サイダー 15 分かち合う時

15 分かち合う時


ブンとの結婚式まで、あと3日。


仕事帰りに式場へ寄り、エステと簡単なマッサージをしてもらう。

ここで式を挙げる他の花嫁さんも、同じように並んでいた。


それぞれ別の相手だけれど、幸せになる日を待っている……。それは一緒。


「うん、今終わった。これから帰るね」


私は家に電話をし、駅へ向かう。『家から嫁に来ること!』というブンの勝手な台本で、

この1週間は互いに家に戻っている。


変なところが律儀で、変なところがルーズなブンだけど、それがケジメ……なのかもしれない。

そんなことを考えながら、私は公園を横切っていく。この公園には古くなったブランコがあり、

少し前に誰かが乗っていたのか、キィキィと音を立ててまだ揺れていた。


「ブンのお嫁さんになりたい……」


まだ、おままごとしかしていなかった時から、私はよくそう言っていた。

友達はみんなお花屋さんや、ケーキ屋さんだったのに。


このブランコに揺られながら、靴を飛ばしたっけ。今は切られてしまった木まで届いたら……。


ブンのお嫁さんになれる……。


……そんな幼い頃の思い出。





「ただいま!」

「あ、ユン。綾ちゃんから小包来てるけど」


部屋に戻り小包を開けると、そこには綾からの手紙と、手作りのリングピローが入っていた。



『ユン、色々とありがとう。しっかり勉強して、あなたの心配性をこれ以上悪化させないように
頑張るからね。これは、私が作りました。昔から裁縫は得意なんだよ。二人の誓いで交わされる、
指輪を置いてもらえたら嬉しいです……』



私はその小さな贈り物を両手でしっかりとつかみ、胸に当てた。


きっと二人とも幸せになれる……。


目を閉じ、そう何度も心で繰り返した。





そして、結婚式前日。私は有休を取り、一日店と家事を手伝った。

この家に、親に育ててもらったお礼。

大好きなブンと結婚して、家を出て行くことを許してもらえた感謝を込めて、

お店のケースを丁寧に拭いていく。


「ユン……そろそろ食事にしよう」

「うん……」


この家で、嫁入り前に最後に食べるのは、私が大好きなちらし寿司だった。甘い錦糸卵も母の手作り。


「明日だね結婚式……。なんだか準備するの大変だなんて思っていたけど、
過ぎちゃうとあっという間だったわ……」

「うん……」


いつも明るい声で、家族を盛り上げてくれる母の、ポツリとした一言が、小さな緊張感を生んでいく。


「ユン……」

「はい……」

「ブンが嫌になったら、すぐに戻ってこい!」


突然の父の言葉に、言葉を無くす私。ここで、はい……と言ってしまっていいのだろうか。


「お父さん、何言ってるの。ユンは谷岡家に行くんですよ。ブン……じゃない、
尚文君を自分で選んで嫁に行くんですから。少しくらい何かがあったからって、
戻ります……なんて絶対にダメよ!」

