【S&B】 40 嵐の中で

      40 嵐の中で



第一営業部に向かう電車の中は、冷房が入ることのない季節になった。

相変わらず車内は混雑していて、少し気を抜くと、隣のサラリーマンの靴を思い切り踏みそうになる。

僕はいつもの電車に乗り込み、読みかけの本を最後まで読み終え、車内広告に目をやった。


今野が担当していたデジタルカメラの広告を見ながら、クライアントが興奮状態で

電話をよこしたことを思い出す。制作部の女性と組んだこの仕事は、守口がフォローしたとはいえ、

『手軽さ』を強調し、発売からすぐに売り上げを伸ばした。


気分良く『マリンサンド』を買い、階段を上り営業部へ向かうと、今日の担当は今野らしく、

給湯室の前で僕に頭を下げた。


「おはようございます」

「おはよう今野、『ビーナスショット』の車内広告、いいなあれ。目を引くよ」

「はい、私も今日見てきました。制作部の端野さんとも好評だって握手したんです」

「うん……色の使い方も女性らしいと言うのか、男にはない発想だ。端野さんかぁ……
今度のワインも彼女に頼もうかな」

「あ、そうですね。『ボルダワイン』なら、女性の愛好者も多いですし」


濱尾とコンビを組んで仕事をすることになった『ボルダワイン』は、出張などで持ち運びも出来る

小さめの軽いワインを年末の忘年会シーズンから、試飲販売することになり、

その反応を見た上で、本格的な宣伝に入ることになっていた。


今野とそんな話をしながら営業部に入ると、コンピューター男の十勝君は、いつもと同じ姿勢で、

同じ角度の挨拶をしてくれた。


僕のすぐ後に営業部に飛び込んできた守口が、同じように今野に声をかけ、

僕は二人から離れ席へ向かい、もうすでに席へ着き、ドライバーを磨いていた魚沼部長に挨拶をする。


「おはようございます」

「……お、青山。今、『ボルダワイン』から連絡があって、明日の打ち合わせには木下部長も
参加してくれるらしいぞ」

「本当ですか? 木下部長はフランスだって聞いてたんですけど、戻ってこられるんですね」

「そうみたいだな。彼は興味がないことには一切関わろうとしない男だから、
きっと、君たちのアイデアに乗ったんだろう」

「だとしたら、いいんですけど」


この先、一番の大仕事になる『ボルダワイン』との打ち合わせを控え、

その日は濱尾と営業部に残り、一日中、ミスがないかの点検作業に明け暮れた。





「今日、出版社に作品を持って行きました。受付番号が25番でなんだかラッキーでした」

「25? 何かあったっけ?」

「私の派遣番号が、25だったんです。それに、高校時代の出席番号も……すごい偶然ですよね」


なんてことのないことを、楽しそうに語る望の態度は相変わらずだったが、

彼女が何かを前向きに捕らえられるようになったことが嬉しく、僕も自然に微笑んだ。





しかし、その夜に起きた出来事によって、事態は急に変化を見せる。





僕はソファーに寝転がりながらTVの方へ視線を向け、悟は横で2つに絞られた琴子との新居選びに

頭を悩ませていた。時計を見ると日付が変わり、ニュースもラストへさしかかった時、

アナウンサーの前に急に原稿が届けられる。



『ただいま入りました……速報です……』



繁華街にあるライブハウスで、違法のカジノ営業がされていたという一報だった。

警察は以前よりマークし、情報を得ていた今日、現場に乗り込み摘発したと言う。

何年か前にもそんなニュースがあったなと思いながら、画面を見ていたが、映った場所に驚き、

僕は飛び起きた。


「どうした、祐作」

「うん……」


フラッシュを浴びて、中から逮捕され上着で顔を隠した男達が、現れ始めた。

その上がってくる階段を、僕もほんの数ヶ月前に、怒りのまま上がったことを思い出す。

アイツが働いている店、今まさしく警察が乗り込み、世間の注目を浴びることになったこの店は、

高添浩太にライターを叩き返した、あの店だった。


「祐作、知ってるのか? ここ」

「あぁ……ちょっと前に行った。でも、カジノなんて、そんな雰囲気はなかったぞ」

