24 知らない顔 【24-6】

【24-6】

『ナビナス女子大』の寮建設について、話し合いは順調に進んだらしく、

工事は5月から始まるという。


「おぉ……いいなぁ」

「いいですよね」

「あぁ、なかなかこれだけの規模は出来ないぞ」

「はい。素材もいいものを選びましたし、建設会社の方々とも、
顔合わせをさせてもらいました。慣れている人たちが多くて、
知識も私たち並にありますからね、いい仕事になると思います」

「うん、うん」


報告はリーダーになる伊吹さんが行ない、三村さんは荷物を横に置き、

自分の席に座った。ポケットからタバコを取り出し、テーブルに置く。


「お疲れ様」

「はい……」


女子寮の備え付けの家具を、全て調える仕事。

色々と関わる人たちも多いし、仕事内容も複雑だが、達成感も高そうだ。

私もいつか……



こんな充実した大きな仕事が、担当出来るようになるだろうか。



三村さんは疲れてしまったのだろう。

机の上に顔をつけると、そのまま目を閉じている。



何もかもをここに向けてきた人だ。

そして、それだけの才能と実力も持っている。

大きな企業を継ぐことも、大切なことかもしれないが、

三村さんには、ずっとこの仕事をさせてあげたい。



そして、その片隅に、私がいられたら……



木のぬくもりと優しさに、触れていられたら、それで幸せだと、

心から言えるのに。



私は幸せそうに眠る、三村さんの顔を時々見ながら、

自分の仕事を、最後までしっかりとやり遂げた。





「どうして起こしてくれないかな」

「気持ちよさそうに寝ているから、黙っていただけです。
起こして欲しいなら、起こしてくださいねって、言えばいいでしょう」

「そういう感覚なしに寝ていたものですから、申し訳ございませんね」


三村さんが目覚めたのは、夜7時過ぎのことだった。

気がつくと、残っているのは私と三村さんだけになっていて、

私も帰ろうと思い、初めて声をかけた。

三村さんは、どうもそれが気に入らないらしい。


「普通、誰かが起こしますよね」

「普通、誰かが動いていたら起きますよね」

「あぁ……明日まで仕上げないとならないのに、出来ていない」


三村さんは、『ナビナス女子大』の仕事だけをしているわけではない。

細かい仕事もあれこれあった。

私は帰り支度を済ませていたが、バッグを横におく。


「何か、手伝えること、ありますか?」


私の提案に、三村さんが待っていたというようにこちらを見る。


「手伝ってくれるのですか、長峰さん」

「そんな顔をされていたら、帰れませんから」


提出書類の清書だとか、図面の引きなおしくらいなら、私でも出来るはず。


「それなら……」


三村さんが押し出してきたのは、あまり見たことのないような図面だった。

FAXで送られて来たようで、名前を見ると『戸波陽平』となっている。


「これ、戸波さんのですか」

「そうですよ。最終的には戸波さんが決めますけれど、
アイデアを数点出してくれと言われていて」


クライアントとの話し合いに出るため、

アイデアを5つ以上提出して欲しいといわれているらしく、

3つしか出てこない戸波さんは、三村さんにSOSを出した。


「製品として決定するのかどうかわからないという中途半端なものですが、
逆に、長峰さんのプレッシャーにはならないかぁ……と」


自由な発想だけ、提案すればいいのなら……


「……それなら」


戸波さんには、私もたくさんお世話になっている。

何かのお役に立つのなら、こんな遊びも悪くない。

デザインのペンと紙、数冊の『アトリエール』。


なんだか、工作をしているようで楽しくなってきた。


「三村さん……」

「はい」

「今日、紗枝さんが私に会いに来ました」

「……何か、言われましたか」

「いえ、お母さんのお見舞いに行って欲しいと思っていることを、
三村さんに伝えてくれたのかという確認でした」


そう、あれは確認だった。



『わかりました。それなら紘生に直接言います。
まどろっこしいことをしてしまって、ごめんなさい』



紗枝さんは、三村さんと連絡を取る理由を、探していたのだろう。


「私は、無理に言えないと言ったら、直接連絡をすると……そう……」

「……そうですか」


そんなことをしなくても、幼なじみなのだから携帯の番号を知っているのだから、

自由に連絡すればいいのに、

『理由付け』をしてから連絡をしようとする紗枝さんの気持ちが、

なんだか切ない。


「三村さん」

「はい」

「紗枝さんの気持ちに、正面から向かいあってあげてくださいね……
私は、三村さんを信じてますから」

「……はい」


人を傷つけて生きていかなければならないのなら、その傷が少しでも癒されるように、

フォローすることが、こちらの義務。



私と三村さんは、そこからしばらく無言のまま仕事に向き合った。




【25-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【折原紘生】
三村の本名。『折原製薬』の化粧品部門トップに立つ、折原国男を父に持つ。
実家との決別をするため、あえて名乗らずに生きてきた。
イタリアにいた時に、『J』の名前で、デザインの賞を取る。

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