【S&B】 42 僕らの秘密

      42 僕らの秘密



どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。長いような、ほんの一瞬のような、そんな複雑な気分だった。

警察から戻った望は、おそらく疲れ切って眠ってしまったのだろう。安心感と脱力感の中、

僕は隣に座り、彼女の頭の重みを肩に受け続ける。


5階にあと2部屋あるどこかの家で、大きな物音がした。聞き慣れない音に望の頭がピクリと動き、

少し開き気味だった足が、元の場所に戻る。


「あ……」


自分が寝てしまっていたことに気付き、望は姿勢を戻した。隣に僕が座っていたことが不思議なのか、

まだ、半分夢の中なのか、彼女の目はこっちを見たまま、何度か瞬きする。


「私、寝ちゃってました。お茶だけ飲み終えたら仕事をしますなんて言ったのに」


テーブルの上に置かれていた湯飲みを取り、慌てて流しへ持って行く。

なにやら急に時計が動き出すように、パタパタと音をさせ、望は僕の前を横切った。


「望……無理しなくていい。ここにおいで」


頑張った笑顔のままこっちを向いた望の目から、じわりと涙が浮かび始める。

僕がここにいて、自分もここにいることの事実を頭が認めるまで、また時間がかかったようだ。


「ごめんなさい、また……迷惑かけて……」


そう言ったままうつむく望を、僕は立ち上がりしっかりと抱きしめた。僕の存在に安心したのか、

彼女の涙声は急に大きくなる。


「一人で泣くなって……」


この声が落ち着くまで、僕はそう思いながら、望の涙を受け止め続けた。





「仕事に出かけようとしたら、捜査員の方が2人アパートへ来たんです」


望は自分が連れて行かれた経緯を語り始めた。いつものように身支度をしていると、

男性と女性の捜査官が2名、望のアパートに訪れ、高添浩太との関係を問いただし、

自分はいとこだと望が主張すると、女性捜査官が浩太の勤める店が、摘発にあったことを告げた。


「それでも、どうしてここへその人達が来るのか、私は全然わからなかったんですけど。
どうも、コウちゃんとその一番親しくしている先輩が、常連客のデータファイルを持ち出したって
言われたんです」


状況が把握できないまま戸惑っていると、アイツから何か預かったものはないかと訪ねられ、

望は黒いドラムケースを指さしたのだと、実際に右手の人差し指でポーズを作る。


「一緒に確認してくださいって言われて、カギを開けたんです。捜査官の方は、
すでにそのカギの番号も知っていて、私の目の前で開けてくれました」


中には確かにドラムの部品があり、そして、小さなノートパソコンと手帳が入っていた。

その手帳には大勢の人名が書き込まれ、それぞれのギャンブル結果が記入されていた。


「これは違法カジノの存在を証明する資料になりますから、あなたが持っていたということで、
もう少し捜査に協力していただかなければならなくなりました……って言われて、
何がなんだかわからないうちに、私は警察へ行くことになってたんです」


望にとっては避けようのないことだった。あっけにとられたまま部屋を出された

彼女の気持ちを考えると、もうこれ以上聞く出す必要もない気がして、僕は望に向かって首を振った。

事件の詳細を知りたいのではない。望がここへ戻ってくれたら、もうそれでいい。


しかし、彼女はその答えに再び首を振り、最後まで聞いて欲しいと僕に訴える。


「警察へ行って、状況を知らせてもらって、私、本当にコウちゃんに対して、
怒りがわいてきたんです。いつか昔のように、戻ってくれるって信じ続けてたのに、
こんなことを私になすりつけて行ったのかと思って、情けなくて」


僕が会社で望を心配していた頃、彼女は絶望と怒りの中で無実の罪と戦っていた。

やっと彼に対して、怒りがわいてきたのかと言いたくなったが、

それが過ごしてきた時間の長さなのだと、納得する。


「でも昨日の深夜、逃げ続けていた先輩を連れて、コウちゃん出頭したそうです。
何も知らない私に預けて、こうなることも予想はついていたのに、自分勝手に巻き込んだって。
警察の方に土下座して、私は関係ないんだと何度も言ったそうです」