「……」

「実家が近いから、甘えた気分になりがちだし、その辺は心にしっかり思っておかないと。
かわいがってもらえなくなるわ……」


母の言うことはもっともだと思った。これからはブンのお母さんを立てて、ブンを立てていかないと。

幼なじみの仲良しさんとは、もう違うのだから……。


「冗談じゃない。ブンが欲しい、欲しいっていうから、やるんだぞ。
大事にしてもらえないのなら、帰ってくればいいんだ」

「お父さん! そんな言い方したら、ユンが迷うでしょ……」

「……」

「名字が変わっても、娘は娘だ。……お前の味方でいてやるからな……」


父の言うことも、母の言うことも……どちらも正しい。私は何度も頷いた。

声を出すと、涙が出てしまうから。


「ブンはだいじょうぶだよ……。ちょっとまぬけなところもあるけど、
ユンを大事にしてくれることは、間違いない……」


姉の珠樹が私の肩をポンと叩いてくれた。


「ありがとう……」


しんみりとした家族の食卓に、割り込んできた電話の音。私は携帯電話を取る。


「もしもし……どうしたの?」

「ユン、時間ある? ちょっと見せたいものがあるんだけど……」

「エ……うん……」


ブンは意見を聞きたいから……と公園へ来るように私に告げた。


「誰? ブン?」

「うん……何だか見せたいものがあるんだって。食事終わったら公園に行ってくる」

「全く、あいつは。団らんの邪魔をして……」

「あはは……。お父さん、そりゃブンがかわいそうだよ」


姉と父の笑い声に、しんみりした食卓は、また明るさを取り戻していた。





まだ来ていないブンを待ちながら、私はブランコに乗る。足を折ると、下に着きそうになった。

小さい頃とは違うことを、あらためて感じながら……。


「ユン! ごめん……ほら……」


ブンは両手にサイダーを持ち、公園に現れた。私はブランコを止め、その1本を受け取る。


「なぁ、今そこの自動販売機で買ったんだけど、なんと……当たりが出て。もう1本……」

「へぇ……」

「俺たちの未来は明るいな!」


何でも前向き、何でもプラス……。そう、それもブンの特技。


「ねぇ、見せたいものって何?」

「あ、そう……これ……」


ブンが出してきたのは1枚の写真だった。

頭にピンクのリボンをつけた私が、ブンのほっぺたにキスをしている。


「……エ? これいつだっけ?」

「小学校2年の時の学芸会だって。お袋が古い人形ケースを整理していたら出てきたって……」

「あぁ……じゃぁ、おやゆびひめの後?」

「うん……俺が村人1で、ユンが……」

「おやゆびひめ……の友達」


当時のことを思いだし、笑う二人。そう、本当にこういうもので主役に立つ縁がなかった私たち。


「あ、そうだ……思いだした。ブンに一つだけセリフがあって、とちらないかって心配して……。
うまく言えたからってキスしたんだ!」

「……そうだっけ?」

「そうだよ……そう!」


私はその写真をじっと見つめた。私はこの頃からブンが大好きで、大好きで仕方なかったのだ。

村人1なのに、王子様より光って見えたブン。


「二人の初めてのキスだからさ……明日のウエルカムボードに貼っておこうかなと思って……。
どう思う?」


披露宴に来てくれた人が、見てくれるウエルカムボード。私は何度も頷いた。

私たちの歴史は、この頃からずっと続いているのだ。

ブンは手に持ったサイダーの栓をあけ、飲み始める。


「ねぇ、ブン……お局様に言われなかった?」

「は? 糸川さんのこと?」

「そう。前に花屋の女の子が幼なじみと結婚するって言ったら、お手軽ねって言われてたって……」

「あぁ……」


私は少しだけブランコを揺らし、ブンの答えを待つ。


「言われなかったよ。でも、言いたいなら言ってくれたらいいよ……」

「……」

「ずっと一緒にいたい……と思う人が、他の人達よりも早くそばにいたってだけだろ。
お手軽でもなんでも、悔しければつかんでみろって……」


ブンは私のブランコの揺れを止め、目の前に立った。私は座ったまま、上を見る。


「独身最後のキス……」


そう言いながら、ゆっくりと私に顔を近づける。目を閉じた瞬間、ブンの唇が優しく重なった。


「新婚最初のキスは、教会か……」

「……」

「ん?」

「ブン、何言ってるの?」


私は呆れた口調で、そう問い返す。


「何?」

「あの教会、キスしないんだよ。ほっぺた同士をくっつけて挨拶しますって、
牧師さん言ってたじゃないの。聞いてなかったの?」

「……」

「……」

「ウソ……」


一緒にチャペルで話しを聞いていたはずなのに、何を考えていたのやら……。


「そうなんだ……」

「そうだよ」


そんなことで悔しそうにしているブンの手から、サイダーの缶を取りあげる私。


「ちょうだい……」

「ん? ユンにも1本やっただろ」

「いいの……これで……」


私はもらったサイダーを下に置き、ブンの飲みかけに口をつける。

少しずつ何度も飲みながら、真上にある月を見た。


「ねぇ、ブン……」

「なんだよ……」

「これからも、こうして、1つのものを2人で分け合っていこうね。
楽しいことも、大変なことも……」


ブンは私からサイダーの缶を取りあげ、また口をつけた。私はその横顔をじっと見つめる。


「……ふぅ」


ブンが私の方を向き、またサイダーの缶を差し出した。


「あぁ……」


渡されたサイダーにまた口をつける私。


「なぁ、ユン。知らんぷりしてキスしちゃうか、教会で!」

「……バカ! 結婚式から神様に逆らうなんて。幸せになれないからね!」


全くもう、とんでもないことを言い出すんだから……。


「ほっぺた合わせるのだって、素敵な挨拶だと思うよ」

「……そうか」

「そうだよ」


ブンは隣のブランコに腰掛け、また私から缶を奪い返す。


「そうだよな。キスは……夜にでもあっちこっちすればいいや!」

「……」

「……」

「そういうことを、口に出して言わないの!」


私はブンの両頬を思い切り両手で引っ張ってやった。全くもう……。そう、呆れた顔をしながら。



『神様……こんな二人ですが、幸せにしてくださいね』



私の願いを、聞き入れてもらえるのだろうか……。それはきっと、これからにかかっている。


ブンと二人で歩んでいこう。

明日は、晴れますように……。

                                            おしまい……



おめでとうユン! しっかりねブン!

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シュワ~っと幸せが・・・こみ上げる~♡

ももんたさん^^二人の幸せな光景をありがとう~♪

ユンの不安も結婚前に解消できたし、
綾とも友情が復活して・・・^m^
幸せな結婚式が迎えられますね~

「これからも、こうして、1つのものを2人で分け合っていこうね。
楽しいことも、大変なことも……」
この言葉の意味をかみしめて、二人で歩んでいってくれるのね~☆

ユンパパの言葉に涙が出ちゃいそうになりました^^

ももんたさん 爽やかな二人のその後・・・
また いつか報告してね~♪

お付き合いありがとう

ナイショさん、こんばんは!

私の作品を知ってもらったのが、『サイダー』だったんですね。
幼なじみのカップルなので、他の作品に比べて、掛け合いは遠慮がないんですけど、
その分、二人の気持ちはストレートに届くのではと思っています。

これからも、ぜひぜひ、立ち寄って読んでくださいね。
『私の世界』が、ナイショさんにとって、心地よいものでありますように。

爽やかな二人

eikoさん、こんばんは!


>ももんたさん^^二人の幸せな光景をありがとう~♪

いえいえ、こちらこそ最後まで、お付き合いありがとうございます。


>ユンパパの言葉に涙が出ちゃいそうになりました^^

実は、このセリフ、私が結婚する前に実の父から言われた言葉なんですよ。
名字が変わっても……って。
当たり前のことなんだけど、こうして言われると、
嬉しいものですよね。親はいつまでも親ですから。

爽やかなカップルのその後は……
まぁ、また、そんな機会があればということで(笑)