25 チームワーク 【25-6】

【25-6】

「結局、私だけ騙されていたわけでしょう」

「だから騙していたわけではないの、ねぇ、知花ちゃん」

「そう、騙してはいない」


その日の昼食タイム。ひとりだけ私たちの事情に気付いていなかった優葉ちゃんが、

頬を膨らました状態で、お冷をどんどん飲んでいく。


「ほらほら、そんなに水ばかり飲むと、水ぶくれしちゃうからね」

「いいんです。もう」


小菅さんは、子供のようだと笑い、聖子さんは何があったのかと尋ねて来た。


「あ、聖子さん、聖子さんもわかってなかったでしょ。知花ちゃんと三村さん、
お付き合いしているんですよ!」

「……あ、そう」

「あ、そうって、驚かないんですか?」

「驚きはしないわよ。だって私は前から二人はそうなるんじゃないかなと、
思っていたもの」


『水と油』、一見正反対という意味を、

『ドレッシング』に置き換えてくれたのは、そう、聖子さんだった。


「思っていた? いやいや、結果が出てからだと誰でも言えるんですよ」


優葉ちゃんは、空になったコップを手に持ち、水を入れにいく。


「あら、私がやるのに」

「いいんです。動かないと水ぶくれですから」

「あはは……」


小菅さんがまた笑い出し、私もそれにつられてしまう。

優葉ちゃんも膨れていた頬をすっかりしぼませて、楽しそうに笑い出した。





「で、全体的にはこんなイメージです」

「はい」


その日の午後も、ほとんど三村さんと顔を突き合わせ、

女子寮のイメージを教えてもらった。

全体像は伊吹さんがほとんどOKをもらっていて、

私はこれから細かい部分を、あれこれ希望通りにしていかなければならない。


「建設会社は『花嶋建設』です。次回、担当者が来ることになっていたのですが。
まぁ、現場で数回会うだけでしょうから、適当に挨拶しておけばどうにかなるでしょう」

「はい……」


大きな仕事のため、関わる人数も多い。

全体の顔合わせはこれからだったため、未知数の方が上をいく。

伊吹さんは社長と、別の仕事を請けるための接待に出かけ、

小菅さんはご主人のご両親が秋田から来るのでと、今日は早く帰った。

定時に帰った塩野さんと、優葉ちゃん。

そう、事務所には私たちだけになっている。


「さて、説明はここまでです。で、何か質問はありますか」

「質問……」

「そうです。逆に、質問されたときには、
長峰さんがしっかり答えてくれないと困るので、適当にしておかないでくださいよ。
時々、そういうところがありますから」


時々、そういうところ?

そのセリフは、聞き流しているわけには行かない。


「私……」


ひどいですねと言おうとして、そういえば『エアリアルリゾート』の最終プレゼンの前、

手直ししたことをすっかり忘れ、出かけてしまったことを思い出す。



適当にしているつもりはないけれど、

結果的に、適当だったことは、確かにあった。



「あれ? 反論なしですか」

「したかったですけど、出来ないなと思って。『エアリアルリゾート』の時、
私、大失敗するところでしたから」


用意してきた原稿が使えなくなり、どうしようかと汗をかきながら、

私はただ、自分の『木』への思いを語った。


「あれはあれでよかったでしょう。
長峰さんが自分を出す、いいきっかけになりましたからね」


そう、そういえば……

本音で言えたということが、とても気持ちをほぐしてくれたっけ。

三村さんが隣にいることが、とても心強くて……



三村さん……



「あ、質問があります」

「はい」

「どうして三村なのですか?」


三村さん、三村さんと頭に浮かべていたら、急に知りたくなった。

『折原』という名字を使いたくないという理由はわかるけれど、

なぜ、三村という名字を選んだのだろう。

三村さんは、何でも質問をしろと言った割に、答えを戻してくれない。

そんなに考え込むほど、難しい問いをしただろうか。


「あはは……」

「何かおかしいですか」

「いや、おかしいと言うより、この流れで質問って言ったら、普通は仕事のことでしょう。
長峰さんは本当に幼稚園児みたいだ、突拍子もなくて」


三村さんはそういうと、ポケットから名刺入れを取り出し、

1枚の名刺を出してくれた。少し古く、汚れている名刺。



『三村栄吾』



肩書きのない名刺。

誰のものだろう。


「この人が、俺にデザインの楽しさも、大変さもすべてを教えてくれました。
大学に通いながら、隠れて通っていたデザイン学校の非常勤講師です」


大学の講師もしていた三村栄吾さんは、ここにいる三村さんと、

あの戸波さんとの出会いも作ってくれたという。


「三村先生がいてくれたので、俺は夢を広げることが出来ました。
戸波さんや、他のみんな、また外国から来ているタマゴたちにも会えたんです」


仕事で向かったイタリアで、友達の裏切りを知った後、

三村さんが悩みながらも自分を自由に出来たのは、

三村先生が教えてくれたことがあったからだと、懐かしそうに話してくれた。




【26-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
タンスの数え方は、『竿』で数える。(一竿、二竿……)。
その理由は、江戸時代、タンスを竿で担いで運んだことからで、
当時は、竿を通す金具がついていた。

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