【S&B】 44 駆け引き

      44 駆け引き



コンピューター頭の十勝君は、時計通りに動く。

守口は、トイレに行くのもいつも同じ時間だとからかうが、彼のマイペースさは全く変化がない。

近頃は、彼の動きで、営業部員が時間の経過を意識するようになった。





「ダメかな」

「いえ、でも、私じゃまだまだ……」


『ボルダワイン』のキャンペーンポスターを制作することになったが、僕は以前、

今野といい仕事をしてくれた3年目の端野さんに、白羽の矢を立てた。濱尾と相談し、

制作部へ頼みに行ったが、門番のように立つハリネズミにはね返されてしまう。


だからといって、計画した内容を変更することは出来ないと、僕と濱尾は近くの喫茶店に

端野さんを呼び出し、ぜひ、自分からやりたいと手をあげてほしいと説得する。


端野さんは小柄な女性で、望と同じ位置にほくろがあった。僕がそんな共通点を考えながら、

彼女を見ると、男性と向かい合うことに慣れてないのか、すぐに下を向く。


「ハリネ……いや、室田さんのことはこっちで説得する。だから、頑張りますってひと言を
言って欲しいんだ。この企画は長いものになる。『ボルダワイン』はこのミニワインの後に、
ネットでの新展開を狙っているらしいし、君の代表作になるかもしれないんだ」

「……はい」





1時間ほどの説得を終えて、僕と濱尾は営業部へ戻った。すぐに別のクライアントに

連絡しなければならないことがあった僕と違い、濱尾は十勝君の前に立ち、なにやら言い始める。


「君の実力は周りの評価以上だ……。あとは素直に頷く勇気だけあればいい……」

「は?」

「は? じゃないの、十勝君。いやぁ……まいりましたよ、主任の殺し文句には」


濱尾が何を演じたのかわからない十勝君は、首を30度くらいに傾け、不思議そうな顔をした。

データ入力をしていた今野と原田が、濱尾の話に興味を示す。


「何ですか、今の」

「もう、今野さんに見せたかったよ。今さ、制作部の端野さんを一本釣りしてきたんだけど、
なかなか、わかりましたと言わない彼女に、青山主任が言ったひと言! くぅ……俺、
しびれちゃいましたよ。いいよなぁ、あんな武器があるってことは。端野さん、殺し文句に
目がポーッとしてましたよ」

