42 波と風と 【42-2】

【42-2】

「小林先生、先日お話をさせていただいた、ジュエリーボックスのデザイナー、
『DOデザイン』の長峰さんです」

「長峰……あぁ、はいはい、どうぞ」



顔……小さい。

テレビで見ると、もう少し背も高く感じたけれど。



「長峰知花と申します。あの、今回は、色々とお世話になりました」


小林蘭子さんは、優しい笑顔で頷いてくれると、

立っていないで座ってくださいと、指示をしてくれた。

私がお土産を渡すと、小林さんはありがとうと受け取ってくれる。


「ごめんなさいね、逆に気をつかわせてしまったわ」

「いえ」

「私の方こそ、何かご用意しないとならないのに」

「そんなことありません」


小林さんには、雑誌の記事にしてもらっただけで、本当にありがたい。

私は、使い心地はどうなのか、思い切って尋ねてみた。


「使い心地?」

「はい」


引き出しを何度も使っていると、ズレが出てきて動かなくなることなど、

作りが悪いものも、世の中にはたくさんある。


「全く問題はないし、部屋の模様替えをしてもね、どこにおいても合うのよ、
ピッタリ」

「そうですか」


『ジュエリーボックス』というくくりで制作したため、

どちらかといえば洋室に合うデザインだと思っていたが、

小林さんが購入した色はダークだったため、和室の柱の色と合うのだと、

話を膨らませてくれる。


「それにしても、こんなかわいらしいお嬢さんが作ったものだったのね」


話をし始めて5分後、スタジオからスタッフが小林さんを呼びに来た。

主役も到着したので、リハーサルを始めたいのだと連絡を受ける。


「ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。ごめんなさいね、ゆっくりしてもらえずに」

「いえ、十分です」


小林蘭子さんとの会話は、ほんの5分程度だった。

5分という時間では、本当に挨拶程度だったが、

それでも、あの作品を気に入ってくれた人が、

本当にいたのだと言うことが確認でき、私にも少しだけ自信がついた。

その後、小林さんのおかげで、リハーサルをするスタジオの中にも入れてもらい、

セットの中に、本当に使われている『ジュエリーボックス』に会うことも出来た。

小林さんの息子役で入ってきた若手の俳優さんも、

私たちを見つけすぐに頭を下げてくれたため、こちらも揃って返礼をしたけれど、

他に数名いた見学者たちから、騒がしいような声は全く聞こえず、

スタジオは静かな雰囲気の空気が流れ続けた。


あらためて、優葉ちゃんの要求に屈しなくてよかったと、そう思う。

あの場所で、楽しそうにはしゃがれてしまったら、確かに浮きそうだった。


「長峰さん」

「はい」

「この後、少しお時間はないですか」

「あ……はい」


高梨さんに誘われて、スタジオの最上階にあるレストランへ足を運んだ。

昼時ということもあり、混雑しているかと思ったが、

撮影中のスタッフが多いのか、それほどでもない。


「ここのオレンジ定食、美味しいですよ、どうですか」


スタジオで食事をする経験など、なかなかないだろうと思い、

私も高梨さんと同じ『オレンジ定食』を注文した。

お冷が運ばれ、オーダーを済ませた後、静かな時間が流れる。

何をどう話せばいいだろう。

今日のお礼はすでに言ってしまったし、高梨さんは取引先の人でもないし……


「『宝橋三丁目』の駅ビルの写真、持って来ました。今、こんな段階です」

「エ……」


『宝橋三丁目の駅ビル』

どうして高梨さんが私にその話を振るのだろう。


「久我さん、『DOデザイン』さんに仕事をお願いしようとされたようですね」


高梨さんが出してくれたのは、ドラマのロケが終わり本格的に開店準備を始めた、

あの『紅茶専門店』の写真だった。

明るめの配色、壁一面に合板を貼り付け、床はコルク材を使っている。


「久我不動産の専務と、『DOデザイン』の折原さんは同級生だと」

「はい」

「あの人なら、この場所をどう動かしたのか、
正直見たいところではありましたが……」


高梨さんは、折原さんがイタリア時代、

『J』という名前で賞を取ったことを知っている。


「あの……」

「はい」

「大きなテーブルがありましたよね、あれは」

「大きなテーブル。あぁ、はい。あれは処分しました」

「処分?」

「はい。最初の予定ではあれを店の中心にとオーナー側は考えていたようですが、
バランスも悪いですしとご提案させていただいて、結局……」


少しがたついていたけれど、木はいいものを使っていただけに、

もったいない気がする。戸波さんが言っていたように組みなおせば、

十分使えたのではないだろうか。


「あ、そうか、長峰さんは現場にいらしたことがあったと、
そう、久我不動産の娘さんがおっしゃってました」

「……はい」


環奈さん。折原さんと久我さんの仲に入ろうとしてくれたけれど、

結局、それは叶わなかった。


「長峰さんは、この仕上がりを見て、どう思われますか、
私たち、『コンスタン』の手がけたこの店」


どう思うのか。

急にそう言われても……


「ずいぶん明るくなったなと思いました。私が見せていただいた時には、
寸法の合っていないテーブルと、無造作に積み重なった木材だけでしたので。
店内もどこか暗かったですし……」



「ずいぶん、軽めに仕上げてしまったな……と、正直思っているでしょう」



思っていることを、言い当てられてしまった。




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《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【雪村龍】
政治家、島浦かほるの秘書。
自分の仕事に、周りが気を使うことを知っていて、横柄な態度を取る。
女性へのセクハラは、日常茶飯事。

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