32 ステップアップ 【32-3】

【32-3】

「でも……」


そこまで黙ったままだった優葉ちゃんが、初めて口を挟んだ。


「とことんこだわれっていうのは、社長の考えですよね……知花ちゃん」

「あ……うん……」


クライアントの思いに応えるため、とことん悩み考えること、

それが大手には出来ないことだと、いつも社長は口にする。


「長峰さんならって思いが、三村さんから抜けていないんじゃないですかね」

「私?」

「そうです。この仕事が長峰さんのものだったのにっていう思いが、
三村さんの中にあるから。私ではなくて、長峰さんの意見を聞きたいのではないですか」


道場さんはそういうと、小さく息を吐いた。

三村さんが私にこだわっているだなんて、そんなことはないだろう。

仕事について、手を抜いたり流したりすることを、すごく嫌う人だ。

これは自分がやると決めてくれた以上、いつまでもウジウジ言うとは思えない。


「始めは、私のデザインから出た仕事だって、
確かに三村さんも考えていたみたいだけれど、
二人が動き出してからもう打ち合わせも積み重なっているのよ、
それを今更そんなこと……」


そう。三村さんがそのために集中出来ていないというようなことを、

言わないで欲しい。


「とにかく、長峰さんもアイデア出してくださいね。
それを見て、私のデザインとの差を、納得してもらえばそれでいいのですから」


デザインの差。


「……あ」


言葉のおかしさに気付いて、口を出そうとした優葉ちゃんのセリフを、

私はすぐに止めた。軽く膝に触れながら、何も言わないでと合図する。


「わかった……後から考えてみるね」

「お願いします」


道場さんがそう頭を下げてくれたとき、3人が注文したものが届く。

そこに、ビルの中に配達していた聖子さんが戻り、仕事の話は終了した。





「道場さんって、賞も実際に取っているから、自信家なんでしょうけれど、
あまりにもこう……」

「いいから、いいから」


ランチを終えた後、私と優葉ちゃんはおやつを買いに行くことにした。

道場さんのセリフに納得がいかないと、優葉ちゃんは道に転がっている石を、

軽く蹴り飛ばす。


「だって、長峰さんのデザインと自分のデザインがって……。
ようは、並べれば自分の方がいいと、三村さんが納得するって、そういうことでしょう」

「まぁ、そう聞こえたよね」


『自信を持つこと』

それはこの仕事に、絶対に必要なことだと私も思う。

誰よりも自分がという思いがなければ、

前に進めないことも、先日の『NORITA』で経験した。


「こうなったら、知花ちゃんがいいデザインを出して、道場さんのとんがった鼻を、
少し折ってあげた方がいいですよ」

「優葉ちゃん」

「ポキン! って。うん、頑張ってくださいね」


私は、口元をゆるめたまま、軽く首を振った。





「すみません、みなさん忙しいところ」


昼食を終えた時間、デザインに関わるメンバーが事務所に揃った。

年に数回、確かに顔をあわせ、意見を出し合うことがあることはある。

しかし、このように、特定の仕事に対して、全員がアイデアを出してみるというのは、

『DOデザイン』始まって以来かもしれない。


「三村」

「はい」

「具体的には、どういう指摘が入ったんだ」


話をスタートさせたのは、やはり伊吹さんだった。

三村さんは、提出したものを広げ、テーブルに並べていく。


「指摘された箇所はありません。
先方は三村さんの基本的なデザインにOKを出してくれましたし、
私がアレンジした数点も、特に問題なく……」


道場さんは、一度三村さんの方へ視線を移し、

ランチのときと同じように、問題はないのだと繰り返した。


「指摘されているわけではないのか……」

「はい」


私も、出してくれたデザインを見てみるが、バランスも取れているし、

指示も細かく入っている。確かに、これなら指摘されるようなことはないだろう。

寸法も無理がないし、建築される家のイメージを理解し、溶け込むように見える。

あのライン。そう、ここ数年流行っているものだし。


「それなら……」

「あの、伊吹さん、これ、見てください」


三村さんは、伊吹さんに数枚の写真を手渡した。


「おぉ……こうなったのか」

「はい」


伊吹さんから小菅さんに渡り、そしてその写真が私の手元に届く。

見せてもらったのは、萩尾さんが請け負ったご夫婦の家。



そして……

私が何度も書き直し、たどり着いた家具たち。



「なんだか、図面で見ていた頃より、こう……広がって見えるね」

「そうだな」


小菅さんと、伊吹さんが揃ってそう言ってくれた通り、私が考えていたよりも、

さらに色合いや雰囲気も、木造の壁や床と波長を合わせていた。




【32-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
木材の規格は、現在、『JAS(日本農林規格)』『JIS(日本工業規格)』
『AQ(優良木質建材等認証)』の3つ。
その規格に通ると、それぞれのマークをつける。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント