30 理想と現実 【30-3】

【30-3】

三村さんは、わかっているはず。

私が、とても弱くて、すぐにくじけそうになること。

精一杯頑張って、懸命に両足で踏ん張っているけれど、

本当は、まだまだ出来ない事だらけなこと。


「俺が自信満々?」

「はい」

「そう見えますか」

「見えます」

「そんなことはありません。長峰さんと一緒です」

「違います……あなたはいつも、自由に思いを表現できる。
詰まったり、悩んだり、もう一歩の勇気が出せない人の気持ちなんて、
わからないんです」


止めたいのに止まらない。

三村さんに文句があるわけではないはずなのに、どんどん嫌な言葉が並んでいく。


「わからないのは……あなたでしょう」


三村さんは自分が食べた食事の食器を重ねると、そのまま流しへ運んだ。

スポンジを手に取り、洗剤で洗い出す。

私も立ち上がり、三村さんの横に立った。


「わからないって、何がですか」

「いえ」


ガチャガチャ音を立てるお皿と、とげとげした私たちの心。

不協和音で、さらにイライラが増していく。


「やめてください。そんなことしなくていいです」

「いいです。自分でやります。あなたが俺に頼りたくないと思うのなら、
俺もあなたに頼るのは間違っているでしょう」

「頼るって。それとこれとは違うでしょう」


食器を洗うことで、頼っていると言えるだろうか。

感情的に怒られるのもいい気分ではないけれど、

うち崩せないような屁理屈も、同じくらい腹が立つ。


「嫌みですか、それ」

「嫌みではないつもりですが」

「だったら、何がわかっていないのか、教えて下さい」


やたらに丁寧な口調になるとき、三村さんは怒っている。

ここで引き下がれない。

私たちは、職場でそっぽを向き合う間柄ではなくなったのだから。

何分、何時間無言の時間が続いても、ここは引き下がれない。

三村さんは水道の蛇口に手を乗せ、流れを止めた。


「ふぅ……」


かけてあるタオルで手を拭きながら、出てきたため息。


「わかりました。俺と長峰さんが一緒だと言ったことは、取り消します。
でも、それはデザインの才能がどうのこうのではありません」

「……どういうことですか」

「長峰さんに、俺が自信満々に見えるのは、
いつも、『これで最後』だと……そう思っているからでしょう」



『最後』



最後とは、どういうことだろう。


「でも、まぁそうですね。長峰さんが、俺のアドバイスが面倒で、
自分の力で全てをやり遂げたいと思う気持ちを、間違っているとは言えません」


三村さんはテーブルの方へ戻ると、タバコを取り、ポケットに押し込んだ。

視線が、私の食べ終えた食器へ向かったので、先に重ね、流しへ運ぶ。


「わかりました。長峰さんに『エバハウス』をやれとは言いません。
あなたがやりたいと思うことに、俺は従いますよ。
どんなことにも『応える』と約束したのだから」


そう言うと、持ってきたバッグを手に取り、玄関の方へ向かってしまった。

このまま帰ろうとしているのだろうか。

『最後』って、どういう意味なのか、わからない。


「三村さん……『最後って』」

「深い意味などありません。でも、やるなら、真剣にやってくださいね。
途中でぐだぐだと言い訳するのはなしですよ。
俺も絶対に『エバハウス』の仕事、ものにしますから」


思っていたよりも、なんだか大変な状態になっているのではないだろうか。

言い方がおかしかったのか、それとも、相当失礼な言葉だったのか、

バランスの中心が、どこにあるのかわからない。


「あなたの望む形とやらを、俺に見せてください」

「あ……」


三村さんは、そのまま玄関を開け出て行ってしまった。

足音がだんだんと遠くなっていく。



『必ず三村さんが……』



道場さんに、あんなこと言われなければ、

幹人との過去を、知られていなければ、

三村さんとの距離を、無理にあける必要もなかったかもしれない。

でも……



本当に一人前だと、一番認めてもらいたいのは、あの人だから。



いつも『おんぶに抱っこ』ではなく、長峰さんの実力なら、

これから先も一緒に歩いて行ける……と、思って欲しいから。



だから私は、一人で頑張ってみせる。



食べ終えた食器を片付けながら、私はそう思い続けた。




【30-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
『COLOR』の人気メニューの一つは『エビスパ』。
日本でパスタをよく食べるのは、群馬県で、
特に高崎市には、『キング・オブ・パスタ』というイベントもある。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント