまうなんて。


「紗枝さんが望んだら、婚約して、結婚するということですよね」


三村さんは、わかっていない。

紗枝さんが、どういう思いでアメリカに残り勉強をし続けたのか。


「長峰さん」

「紗枝さんが、三村さんのことを思っていたら……」

「もう少し聞き続けてください」


『聞き続ける』

そう、一人で話すと、三村さんはそう言った。口を挟みたいけれど、

ここは黙っていなければ。


「こうして仕事をしていることがわかってしまった以上、
いつまでも外国を旅しているのもおかしいですし、日本に戻りたい理由もあって、
で、5年ぶりに戻ってきました。そして、会社を探しているとき、
あのチェストに出会いました。あたたかさと、繊細さが重なっていて、
奇抜なものを見続けてきた俺には、衝撃的でした」


『COLOR』のチェスト。

三村さんは確かに、あれを気に入ってくれていた。


「あのチェストに惹かれて、『DOデザイン』に入って、長峰さんに出会った。
あなたの態度や言葉に、始めは確かに突っかかっていたのだと思います。
意地っ張りだけれど、その意地を突き通すことも出来なくて。
でも、長峰さんを見ていると、もがいていた頃の自分にどんどん重なって、
心が破裂する前に救い出してあげたいという思いが、いつの間にか、
そばにいたいという気持ちに変わっていて……」


幹人との日々に苦しんできた私を、三村さんはいつも助けてくれた。

そう、私もいつのまにか……



好きになっていた。


「デザインをすること、それと……あなたと一緒にいること、
その二つは、俺の中で切り離せないものになっていました。
だから、この間、紗枝に謝りました。自分自身が浅はかだったと、
申し訳ないとここで言いました。あいつは、本気にしていなかったから大丈夫だと、
笑ってくれていましたけど」


千葉さんが言っていた。

アメリカでの勉強も、『折原製薬』を意識してのものだったと。

笑っていたというのは、本心を隠したいだけ。

三村さんに対する思いが、ただの幼なじみではないと言うことを、

私は知ってしまった……

同じ女性として、こうした話を聞いてしまうと、心がズキズキと痛んでくる。


「笑っていた、紗枝さんの気持ち……考えてあげてください」


本当は、笑っていたくなどなかっただろう。

幼なじみで、何もかも知っているからこそ、きっと、

『好き』だという思いを、素直に出せなかったのかもしれない。


「この間、『MARBLE』に行くことになって、紗枝さんとお会いして、
私は……」


私は、紗枝さんの中にある、三村さんへの思いに気付いてしまった。

隠そうとしても、隠せない思い。


「紗枝さんは、三村さんのことが今でも本当に好きなんだと思います。
それくらい、わかります」


私自身が、言葉をうまく出せないから、気持ちをうまく出せないから。

タイプは違うけれど、嫌われたくないから、思ったことが言えなくなる。

紗枝さんは、あえて自分を強く見せることで、必死にバランスを取っているのだろう。


「私にだって……わかります」


紗枝さんの気持ち……


「それなら、俺はどうすればいいですか。言ったことに責任を取って、
それで親の提案を受け入れて、結婚しろとそういうことですか」

「それは……」


それはダメ。

私自身、三村さんを失えない。

私は、無意識に三村さんの腕に手を伸ばし、袖を掴む。




「俺の中には……あなたしかいない」




人は、自分なのか、他人なのか、必ず誰かを傷つけながら生きている。

そう言っていた三村さんの言葉が、頭の中をよぎっていく。


「長峰さんの言うとおり、紗枝にも思いがあったのなら、納得してもらうまで、
何度も謝らないとならないと思いますが、『折原家』に謝罪をするつもりは、
何一つありません」

「三村さん」

「俺は俺です」


三村さんが、折原さんだろうが、正直どうでもいいのかもしれない。


「これでは、納得できませんか」


大きな企業の息子さんだということは驚きだったけれど、それもどうでもいい。

私が好きになった人は、今、目の前にいる人……

それは、何がどう変わっても、同じなのだから。


「もう一度言います。これは俺の問題です。だからあなたが悩むことも、
苦しむこともありません。母が体調を崩したのも、それを見舞いにいけないのも、
紗枝に迷惑をかけたのも、俺が撒いたタネです。
ただ、こんな事情を抱えた男は嫌だと思うのも、あなたの自由ですが……」


嫌いになど、なれるわけがない。

今でも、『好き』と言う思いが、ただ、あふれそうなのに。


「嫌だと言わずに、納得して欲しいという気持ちで話をしました……けど……」


私は、ただ、三村さんの胸に飛び込んだ。




【24-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【折原紘生】
三村の本名。『折原製薬』の化粧品部門トップに立つ、折原国男を父に持つ。
実家との決別をするため、あえて名乗らずに生きてきた。
イタリアにいた時に、『J』の名前で、デザインの賞を取る。

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