33 倉庫の隅 【33-4】

【33-4】

従兄弟、賢哉君の結婚式は、感動の中終了した。

両家の親が花束をもらい、うれし泣きをするシーンを見ながら、

私は思わず、自分の親を見てしまう。

幹人と結婚していれば、こんなシーンを数ヶ月前には味わっていたはず。

娘を一人前にしたと胸をなでおろし、二人で笑いあえていただろう。

それなのに……



私が両親にさせたことは、キャンセルに対する謝罪ばかり……



『結婚』は、あらためて二人だけでするものではないのだと、痛感した。



迫田の家に戻り、窮屈な衣装から普段着に戻る。

盛り上がって、宴会の時間をオーバーしたため、とっくに日が暮れていた。

伯父は、やり遂げたという思いがあるのか、父を相手に楽しそうに晩酌をし、

知己もそれに呼ばれると、男だけの宴が始まった。

私は一人、昨日見つけたあのチェストを見るために、奥にある古家へ向かう。

扉を開け、ビニールから頭の部分を出してみる。

上を軽く拳で叩いてみた。乾いた音。

材料はヒノキだろうか……

和歌山には紀州桧、紀州杉と呼ばれる名高いものがある。


「うーん……」


これくらいの大きさのチェストを作る会社は、どこにでもあるだろう。

和歌山の人で家具関係の仕事をする人間も、一人や二人ではないはず。



でも……



私の頭は、既製品などを見ても感じたことがない思いを、なぜか振り払えない。

作品を見て、一瞬で気持ちを持っていかれてしまった経験なんて、今までにない。

99%違うのだとしても、それを確かめないと、終われない気がしてくる。


「知花……」

「ん? あぁ、おじいちゃん」

「どうした、こんなところで。気分でも悪いのか」

「違うわよ、そんなことはないから平気」


気付くと、後ろにおじいちゃんが立っていた。

具合が悪いのでないのなら、この場所が懐かしいのかと、笑顔を見せてくれる。


「うん……懐かしい」

「あっという間だなぁ……みんな大きくなって、大人になって」

「うん」


目の前にあるチェスト。やはりどうしても……


「ねぇ、おじいちゃん。これなのだけれど」

「これ? おぉ、高田んちの幸三から引き受けた引き出し棚か。
なんだ、知花、気に入ったのか」

「うん、気に入ったというのもあるんだけど」

「欲しければやるぞ。幸三も使ってくれたほうがと言っていたし」

「うん」


重さは結構ある。明日、これを持って三村さんと会うことはどう考えても不可能だ。

写真に撮って見せるという方法もあるけれど、

でも、それじゃ、しっかりと伝わらない気がする。

色合い、質感などは、触らなければわからない。


「おじいちゃん、これをくれた人の名前、わからないかな」

「これを……か」

「うん。林業体験に来ていた和歌山の人だって……」


私にとって、三村さんが人生を広げてくれた人なら、

三村さんにとっては、『三村栄吾』さんがその人になる。

もし……これが、三村栄吾さんの作品だとしたら、運命以外にありえない。


「どうしても知りたいの。調べられない?」


そして、これが三村栄吾さんの作品ならば、古家で小さくなっていないで、

必要とする人に届けてあげたい。


「知花……」


おじいちゃんは、何も言わず私の真剣な表情に何度か頷いてくれた。


「知花がそれほど強く言うことなんて、ないからなぁ。よっぽどのことだろう。
よし、幸三に電話してみよう。番号ならわかるから」

「……ありがとう」


家に戻り、おじいちゃんから聞いた番号を打ち込み、高田さんに電話をした。

携帯をおじいちゃんに渡すと、何度目かの呼び出しで、『はい』と返事がする。


「あぁ、もしもし。和歌山の迫田と申します。はいはい、元気でやっとります。
で、忙しいところ悪いけれど、幸三さんはいるかね」


お願い……

名前を覚えていて欲しい。


「うん、あぁ、そうですか、そりゃまた。
いやいや、電報ありがとうございました。式は無事に終わりましたよ」


どうなのだろう。私には誰と話をしているのかもよくわからない。

おじいちゃんの表情で状況を知ろうとすると、小さく頷き返された。

わかったのだろうか。


「おぉ、幸三。悪いな……。少し聞きたいことがあって。
あのなぁ、突然で悪いのだけれど、ほら、お前からもらったあの引き出しの家具。
あぁ、うん……。あれをくれた人の名前、お前覚えているか」


もう数年前のことになる。

それに、林業体験は、夏になると地域で観光を兼ねながら、

ここのところ力を入れていると聞いていた。

一人や二人ではないから、覚えていないかもしれない。


「あぁ……うん」


おじいちゃんの表情が、少し変化した。

その顔つきに、期待よりも不安が膨らんでいく。


「はいよ……うん」


それからしばらく、互いの状況を話し合うような電話が続き、

おじいちゃんは受話器を戻してくれた。


「悪いな、知花。幸三、覚えてないようだ」

「……そう」


高田さんの記憶に、引き出しを作った人のことは、残っていなかった。




【33-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【迫田富雄・満江】
和歌山に住む、知花の伯父と叔母。富雄は知花の母、真子の兄になる。
満江は嫁に入ったが、非常に明るい性格で、知花のことも娘のように思っている。
梅酒、漬け物を作るのが上手。

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