29 気まずい時間 【29-3】

【29-3】

でも、道場さんがやる気を出しているのに、それを押しのけて進む自信はない。


「そうですか。それなら道場さん、戻りましょう」

「はい」


三村さんが歩く後を、道場さんがすぐについていく。

私もその後ろをついていこうとしたが、

フェンスの近くで、風にビニール袋が飛んでいることに気付いた。

このままだと、フェンスを乗り越えてビルの上から下に落ちてしまうかも。

そのすぐ横には電線があるので、それにひっかかるようだと困る。

その前に拾っておこうと追いかけた。


「よし、つかまえた」


私はビニールを細く縛り、扉の方を見る。

いたはずの、二人の姿が消えていた。





今の三村さん……

明らかに怒っているように見えた。

確かに、萩尾さんの仕事で、デザインを担当したのは私だけれど、

でも、あの仕事は三村さんがいたからこそ、成り立った。

何度もダメだしされて、それでも頑張り通せたのは、

三村さんがフォローしてくれたから。

『私のデザインです』なんて、とても企業の前に出て行けない。

ビニール袋を手に持ち、下へ行ってしまったエレベーターを一人で待つ。

どこかにある別会社が邪魔をしているのだろうか、なかなか上がってこなかった。



私が遅れて戻ると、三村さんは電話の最中だった。

同じくらいのタイミングで外から戻った社長には、いきさつを伊吹さんが語っている。


「何、『エバハウス』からか」

「はい。仕事になるかもしれませんね」


決まれば大きいと、社長は嬉しそうに笑い出す。

確かに、注文住宅を手がける数は、個人の建築士の比ではない。


「はい、わかりました。それでは失礼します」


三村さんが受話器を置くと、社長はすぐにどうだと聞き返した。

三村さんは、走り書きしたメモを持ち、社長の前に立つ。


「『エバハウス』の如月さんという方です。前回の萩尾建築士が、
うちを紹介してくれたそうで、僕の名刺を見せたので僕宛に連絡がありました」

「そうか、それで」

「ぜひ、週明けにも来て欲しいと。
いくつかデザインの見本も見せて欲しいと言われました」


社長は全員のスケジュール表を広げ、うまくいけばいいなとつぶやいた。

三村さんはメモを閉じると、こちらを見る。

私は下を向き、ジュエリーボックスのデザイン直しに気持ちを移そうと……



だって……

三村さんの目を……怖くて、見ていられなくて。

絶対に怒っているのがわかるから。



「あの仕事は、そもそも長峰担当だったよな」

「はい……」


社長が、思い出さなくてもいいことを、思い出している。


「すみません!」

「どうした」


道場さんが手をあげ、自分にもチャンスをもらえないかとそう言い出した。

デザインブックを手に持ち、前に向かう。


「すみません、こんなことを私が言うのもおかしいですが、
昔から、住宅の大きな家具に興味があって、色々とデザインも自分なりに考えてました。
私はまだ、今日入社したてで、みなさんのように抱えている仕事がありません。
三村さんが広げてくれた仕事のチャンス、ぜひ、参加してみたいのです」


道場さんは広げたデザインブックを、社長の前に置いた。

社長はそれを広げ、1枚ずつめくっていく。


「ほぉ……」


伊吹さんも前に向かい、なかなか丁寧に書き込んであるねと、付け加えた。

道場さんは嬉しそうに頷いていく。



その瞬間、また三村さんと目があった。

首が少し動き、前に出てこいという仕草をする。



「社長、向こうは、萩尾さんの仕事を見て、
そのデザインに興味を持っていただけたのですから、
とりあえず、俺はデザインを担当していた長峰さんが、行くべきだと思うんですけど……」


言ってしまった……

三村さんだと、そうなる気はしたけれど。


「長峰がか……確かにそうだな。あの仕事は長峰がきっかけだったな」


確かにそうだけれど、あの仕事とこれでは規模が違いすぎる。


もし、相手が私の実力に、物足りなさを感じてしまったら、

もし、向こうの期待に、私が応えられなかったら……


「ただなぁ、長峰は『ナビナス』の仕事が、続いているだろう。
まだ、あれこれあるよな、伊吹」

「まぁ、そうですね」


そう。一番大変なところは終わったとはいえ、まだ、出張もあるはず。


「知花ちゃん、どうする? 『エバハウス』の仕事、やってみたい?」


隣に座る小菅さんが、そう問いかけてきた。

私は……


「あの……」


道場さんの口が、私より先に動く。


「社長、私では、他に大きな仕事を抱えている長峰さんがかけ持つよりも、
無理だと思われますか?」

「ん?」

「やらせてください。私、絶対に自信がありますから」



『絶対の自信』

私には、言えないセリフ。


「……まぁ、そうだな。道場もチャレンジしていかないと、きっかけが作れないし、
経験はあるのだから」


結局、三村さんと道場さんが動くことになり、

『エバハウス』へあさって、向かうことが決まった。




【29-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【道場逸美】
『林田家具』時代、『インテリアラウンド』という賞を獲得した。
しかし、会社の評価が低く、思った仕事が出来ないため、
『DOデザイン』に中途採用される。

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コメント

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試練ですね~

まだまだ続くというのはこういうことだったんですね。
もう一山乗り越えなくちゃいけない知花ちゃん、がんばれ!

お久しぶりです。ちゃんと読んでます。
一筋縄ではいかないももんたさんのお話
磨きがかかってます!

山は、いくつだ?

れいもんさん、こんばんは

>まだまだ続くというのはこういうことだったんですね。
 もう一山乗り越えなくちゃいけない知花ちゃん、がんばれ!

『Dressing』に関しては、まだまだ描きたいことがありまして。
はたして山は、1つなのか、2つなのか(笑)

こちらこそ、お久しぶりです。
遊びに来てくださってありがとう。
これからも、お気楽に、お付き合いくださいね。