彼のやったことは許されることではないが、ギリギリの場所で望を守ろうとした彼の気持ちは、

正直なものなのだろうと、僕は思った。


「どうしても……憎みきれないんです」


自分にどれほど迷惑をかけても、子供じみたいたずらで周囲を巻き込んでも、望の中で、

アイツは大人の顔になっただけで、昔のままなのだろう。小さな自分を守ってくれた、兄……

その面影は消えることがない。


「もういいよ、望。彼が無実だとは言えないけど、そう重たい刑にはならないと思う。
自分から出頭して、君の無実も訴えているんだ。あとは警察に任せてそっとしておこう」


もうアイツが何をしたかなどどうでもよかった。望のために、どうか立ち直って欲しい、

そう思うようになる。


「ごめんな、迎えに行ってやれなくて。濱尾との仕事で手間取ったから動けなかった」


アイツのことを心配し、伏せ目がちになる望に、気持ちを切り替えられるよう、

僕は軽くそう言いながら笑ってみせる。


「そんなこと……。帰っていいよって言われて、廊下に出たら、
青山さんがベンチに座ってくれてました。こうして思い切り両手を広げて、望ちゃん! って」


望は両手を大きく広げ、母がその腕の中に自分を抱きしめてくれたのだと嬉しそうに語った。


彼女の気持ちが落ち着いたことを確認し、僕は考えていたことを口にする。




「望……、一緒に暮らさないか」




思いがけない僕の提案に、望は少し驚いた顔をしたまま黙ってしまう。

出会ってからまだ1年経ってはいない。あまりにも唐突だと思ったのだろうか。


「嫌なら無理にとは言わない。でも、僕は君を一人にしておきたくないんだ」


愛しているから……。そんな言葉を使いたくはなかった。想いを確認するのなら、

離れていたって触れあうことは出来る。


「今、一緒にいられることを楽しみたい」


一人じゃないのだと、望に気付いて欲しかった。しばらく固まっていた彼女だったが、

やがて嬉しそうに微笑み、そして小さく頷いた。





望の事件が起こって1ヶ月の中で、悟は琴子と生活を始めるため、このマンションを出て行った。

それから新年になり、世の中全体がおとそ気分だった時期が過ぎた頃、僕は動き出す。


「すみません、豊島さんにすっかりお世話になって」

「いや、いいんだよ。祐作君には借りがあるからね。こんなことで返せるなら、願ったりだ」

「そんな、あれは仕事じゃないですか」

「そう言ったらそうだけど。地方の工務店がビー・アシストに広告を発注できたって、
彼も喜んでくれてさ、僕も鼻が高かったよ」

「そう言っていただけたら、こちらも光栄です」


望がこの部屋へ来る前に、僕はマンションの壁紙を全て貼り替えることにした。

父が暮らしていた時代から時を重ねたものを、思い切って新しく変える。

二人で出発するために、彼女を明るく迎えてやるための僕の決意だった。


その相談を豊島さんにしたところ、彼の実家を継ぐ弟さんが知り合いに頼み、

仕事を引き受けてくれた。家具を動かしながらの作業のため、思っていたよりも手間はかかったが、

丁寧な仕上がりは大満足で、少しの不満もない。


「和穂さんには、もちろん秘密なんだろ」


全ての場所のチェックを終え、豊島さんは僕に書類を手渡した。中身を確認しサインをして

この仕事は完成する。


「いや……特に宣言する必要もないので言わないだけです。すぐにバレますよ」


僕は豊島さんに渡された書類にサインをしながら、そう答えを返す。

悪いことをしているつもりはないし、聞かれたら正直に応えるつもりだが、

あえて宣言する必要はないとそう思う。


「確かにな。三田村さんは素直だから、和穂さんに疑われたらあっさりと言っちゃうかもしれない」

「僕もそう思います」


豊島さんは母のところに出入りしているため、望のこともよく知っていた。

気持ちの優しいかわいらしい女性だと、僕が嬉しくなるようなセリフを、並べて披露する。


「いや、待て! 意外にわからないかもしれないぞ。灯台下暗しって言うじゃないか。
うん、秘密にしよう。いいじゃないか、僕は守るよ、男同士の秘密」

「男同士の秘密ですか?」

「あぁ……寛大そうに見えるけど、彼女も母親だ。同棲なんてダメだって、
何か言い出すかもしれないし、これは秘密にしておかないと」

「豊島さんが、一番楽しそうですよ」

「あはは……そうかもしれないな。若いことはいいよ、うん……」


豊島さんの豪快な笑いが、妙におかしかった。手が震え、サインが思い切り曲がってしまいそうで、

僕はペンを一度止めた。





43 空間共有 へ……




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コメント

非公開コメント

若いっていいな

いいなぁ~! 彼女のをそっと抱きしめてあげて… 束の間の休息なのですか?暫くこのままで楽しみたいのですが… 今神戸はインフルエンザで大変です!!ももんたさんも気をつけて下さい。

気持ちは姉です・・・

一緒に住むことにしたのね。

望ちゃん、今まで誰かに頼ったことなかった子なのかも。
いっつも人心配ばっかりして・・・
コウちゃんのことだって、あんな目にあったのに最後まで心配して。
(コウちゃん、ちゃんと立ち直ってくれるかな・・・心配だよ~)

普通はヒロインを自分の置き換えるのかもしれないけれど、
望ちゃんと私のギャップにそれは無理だと(笑)
気分は、彼女のお姉さんです (不憫な妹を見守る気分・・・)

祐作くん、頼んだよ!
望を幸せにするんだぞー!