「当たり前だ、違法なんだぞ。一般客に感づかれるようじゃガード甘すぎだ。それにしても……」

「バカ、ちょっと入っただけだ。酒も飲んでないし、何も食べてない」


そう、行きたくはなかったが、アイツに会うためだけに乗り込んだのだ。



『……連絡もなくて。携帯にも何度もメール入れたりしたんですけど、全然』



望と待ち合わせをしたくせに、アイツは福島の実家に戻ることなく、今もどこにいるのかわからない。

もしかしたら、このことに気づき、姿を消したのだろうか。

何か嫌な予感のする中、その日は眠ることになった。





「おはようございます。『ボルダワイン』との打ち合わせが、中止になりました」

「中止?」


第一営業部でも話題はカジノの摘発だったが、コンピューター男の十勝君がすでにネットから

株の予想を導きだす。


「あの店の経営は『ボルダワイン』の系列らしいです。この摘発で打ち合わせどころじゃなくなったんじゃないですか? 間違いなく株取引が始まったら下がるはずですし……」

「基本から外れたってことだよな、十勝君」

「はい、そうですね、濱尾さん」


濱尾は十勝に冗談を投げかけながら笑っていたが、僕たちの仕事は笑っては済まされない。

媒体とクライアント両方の合致があってこそ、仕事が成り立つのだ。『ボルダワイン』の

キャンペーンをすでに計画の一部に取り入れてくれた雑誌や、ラジオ局の番組とも、

もう一度打ち合わせをしなければならなくなった。


十勝君がネットで見られるワイドショーをつけ、営業部員達がその画面を食い入るように見つめる中、

僕の携帯が鳴り出し、相手を見ると母だった。


「もしもし、どうしたの、こんな時間に……」


こっちが普通の挨拶をする間もないくらい、母は慌てていて、今日未明に摘発された

あの店の映像を見ながら、僕は軽い気持ちでそう問いかけた。


「さっき、ここへ警察の人が来たのよ。それで、望ちゃんに近頃不審な行動がなかったかどうか
聞かれて……」

昨日、あの店を見た時にふと感じた嫌な予感が、現実に形を見せ始める。

アイツが出入りしていた店が摘発され、関わりのあった人物が調べられるのはわかるが、

望があの店へ出入りをしていたというのだろうか。


「そんなおかしいところはないですしって言って、望ちゃんはまだ、今日来ていないって
言ったんだけど。どうもね、警察に連れて行かれたらしいの」

「連れて行かれた?」


思わず発言したセリフに、画面を見ていた営業部員達がこっちを一斉に振り向き、僕を見る。

受話器を持ったまま営業部から出ると、慌てて非常階段へ逃げる。


「理由は? 連れて行かれる理由なんて……」


頭の中の整理がつかないままだったが、自然にそう言葉が出ていた。

望が警察へ行かなければならない理由が、全く見つからない。


「部屋に、浩太君から預かったものがあったんだって」



『コウちゃんから預かった物なんです……』



カギのかけられた黒のドラムケースが、僕の頭に浮かび、ずっしりと重たい空気が、

心に腰を下ろした。





41 僕の肩に触れる人 へ……




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コメント

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ドキドキしてます…

お久しぶりです。かなりのご無沙汰で…ちょっと敷居が高かった(自業自得^_^;)のですが…あつかましく…m(__)m

望&祐作、琴子&悟 と、前向きに良い感じになってきてるなか、まさに“嵐”の到来ですね。でも何とか乗り切って、これを機に浩ちゃんも改心してくれたらな~っと思います。

ラッキーナンバーで喜ぶ望ちゃんが、可愛いにゃ~♪ 
ちなみに、私、スーパー等の買い物はもっぱら下二桁が『44』『43』になります(笑)

なんて激しい嵐~@@;

うわ~っ
ずいぶん激しく重い嵐の襲来・・・~><;
あのドラムケースが・・・・摘発の証拠の品なの・・・?
ももんたさんの伏線の巧妙さに脱帽です....

はぁ・・望ちゃん、警察で心細いだろうね・・。
祐作、早く行ってあげてー!


