【S&B】 41 僕の肩に触れる人

      41 僕の肩に触れる人



何かがある時に限って自由になる時間が少ない。母からの一報が入ってすぐに、

『かいづか』の会長から、相談があるので来て欲しいと連絡を受けた。

頼みの守口は別件ですぐに外出しなければならず、結局、望のことを心配しながら仕事を続ける。


「青山ちゃん、ごめんね、忙しいでしょ」

「いえ……」


会長はとても機嫌良く、本社で待っていた。跡取りの夕夏さんが僕に気付き頭を下げてくれ、

僕もすぐに返礼する。顔を上げると目の前に豪華な打掛がかかっていて、

そばには次女の梨花さんが立っていた。和服に知識のあまりない僕から見ても、

上等に見える打掛は、おそらく梨花さんの挙式のために、作られた物なのだろう。


「青山ちゃん、座って」

「あ……はい」


僕は打掛から視線を外し、会長の前に座った。こうなったら打ち合わせを早めに済ませ、

自分で時間を作らなくてはならない。


「全くね、呉服屋の娘だから、そんじょそこらの打掛で済ませるわけにはいかないでしょ。
もう、嫁に出すことになって、うちには何も貢献しなくなる人間に、一体、いくらかけるんだか……」


会長はそう言いつつも、出来上がった打掛に満足そうな笑みを浮かべた。

夕夏さんと梨花さんも、なにやら楽しそうに話し、会社全体が華やいで見える。


先日、プロのカメラマンに写真を撮ってもらうとはしゃいでいた京佳さんを含め、

親の恩恵をしっかりと受けた娘達は、それぞれの幸せを楽しんでいるように見えた。


それに比べて望は……。


母親の残した借金からやりたくもない仕事に就き、そこから派生した出来事に、

ずっと振り回され続けている。そして、今も、罪のない罪の中で、ただ耐えているのだろう。

すぐにでも行ってやりたい気持ちを抑え、結局、僕もこの場に座っている。


「青山ちゃん、なんだか今日はボーッとしてるわね。二日酔いでもあるの?」

「いえ……すみません、ちょっと考え事をしてしまって」


会長は鋭い人だ。隙を見せるわけにはいかず、すぐに仕事モードに切り替える。

会長が提案してくれたのは、着物のデザインを一般公募したいというものだった。


「刺激は自ら取り入れないとね。老舗の看板にあぐらをかいていると、
座布団なんてすぐに抜かれるわ」


この考えを会長が持ち続ける限り、『かいづか』は安泰だろうと、僕は思いながら企画書を見た。





『かいづか』の仕事を終え、母の店へ向かう。警察は細かいことを話すことはなかったが、

携帯に連絡しても捕まらず、とりあえず望が連れて行かれたことだけは、間違いなさそうだった。


「浩太君ってどういう人なの? 彼が見つからないとダメなんだって、警察の方が言ってたけど。
ねぇ、祐作。あなた望ちゃんから何か聞いてない?」

「何を聞くんだよ。望だって被害者だ。何を持って行かれたのかはわかるけど、
アイツからただ預かっただけだって言っていたし、たしかしっかりとカギもかかってた。
開けるはずもないし、カジノのことなんて知るはずもないのに。どうして出てこられないんだ」

「それはわからないわよ。とにかく、彼女には家族が近くにいないから、
連絡は私にしてくださいとは言っておいたけど……」


母を責め立ててもどうしようもないことはわかっていたが、結局、望が自由になったという情報は

もらえないまま夜を迎える。


朝刊や夕刊で、摘発されたカジノの実態が次々と明らかになり、話が少しずつ見え始めた。

その店に出入りしていた常連客の中に、薬物の常習犯がいて、警察はそっちの捜査から

この情報をつかんだらしいのだ。この店が売買の場所として利用されていた事実がないのか、

調べは続いていた。


「薬がからむと、簡単には出せないんだろうな、警察も。証拠を隠滅されたら立件出来ない。
現場を押さえないとダメなんだもんな」


悟は夕刊に書かれた記事を読みながら、そうつぶやいた。気持ちの入らないようなコメントに、

こっちの気も知らないでと、ついつい口調がきつくなる。


「望には関係ない」

「わかってる。そうだろうけど、警察はそう見ない。あの店に働いていた男が荷物を預けたんだ。
なにかしら知っているかも知れないと思うのも無理はないし、彼女自身も調べられるだろう。
その預けていたっていう荷物から、薬なんか出てこなければいいけどな……」