「端野さんって?」


原田は端野さんのことがすぐに気になるようで、隣にいた今野に問いかけた。

今野は、自分のした仕事に参加してくれた制作部の女性だと原田に説明する。


「君の実力は周りの評価以上だ……。あとは素直に頷く勇気だけあればいい……かぁ。
いやぁ……言ってみたいっすよ、俺も」

「誰に言われてもいいってものじゃ、ないよね」

「うん……」

「ん?」


笑いながらそう言った今野と原田のことを、濱尾は必死の目力で、睨みつけていた。





「あはは……楽しい」

「濱尾はおもしろいよ。全然、そんなこと意識して言ったわけじゃないのに、あいつがいうと、
芝居みたいに聞こえてくる」

「濱尾さんって楽しい人だもの。明るくて、優しくて……。私が失敗した時も、
一番励ましてくれたし、フォローもしてくれた」


望は夕食の片付けをしながら、今日の僕の出来事に耳を傾けた。濱尾がどれだけいい人間なのか、

悩みもしないで出てくるのを聞いていると、つい、こんな質問をぶつけてみたくなる。


「なぁ……濱尾が望を好きだったことに、気付いてた?」

「エ……」


皿を拭きながら、望はこっちを向いた。この表情は、全く気付いていなかったという現れだろう。


「そうか、気付いてなかったか……」

「原田さんが祐作さんを好きなことは、気付いてましたけど……」

「ん?」


自分の出来事にはうといくせに、こういうところは女なのだろう。気付いて欲しくないような

ところには、しっかりと気付いていた。





カレンダーが3月の窓を開け、僕はパソコンを立ち上げるのが日課になった。望が応募した

『手作りコンテスト』のネット投票、中間発表が行われるからだ。ここから残り2週間は、

毎日順位が入れ替わり、最後10作品だけが、専門家の審査を受けることになる。


とりあえずやってみるだけでいいじゃないかと、望には言っていたが、

内心、やるからには何か形になるものを残せればいいのにと思いながら、順位を確かめる。

くまのぬいぐるみ同士を向かい合わせてつなげ、その反対の手に誓いのリングをはめさせた、

『ウエディングベア』は、人気投票5位という、なかなかの好位置につけていた。

しかし、3位との投票数は僅差といえるくらいのもので、順位を見た瞬間、

また僕の大きな野望が、むくむくと顔を出す。


「どうにかならないかなぁ……」

「どうにかって?」


望は曜日によって、パンと和食を切り替え朝食を用意してくれた。飲みに行った時の次の朝、

おかゆが出て来たときには、あまりの嬉しさに朝から抱きしめそうになり、

自分の気持ちのコントロールに苦労したこともある。


「順位だよ。5位なんだ。もうちょっとで3位まで届く」

「十分よ、5位だって。そんな贅沢言ったら専門家の審査でボロボロにされちゃう」

「いや、3位になるかどうかは大きいよ。作品を見せる写真の大きさが違う。人は視界からの刺激に、
気持ちを左右されることが多い。特にネットの場合はインパクトが勝負だ」


広告代理店に勤め、そう言った感覚の鋭さは、自慢じゃないが人並み以上だと思っている。


「豊島さんもね、ポスターを作ってきてくれたの。お店に貼ってくれた。
よく来てくれるお客さんはもうちゃんと投票してくれたみたいだし、本当に十分よ」

「なぁ、営業部に電話してくればいいよ。原田か今野の番号なら知ってるだろ」


僕は原田か今野に事情を話し、営業部全員に投票してほしいと言えばいいのではないかと

提案したが、望はそんな細工までして、票を稼ぐのは嫌だと、機嫌を悪くしたまま出勤した。





僕と濱尾の努力のかいがあり、制作部の端野さんが、『ボルダワイン』の担当を

引き受けてくれることになった。上司であるハリネズミは、僕らの一本釣りに対し、

文句をあれこれ言ったが、サインさえもらえたら、周りで雑音が聞こえようと話は動き、

午後にはさっそく1回目の打ち合わせをすることになる。


「主任、『ボルダワイン』のミニシリーズの話、本決まりのようですよ。この間、
それぞれの業者を選んでいるって、松本さんが言ってました」

「そうか……あそこは洋酒関係は強いけど、日本酒や焼酎のブランドは認識されてないからな。
今、女性の好みも変化しているし、ここで一気に出てくるんだろう」

「大きい仕事になりそうですね」

「あぁ……」


資料をまとめながら濱尾と話をしていると、受付から内線が入る。今野がそれをとり、僕へつないだ。


「はい、青山です……エ?」


受付に来た男は、僕に会うことを希望した高添浩太だった。





45 思い出の写真 へ……




いつもおつきあいありがとうございます……

ランキング参加中です。よかったら1ポチ……ご協力ください。

コメント

非公開コメント

春ですね

明日がUPだと思いつつ開いたら嬉しい文字がももんたさんありがとうございます。

出会いから一年たったのね。幸せな二人がみえるようです

祐作さんと呼び、敬語が取れているのね(*^^*) 何だか、にまにましてきちゃいます

会社でのマリンサンドタイムもなくなったし、原田さんどうみてるのかな?