オモオモ・・・

なんと!こんな事態になってるとは・・・
望にも嫌疑が?いやはや心配ですね祐作。

しかも預かってるのもが・・・もうどうなるの!!!
ももちゃん心臓によくない。年よりは労わろう。

来ましたね~

ももんたさん、こんばんはです。

怒濤の展開ですね。えぇっまさかって感じで、ももんたさんの頭の中は、どうなっているのでしょう。伏線が活かされてるし、計算されていますよね。
ビックリです。


いつも思うのですが、創作書かれるかたって、様々な下調べしてるのだろうなと。きっと書いている時間より、長いのですよね。祐作の仕事にまで絡んできて、ももんたさん、主婦する前何していたんですか
すごいです。

望ちゃん、心細いよね。うつむいている姿が目に浮かびます(T-T)

こうた君の両親の気持ち考えるとさらに泣けます(T-T)

ももんたさん、続き待っていますね
よろしくです。

いつでもOK

ラピュタさん、こんばんは!


>お久しぶりです。かなりのご無沙汰で…ちょっと敷居が高かった

全然そんなこと気にしないでね!
好きな時に、好きな時間、楽しんで欲しいと思っていますので。
なんせ、書く方も好きな時間ですから(笑)


>望&祐作、琴子&悟 と、前向きに良い感じになってきてるなか、
 まさに“嵐”の到来ですね。

ひとつずつ、越えては絆を深くする二人です。
望のピンチを祐作はどう乗り切っていくのか、見守ってやってね!


>ちなみに、私、スーパー等の買い物はもっぱら下二桁が
『44』『43』になります(笑)

自分でそうするってことですか? それすごいかも。

ドラムケース

eikoさん、こんばんは!


>あのドラムケースが・・・・摘発の証拠の品なの・・・?
 ももんたさんの伏線の巧妙さに脱帽です....

ドラムケースが何だったのかは、後からわかります。
伏線は確かに引きますが、巧妙かどうかは……
でも、おっと……と驚きがあると、長い作品でも
読み続けてもらえるのかなと、考えてはいます(笑)

これからも、よろしくお願いします!

大丈夫だよ

yonyonさん、こんばんは!


>望にも嫌疑が?いやはや心配ですね祐作。

浩太とのつながりが、ついにここまで来たのかという感じでしょう。
どうなるのかは、次回を見てね!


>ももちゃん心臓によくない。年よりは労わろう。

あはは……。大丈夫だよ純情妻のyonyonさんなら(笑)

頭の中は

milky-tinkさん、こんばんは!


>怒濤の展開ですね。えぇっまさかって感じで、
 ももんたさんの頭の中は、どうなっているのでしょう。

エ! まさか! の感覚は嬉しいですね。
そんな驚きを与えたいと、伏線を引いているので(笑)
頭の中? 献立と、少ないお財布の中身、活用法でいっぱいです。


>いつも思うのですが、創作書かれるかたって、
 様々な下調べしてるのだろうなと。

そういう方もいらっしゃいますし、何も調べない方もいるようです。
私は少しだけ見ますけど、(ブログとかで職業の案内とかがあるので)
後は、以前見た報道番組のワンシーンが残っていたり、ドラマのワンシーンが
残っていたり……ですよ。

書く時間の方が、長いです。

祐作、望はもちろんのこと、浩太のこの先も、もう少し見守ってやってください。

そうだったんです

yokanさん、こんばんは!


>はぁ~、なんてこった~・・・そういうことだったのか~(ーー;)
 ドラムケースの中には何が入っているんだろう?

そうなんです、そうなっていたんです。
中がなんだったのかは、これからわかりますが。


>早目のUPをお願いね(笑)

たぶん、リズムは一緒ですよぉ!

えっ?!

どうして??  

望ちゃん、どうしてるんだろう。。
心配だよ。あの預かったドラムが
関係してるの??

だから”嵐”なのね
この先を思うとドキドキです。

ドラム

beayj15さん、こんばんは!


>心配だよ。あの預かったドラムが
 関係してるの??

はい、そうなのです。どんなことなのかは、次回へ続きますけど、
ドキドキしながら、待っていてね!