24 知らない顔 【24-5】

【24-5】

「で、自分のデートはうまくいったわけ?」

「私はOKですよ。いいお店だったんです、それが」

「へぇ、どこにあるのよ」


そこからは優葉ちゃんが、お薦めの店について熱く語りだし、

私と三村さんの話は、どこかで空中分解となった。





『COLOR』から出た後、優葉ちゃんは塩野さんに頼まれた用事を済ませようと、

取引銀行へ一人で向かった。私と小菅さんは並んで事務所へ向かう。


「ありがとうございました。助かりました」

「いえいえ、どういたしまして。まぁ、二人が付き合っていることを、
公表してもいいとは思うけれど、二人がやりにくいかなと思って」

「はい……」

「不安や疑問や問題点は、解決したの?」


解決したのかと言われると、完全なものとは言えない。

名前のこと、境遇のこと、お母さんのこと、問題は山積みのままだ。


「二人で話はしました。解決ではないですけれど、私に出来ることは、
ただ騒ぐことではない気がして」

「ふーん……」

「でも、もやもやしたものは、ずいぶん晴れました」

「……そう」


三村さんの事情を、小菅さんに今ここで語るわけにはいかない。

それでも、理解者がいてくれる気がして、少しだけ心強くなる。


「男はね、女よりも絶対に子供なのよ。大きく構えてあげなさいね」

「はい」


小菅さんに『よろしい』と頭をなでられ、

私たちは笑いながらエレベーターに乗り込んだ。





それから2日後、三村さんが出張から戻る日、

朝から私宛に電話が入った。相手はライターの千葉さん。


「はい」

『もしもし、千葉です』

「はい」


千葉さんが電話をしてきたのは、紗枝さんの代理としてだった。

時間があるときで構わないので、どこか喫茶店で会えないかと提案される。

私は、事務所の人が動くこちら側ではなく、

駅の反対側にあるコーヒーショップを指定し、その時間に向かう。

店に着いたのは私が先だったため、カフェラテのカップを手に持ち、

空いている席を探した。


「ごめんなさいね、お待たせして」

「いえ」


紗枝さんが来てくれたのは、それから5分後のことだった。

同じようにカフェラテのカップを持ち、目の前に座ってくれる。


「さて、紘生には伝えてもらったかしら」

「伝えたというよりも、紗枝さんから聞いた話を、詳しく聞きました」

「詳しく?」

「はい……」


三村さんが折原さんという名前を持つこと、『DOデザイン』に来る前までの話など、

見えなかった部分を、しっかりと見せてもらった。


「私がお願いしたことも、話してくれた?」

「お母さんが入院されたことは言いました。でも、具体的にどうしろとは言っていません。
三村さんもこれは自分の問題だから、任せてくれと言いましたし、
色々なものを諦めてきた彼の気持ちを思うと、押し付けることも出来なくて」

「押し付け……そうかしら。離れているとはいえ、紘生は『折原家』の一員なのよ。
逃げているのはおかしいでしょう」


逃げている……

確かにそう思えるのかもしれない。


「彼の思うことを、私は応援しようと思っています。でも、今は出張中なので、
戻ってきたら、また……」


そう答えることしか出来ない。

誰だって、ケンカしたままでいいとは思っていないだろう。


「紘生、おば様の体調、それほどでもないと思っているのね、きっと」

「……エ」

「入院してもあまり食べないし、いつもため息ばかりついているのよ。
すっかり痩せてしまって」


私には、三村さんのお母さんがどういう人なのか、

それはよくわからない。私の母は、いつも元気で、少し体調を崩しても、

次の日にはいつも笑ってくれるような人だった。


「私なら……そういう状況がわかるけれど、長峰さんには伝わらないわよね、
仕方がないけど」


何気ない言葉なのだろうか。

その割には、結構、チクリとくるような言い方をされているような気がしてしまう。


「すみません、私は三村さんのご家族のこと、何も知らないので」


そう、何も知らない。


「そうね、何も言われていないのだから仕方がないわよ。あなたの責任じゃないわ。
わかりました。それなら紘生に直接言います。まどろっこしいことをしてしまって、
ごめんなさい」

「いえ……」


紗枝さんはそういうと、カフェラテのカップを持ち口をつける。


「紘生、いつ戻るの?」

「今日の夕方過ぎです」

「そう……」


話はほとんど一方的なもので、紗枝さんは先に店を出てしまった。

私の『カフェラテ』は、まだ半分くらいしか減っていない。



『おば様の体調、それほどでもないと思っているのね……』



それほど、具合が悪いのだろうか。

三村さんのお母さん。





三村さんと伊吹さんが事務所に戻ってきたのは、その日の夕方だった。




【24-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【折原紘生】
三村の本名。『折原製薬』の化粧品部門トップに立つ、折原国男を父に持つ。
実家との決別をするため、あえて名乗らずに生きてきた。
イタリアにいた時に、『J』の名前で、デザインの賞を取る。

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