29 気まずい時間 【29-6】

【29-6】

「人生、色々ですよね。
実は私も、1年くらい前に大学からつきあっていた人と別れちゃいました。
それからずっと、恋をすることが怖くて、出来なくて。
ひとつうまくいかなくなると、女って、恋をすることに、臆病になるじゃないですか。
また、傷つくかなとか……。女はそう簡単に『変わり身早く』出来ませんよね」


恋をすることに、臆病になる……

『変わり身』


「でも、1年くらいすると、気持ちが変わってきますよ。
近頃は新しい出会いがあるといいなと、思うようになりましたし」


道場さんに悪気はない……と思いたい。

細かい事情は何も知らないのだから、仕方がない。

『次があるから前向きに』と、そう言ってくれているのかもしれない。

でも、私の心はチクリと刺される気がする。


「長峰さんも、また、素敵な恋が出来ますよ……」


人はそれぞれだとは思うけれど、

私にも幹人にも悪いところがあったのだと、そう思っているけれど。



知らなかった幹人のほんの一部分が垣間見えて、

正直、そこからどういう表情を見せたらいいのかがわからなかった。


「サラダ、置くね」

「はい」


今更だけれど、

道場さんが『林田家具』に勤めていた人だということが、よくわかった。

幹人と私がつきあっていた頃の写真を見ていただなんて。

世間は、本当に狭い。



現在進行形である三村さんとのこと、知られたらどう思われるだろう。



『変わり身……』



それが原因で壊れたのだと思われたら、何よりも三村さんに悪い。


「はい、『エビスパ』です」


タイミングよく、『エビスパ』が届き、『恋』の話題は、そこで止まった。

幹人のことが『過去の話』なのだとわかった道場さんは、

これ以上話すべきではないと、自然にそう思ったらしく、

『林田家具のデザインルーム』に話題が移る。


「私、デザイン部の中で、浮いてました」

「浮いていた?」

「はい」


道場さんは、自分がなぜ『林田家具』を辞めたのかそれを語りだす。

賞を取ったことで、同僚からやっかみを言われるようになり、

上司からはさらに売れる商品をと、プレッシャーをかけられたという。


「自分の思う形、思う色、そういうものは全く出せなくなりました。
あの『ウッドライフ』は私にとって2つ目の製品化で、
上司はこちらの気持ちなどお構いなしに、次も、次もと期待ばかりで」


商売としてデザインをしているのだから、当たり前といえば当たり前だけれど、

売れるか、売れないかばかりを表に出されると、確かに疲れてしまう。


「ノルマがあって、周りとは笑いあうこともない職場でデザインをしていることに、
意味があるのかわからなくなって。私って、こうだと思ってしまうと、
そればっかりになるところがあるのです。で、退社しかないと」


『思い込むタイプ』の人は、確かにいる。

道場さんは、『DOデザイン』がこれだけの社員数と規模なのに、

魅力的な仕事をあれこれしていることが気になったと、そう話してくれる。


「伊吹さんのレストラン、小菅さんのカルチャールーム、どちらも見に行きました。
でも、三村さんの話が『レモネード』に出ていて、
私と違って、外人というハンデを乗り越えて、外国で賞を取ったわけでしょ。
どんな方なのか、どういう仕事をするのか、どうしてもお会いしたくなりました」


紗枝さんのインタビュー。

幼なじみが、デザインの賞を取った話、確かに書いてあった。

道場さんは、同じ業界にいたので、

三村さんの経歴を調べるのも、それほど難しくはなかっただろう。


「すみません」


なぜ、謝るのかわからないけれど。


「どうしたの?」

「いえ、今冷静に考えると、私、ずうずうしいことをしたなと思って」

「ずうずうしいこと?」

「はい。『エバハウス』の仕事です。きっかけは長峰さんの仕事だったと、
三村さんが話していましたよね。それなのに……」


道場さんという人は、微妙な間と、微妙な空気を出す人なのだろうか。

何も考えていないのに、この話しの順番を導き出したのか、

それとも全て計算ずくなのか。

幹人の話をされて、自分の経歴を語られて、今度は三村さんのこと……

私は、頭を混乱させないようにするだけで、精一杯。


「いいのよ、そんなことは」


そう言い返すしかない。

強く自分が関わりたいと、出られなかったのは私の責任。


「そういえば、『エアリアルリゾート』の仕事も、
長峰さんと三村さんがコンビでしたよね」

「あ、うん」

「あれも素敵でした。こう、森の奥深くに入り込んだような、そんな気がして。
料金を出して心を休める場所としての風格が出てましたから」

「ありがとう」


シンメトリーにしたことで、入った瞬間のインパクト、確かにこだわった。

何度も書き直して、ぶつかって、完成した仕事。


「……となると、長峰さんのいいお仕事には、必ず三村さんが関わるんですね」



『必ず三村さんが……』



何気ない言葉なのだろうが、私にはずっしりと重いものだった。




【30-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【道場逸美】
『林田家具』時代、『インテリアラウンド』という賞を獲得した。
しかし、会社の評価が低く、思った仕事が出来ないため、
『DOデザイン』に中途採用される。

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