悟はそう言うと、ニュースから別の番組にチャンネルを変える。


「まぁ、調べてもらえばいいじゃないか。後ろめたいことがなければ、必ずわかってもらえるんだ」


悟の言葉は正論だった。確かにと納得しつつも、望のことを思い出すと辛かった。

彼女が今回の事件に、何一つ関わりがないことは証明されるだろう。

しかし、どこで何をしていたかなど、忘れようとしている過去を、

ほじくりかえすようなことを、して欲しくはない。


せっかく前を向き、歩き始めたところだったのに……。飲み終えたビールの缶を、

両手でグッとつぶしても、アイツへの怒りの熱は、冷めていくことはなく、

アルコールが僕の気持ちを後押しするように、すぐにでも何かにぶつかりたくなる。


「祐作……お前は冷静に対処しろよ」

「……」

「お前がカッとなったら、昔と一緒だぞ……」


悟のその一言に、昔、あの男を殴りつけた右手を、僕はしっかりと握りしめ、ソファーへ押しつけた。





次の日、気持ちの重たいまま仕事をしていると、母からの連絡が入った。

望が警察を出ることがわかり、迎えに行くという。

仕事を終えたらまっすぐこちらへ来るように言われ、何度もわかったと頷いた。





「ごめん、今日はお先に!」

「あ、お疲れです」


その日のスケジュールを終え、何か難題を持ちかけられる前に、僕は会社を出た。

駅の改札をすり抜けエレベーターを上がり店へ顔を出すと、母は接客中で指で上の方向を示す。

僕は軽く頷き、エレベーターに乗り5階のボタンを押した。

鍵穴にカギを静かに入れゆっくり回し中へ入ると、リビングの奥にある三人がけのソファーで、

毛布をかけた望は座ったまま眠っていて、少し右に傾いた首は、あるところまで傾くと、

スッと元へ戻った。


とりあえずこの場所へ戻ってきたことに、ガチガチに固まっていた肩の力が抜ける。

カバンを置き上着を脱ぐと、ソファーの前にあるテーブルに放り投げた。


たった一日の出来事だ。それでも、望が受けた精神的なダメージは僕が計りきれないほど

大きかっただろう。


望の首が傾いているソファーの右側に静かに座り、ふわふわと揺れながら傾く彼女の頭を肩に受ける。

僕の肩に頭が触れた瞬間、望は無意識に頭を元に戻した。しかし、疲れている体は、

支えてくれる場所を探し、また右に傾き始める。


頼って欲しいのだ。僕が隣にいれば、自分はゆっくり休めるのだと、そう思って欲しかった。

右手で望の頭に触れ、そっと自分の肩に乗せる。


そのわずかな重みが、だんだんと増していくのを感じながら、僕はある決意を固め、

時計の針が動く音を聞きながら、望が目覚めるのを待ち続けた。





42 僕らの秘密 へ……




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コメント

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同じ女なのに・・

どんなに気がかりな事があっても仕事は待ってくれない。辛いとこだわね。でもこれから望を守っていくためにはきちっと仕事が出来る男でなくちゃ!ネ

生まれた環境、親、あまりに違う「かいづか」の娘達と望、でも本当の幸せはこれからだから。もっと頼って我が侭言ってもいいのよ。祐作だってそれを待ってる。

セツナクナリマシタ

かいづかのくだり、私も胸にツーントくるものがありました。
親や育つ環境は選べませんもの・・・。

せめて、望のこれからの人生に幸あれと願わずにはいられません。

悟は本当に祐作を見抜いてますね。同居していてくれてよかったと思いましたよ。

守ってあげたくて決意を固めたのね。がんばれ祐作!!