豊島さんとの関係、不思議なつながりになってきたね。
母親のパートナーだって受け入れるのは難しいけれど、男同士の秘密の共有が、何かを生んだのかな。

気持ちは望です・・・^m^

こんなにひどい目にあったのに、コウちゃんを憎みきれない望ちゃん。ほんと優しいね・・vv
こんな望ちゃんだからこそ、祐作は手元において、大事にしてあげたいよね・・・^^

祐作と豊島さんは、男同士の秘密を楽しもうとしているけど・・・
私が望ちゃんだったら
やっぱり祐作ママには、隠しているのが何だか申し訳なく思えてきそう・・・^^;

>望は両手を大きく広げ、母がその腕の中に自分を抱きしめてくれたのだと嬉しそうに語った。
・・って、
彼女にとっては、祐作ママは信頼できる大切な人だもの~^^;

なでしこちゃん↑は、彼女のお姉さんなのね♪
私は、ちょっと若ぶって・・・望ちゃんになりきろうとしています~~^^;

元彼と住んでいた所で一緒に住むのかと、ちょっと野次馬の入ったおば様感覚で読ませていただきました^^ 

でもきちんとリフォームしているのをみて、なんだか安心しつつ、望を大切に思う心がひしひしと伝わり、気分は望になっちゃいました。

サラリーマンとお店の従業員じゃ、なかなか休みが会わないから、日常のデート大変かしら?と思っていたんですう!(しっかりそーぞーしていました!)

祐作、良かったね!!
望ちゃんたまには甘えてね。。。





同棲^^;

辛い時間を過ごしたけど、アイツのこと憎みきれないまま信じていてあげたのが、自首に繋がったのだと思う。
同棲ですか、いやー若いってこういうことが出来るから良いよね~~羨ましい。悟るが居なくなったのはラッキーだった(///o///)ゞ
男同士の秘密、豊島さん楽しそう。祐作も違う豊島を見て安心したかな、お母さんの選択に間違いは無かったようで・・

束の間かどうかは、秘密

anyonnさん、こんばんは!


>いいなぁ~! 彼女のをそっと抱きしめてあげて…
 束の間の休息なのですか?

ん? 束の間でもないかも。しばらく素敵な日々が……
続くかなぁ……(笑)

かといって、平々凡々だけだと、みんな飽きちゃうでしょ??

そうか神戸。新顔インフルさんが大変なんだね。
こっちもおそらく時間の問題だろうと、子供達には
手洗いとうがいだけは徹底させています。

楽しいことがたくさんある時期に、病気になりたくないよぉ
私も、気をつけます!

姉か……

なでしこちゃん、こんばんは!


>普通はヒロインを自分の置き換えるのかもしれないけれど、
 望ちゃんと私のギャップにそれは無理だと(笑)
 気分は、彼女のお姉さんです (不憫な妹を見守る気分・・・)

あはは……そうか、姉か。
見守ってあげてね。望のことも、コウちゃんのことも。

二人は一緒に暮らすことになりますが、一緒になると
見えてくるものも出て来まして……
で、また、人も出て来まして(笑)

もう少しラストまでは、かかる予定です。

豊島さんとの関係も、父とは言えないが、兄、ちょっとした知り合い?
今のところは、そんな状態かな?

望だ……

eikoさん、こんばんは!


>こんなにひどい目にあったのに、
 コウちゃんを憎みきれない望ちゃん。ほんと優しいね・・vv

祐作もそう思っていると思うんですが、望が浩太に優しい理由は
これから先に出て来ます。


>私が望ちゃんだったら
 やっぱり祐作ママには、隠しているのが
 何だか申し訳なく思えてきそう・・・^^;

おそらく望は、隠せないでしょう(笑)
宣言することはないにしても、態度に出ちゃう気がします。

eikoさんは望になるんですね。いいんですよ、読んでいる時は年齢など自由自在です!
私は書きながら、性別まで動かしてますから(笑)

そう、望だよね

milky-tinkさん、こんばんは!

ん? おばさま感覚で読んじゃったんですか?