仕事モードの祐作素敵ですね! ついに、こうた君が来ましたね。いろいろあるけど頑張れ祐作

一気読み。目がチカチカします(笑)

ももんたさん

はぁはぁ、ぜいぜい・・・やっと追いつきました。
今日お休みだったので1話から読み直してきました~。

一気に読むともうももんたさんの世界にズドーンと引き込まれ
二人がゆっくりと近づいてくるのをニマニマしながら呼んでました。^^

祐作さんと望ちゃんの幸せになるのを見て、良かったよかった。と思っていたら

・・・コウタ君またでてきましたね。 (`-´)

でも望ちゃんが自分に自信持ってくれるようになったからきっと大丈夫よね。

だんだん力強くなってくる望ちゃんを見てるのも楽しいです。

私にも

『手作りコンテスト』私にも投票出来ればいいのに・・・
確かスイーツのブログにも書き込みしたいと言った私、ドンだけ
祐作に関りたいんだプー!(*≧m≦)=3
 
このまま穏やかに過ぎて行けばいいのに、と思っていた同棲生活。又一波乱起きるのか、それともアイツは素直に謝りに来たのか?うーーん気になる・・・

おっと……

milky-tinkさん、こんばんは!


>祐作さんと呼び、敬語が取れているのね(*^^*)
 何だか、にまにましてきちゃいます
 会社でのマリンサンドタイムもなくなったし、
 原田さんどうみてるのかな?

おぉ……、milky-tinkさん、なかなか鋭いところを(笑)
望は生活の中で、祐作に対する態度をちゃんと変えてきています。
そりゃね、いつまでもカチコチしてられないですから。

マリンサンドを買わなくなった祐作。
ハッキリと彼女います宣言はしなくても、気付く人は気付くはず……


>仕事モードの祐作素敵ですね! ついに、こうた君が来ましたね。
 いろいろあるけど頑張れ祐作

祐作の仕事モードと、望の前での違いも、感じていただけたら嬉しいです。
浩太が来た意味は、次回へ続きますよん。

『ウェディングベア』

いい感じの祐作くんと望ちゃん!

『ウェディングベア』 入賞しますように・・・

このまま幸せの二人でいて欲しい。

なんか望ちゃん、明るくなったような気がします。

浩ちゃん、迷惑かけたんだから素直になって欲しいなあ~。


いつもUPを楽しみにしております。

目は大切ですよ

tyatyaさん、こんばんは!


>はぁはぁ、ぜいぜい・・・やっと追いつきました。
 今日お休みだったので1話から読み直してきました~。

ガーン! それは、お休みが大変なことに……
無理せずとも大丈夫ですよ。1話ずつは短いけど、重ねたら相当な量だと


>一気に読むともうももんたさんの世界にズドーンと引き込まれ
 二人がゆっくりと近づいてくるのをニマニマしながら呼んでました。^^

私の世界ってどんなものなんだろう……
書いている方は、よくわからないんだけど
いい世界だったら嬉しいな

自分のブログだと、なんでもありですよね。
楽しんでおりますので、また、お暇なときに来て下さい。

……目、大丈夫ですか?

うふふ……yonyonさん楽しい

yonyonさん、こんばんは!


>『手作りコンテスト』私にも投票出来ればいいのに・・・

あぁ、本当だ。そうしてくれたら……
と、真面目に考えてどうする(笑)

心で投票してやって! 


>このまま穏やかに過ぎて行けばいいのに、と思っていた同棲生活。
 又一波乱起きるのか、それともアイツは素直に謝りに来たのか?
 うーーん気になる・・・

気にして待っていてね。次回、わかっちゃうからね!

祐作の周りの人々

yokanさん、こんばんは!


>二人の生活が始まり、三田村ちゃんのぎこちなさが理解できるし、
 また可愛くうつりますよね^^

祐作と出会ってからの、望の変化ですよね。
一緒に住み始めたら、いつまでもカチコチはしていられないので。


>44話を読むと、改めて登場人物が多いことに気づきましたが、
 この仕事の駆け引き場面は好きです。

あはは……登場人物多いですよね。ただ、祐作は仕事が出来る男という設定なので、
そのためにはビジネスシーンがないと、説得力がない気がするので。
仕事は一人っきりじゃ出来ないでしょ? で、ついつい……

『ウエディングベア』の投票結果は、後ほどわかります。
また、話が動きますからね。

愛の力だね

hachioujiさん、こんばんは!