だけど、望ちゃんは芯が強いから、守るとかでなく、一緒に歩むんじゃあないかな?と期待します。

浩太君ダイジョウブかな?
祐作はアイツのこと考えると全身に怒りの焔が見えるけど、なんだか彼のことも心配です。

頑張れ祐作!

生まれた境遇って選べないから・・・それぞれの人生を精一杯生きるしかないんだけど・・・

>それに比べて望は……。
私も「かいづか」の娘たちと望ちゃんのくだりで・・・思わず涙;;

祐作の決意・・・!!
いよいよ心を決めたのね~☆
男らしい祐作・・好きです(〃▽〃)

こんばんは。

肩に触れる重みを祐作は 嬉しく思い もっと感じたいと望んでいるでしょう。

望は 少しでも祐作の負担になりたくない 肩に頭を乗せるのではなく せいぜい 腕にそっと触らせて・・・かしら?

でも 頼るところはちゃんと頼って 甘えるところはちゃんと甘えて。

彼もそれを望んでいるから。
彼もまた 甘えたいと思っているから・・・

ねっ!望♪

甘え

yonyonさん、こんばんは!


>どんなに気がかりな事があっても仕事は待ってくれない。辛いとこだわね。

そうだよね、実際にこんな出来事に遭遇したことはないけれど、
なかなか仕事をすっぽかすことは出来ないと思うよ。特に、出来る人はね……


>もっと頼って我が侭言ってもいいのよ。祐作だってそれを待ってる。

色々な出来事を通して、望も変わっていきます。
もうしばらくお付き合いお願いします。

頑張れ、祐作

milky-tinkさん、こんばんは!


>かいづかのくだり、私も胸にツーントくるものがありました。
 親や育つ環境は選べませんもの・・・。

うん、そうですよね。
同じ女の子なのに、と祐作は思ったわけですけど。
仕方ないと思いつつ、比べてしまうんですよね。


>守ってあげたくて決意を固めたのね。がんばれ祐作!!

はい、次回で決意を聞いて下さい。


祐作

eikoさん、こんばんは!


>生まれた境遇って選べないから・・・
 それぞれの人生を精一杯生きるしかないんだけど・・・

そうなんです。そうはわかっているけれど、ついつい、比べてしまう
祐作なのですよ。


>いよいよ心を決めたのね~☆
 男らしい祐作・・好きです(〃▽〃)

祐作の決意がどんなものかは、次回へ続きます

バランス

azureさん、こんばんは!


>肩に触れる重みを祐作は 嬉しく思い 
 もっと感じたいと望んでいるでしょう。

男は、きっと女性には頼りにされたいと思うはずですよね。
祐作も、もちろん同じなのです。


>でも 頼るところはちゃんと頼って 甘えるところはちゃんと甘えて。

そこらへんのバランスが、難しいところでしょうけどね。
うん……

がんばれ!

何かをしようとする時って、なぜか色んな事が
重なりますね。

あの祐作でも仕事中に望ちゃんの事が
気になってボウっとして、それを見逃さない会長は
やっぱり凄い!

かいづかの場面は私も胸が痛くなりました。
だから祐作”がんばれ”って言いたい。





会長!

beayj15さん、こんばんは!


>あの祐作でも仕事中に望ちゃんの事が気になってボウっとして、
 それを見逃さない会長はやっぱり凄い!

はい、会長はすごい人なんですよ。
その別エピソードは、また後日出てくると思います。


>だから祐作”がんばれ”って言いたい。

望を守れるのは、祐作だけ……
そう、頑張ってくれるはずです、彼なら。