>でもきちんとリフォームしているのをみて、
 なんだか安心しつつ、望を大切に思う心が
 ひしひしと伝わり、気分は望になっちゃいました。

よかった……そうそう、どうせなるならおばさんより
望ちゃんになってください。

日常のデートですが、サラリーマンでも、祐作は広告代理店勤めですからね。
意外に、自由がきくんですよ(と、聞いたことがある)

望……一緒に住むようになって、変化を見せられるか

それは、また、続きを!

今まで自分の全てを受け入れてくれていた人が
他の人を見ている。

他にも自分に注目している人がいると気にならない小さなことも
唯一の理解者と思っていた人だと

許せない!!!

そんな思いで もしかしたらあれこれ嫌がらせしていたのかも?と思っていたら

ちょっと今度のはいたずらにしても 度が過ぎてしまった。
それも予定外だったから コウちゃん(どこかで聞いた名前?)焦ったでしょうね。

彼女の『白』を証明する人を連れての自首はそういう風にとらえてあげたいのだけど・・

望が暖かい場所を得たことを早く認めて 応援してあげて欲しいな~。

同棲だよん

yonyonさん、こんばんは!


>辛い時間を過ごしたけど、アイツのこと憎みきれないまま
 信じていてあげたのが、自首に繋がったのだと思う。

そう、望の中にある浩太への想いに、気付いたのでしょうね。
そこらへんは、また後ほど、出て来ますので

同棲……私はしたことないですけど、楽しそう。

一緒に住むようになった二人の変化を、また、楽しんで下さい。

そっちじゃなかった

yokanさん、こんばんは!


>青山君、動きましたね^^しかし、同棲とは・・・
 てっきりプロポーズかと思ってた^

あ、そうなんだ。yokanさんは一気に行け! ってタイプなのね。
でも、それじゃお話が終了! しちゃうので。

同じ空間の中に過ごすことになった二人
今までとの違いを、これから感じてもらえると、また、楽しめると思いますよ。

気がついたら…

ちょっとおさぼりしていたら、嵐が来たと思ったら
僕らのの秘密が…❤。。(///ω///)
それぞれが良い方向へ向かっているようで
コウちゃんもこれで全うな人間に生まれ変わるだろうし
祐作と豊島さんも男同士の良い関係に…ぐ~♪ d(* ̄o ̄)
何よりも望と着実に前進していてよっかた~♪
ま、ももんたさんのことだからこのままゴールへまっしぐら!
ではないと思いますんで次回のお話心待ちにしてますぅ
(∂。∂。;;

こっちもコウちゃん

azureさん、こんばんは!


>ちょっと今度のはいたずらにしても度が過ぎてしまった。
 それも予定外だったから コウちゃん(どこかで聞いた名前?)
 焦ったでしょうね。

コウちゃん(あ、本当だ、どこかで聞いた名前だ・笑)も、
現実と自分の想いがからまっていかなくて、気持ちだけが
焦っていたんだと……

この事件をどう捕らえるのかは、後ほど……

とっても嬉しいです

拍手コメントさんへ! こんばんは!

いつも楽しみに読んでくださって、ありがとう。
そう言ってもらえることが、私の力になります。
これからもぜひ、おつきあいくださいね。

な、なにぃ……

Arisa♪さん、こんばんは!


>それぞれが良い方向へ向かっているようで
 コウちゃんもこれで全うな人間に生まれ変わるだろうし

それぞれ、いい方向に向かっていかないとね、
読んでいても嫌になっちゃうでしょ。


>ま、ももんたさんのことだからこのままゴールへまっしぐら!
 ではないと思いますんで次回のお話心待ちにしてますぅ

ん? なんと言うことを!!(笑)
じゃ、次回ラストでウエディングっていうのはどう?
(あり得ないな……)

> じゃ、次回ラストでウエディングっていうのはどう?
(あり得ないな……)

そ、そ、それはすんなり行き過ぎですぅ^^;
もう、一やま(小さめの)くらいはあってもいいかなぁ~(笑)

どうも!

Arisa♪さん、こんばんは!

小さい山? さて、大きいか小さいかは実際にぶつからないと
わからないですよね。

頑張ってもらいましょ!

思いは深く

拍手コメントさん、こんばんは

>とうとう、同棲スタートですね♪

はい。事件に巻き込まれた望を見て、祐作もいたたまれなかったのでしょう。
自分が守ると思い、こういう行動を取りました。

>祐作は、どこまでも望にやさしいんですね・・・^^。

はい、恋する男は、いくら出来るヤツでも、純情なのです(笑)