>いい感じの祐作くんと望ちゃん!
 『ウェディングベア』 入賞しますように・・・
 このまま幸せの二人でいて欲しい。

同棲生活も月日を重ね、少しずつ自分の場所を確保していく望です。
幸せな二人になっていくために、もう少し頑張ってもらいましょう!


>なんか望ちゃん、明るくなったような気がします。

うふふ……。だって、愛してくれる人がそばにいますからね。
愛は、人を強くするのです。


>いつもUPを楽しみにしております。

こちらこそ、ありがとうございます。
楽しみにしていただけるように、頑張ります!

心が落ち着いたので^^;

ももちゃん こんにちは^^

昨日は、突然のアクシデントで、心を乱され(^^;)書き込みができず・・・
今日改めてやってきたよ~!

季節が移り、祐作と望の距離も近くなり、落ち着いた時間が流れているみたいね。
祐作クン、お仕事ができる彼だったけれど、以前にも増して落ち着いてきたような・・・
望ちゃんの存在が大きいかな?^m^

>「原田さんが祐作さんを好きなことは、気付いてましたけど……」

この台詞、以前の望ちゃんなら口にしないことだよね。
思うことを言ってみる、また、言えるようになるって大事なこと。
彼女の心の落ち着きが見えて、とっても嬉しい一言でした。

コンテストの順位に関しても、自分の姿勢を貫いて、それを尊重する祐作もいいわぁ~^^

出てきたねぇ、コウちゃん
どんな男になっているのかな・・・次回UPが待ちきれないよ~!


めげずにありがとう!

なでしこちゃん、こんばんは!

昨日のアクシデントねぇ……。もし増えてくるようだったら、
コメントを承認制にしようかなとも思ってます。
ごめんよ、驚かせて(笑)


>季節が移り、祐作と望の距離も近くなり、
 落ち着いた時間が流れているみたいね。

はい、流れてます。隠しておきたかった部分も、ちゃんと理解してくれた相手ですからね。
望の隠れて見えなかった部分も、見せられているのではないかと。


>思うことを言ってみる、また、言えるようになるって大事なこと。

そうそう、心を開くことが大事なのです。
さて、出て来たコウちゃん。心を開けるのか?

はじめまして

 はじめまして。撫子さんの紹介でこちらにおじゃましました!


 S&B 一気に44話まで・・・。
 途中で、何度も休憩しよう。また、読もうと思いながら
 やめられなくて、1話また1話と 39話まで。
 さすがに全部は時間が足りなくて、今44話終了。
 我ながら、よくがんばったな~と
 時間も忘れ 読みふけました☆

 ヒロイン 三田村ちゃんは、私のイメージだと 酒井美羽さんの
 どこか憎めないドジキャラの女の子が頭の中をぐるぐる♪してしまい 初コメなのに 失礼しました。

 ここまで読んで
 祐ちゃんと望の恋を見守っていきたい・・・。
 他の創作も読ませていただくのが楽しみです♪

 また、おじゃまさせてくださいね!

はじめまして

miharuruさん、こんばんは!
なでしこさんのお部屋から、遊びに来て下さって、ありがとうございます。
HNは、よく、お見かけしてました。


>S&B 一気に44話まで・・・。

すみません……。1話ずつは短いですけど、重なれば相当な量だったはずですよね。
目、大丈夫ですか?


>ヒロイン 三田村ちゃんは、私のイメージだと
 酒井美羽さんのどこか憎めないドジキャラの女の子が
 頭の中をぐるぐる♪してしまい 初コメなのに 失礼しました。

全然、失礼じゃないですよ。思ったままに語っていただいて
大丈夫です。望は、とびきり美人でもないし、頭がいいわけでもないけれど、
いい男で仕事の出来る祐作が付いちゃうんですよ(笑)

まぁ、そんな恋もあっていいでしょう。


>他の創作も読ませていただくのが楽しみです♪

ありがとうございます。カテゴリーに数字が入っているものはこちらにあります。
何か、気に入ってもらえるものがあると、嬉しいです。

こちらこそ、また、遊びに来て下さいね。