【S&B】 47 プレゼント

      47 プレゼント



賞を取って10日後、望は出版社に呼ばれ取材を受けることになった。

あらかじめ聞かれることはアンケート形式になりもらっていたので、

前日からその用紙を見ながら、頭をひねっている。

僕はそんな彼女のよく変わる表情を見ながら、『すいーつらんち』の更新をしていく。


「取材なんて嫌だなぁ……賞状だけくれたらそれでいいのに」

「そんなこと言うなよ。雑誌社の企画なんだ、それはそれなりに色々とあるよ。
記念だと思って、精一杯やってくればいい」

「うん……」


人前に出ることを得意としない望にすれば、不安で仕方がないのだろう。

僕はキーボードを叩きながら、以前から計画していたことを告げる。


「なぁ、明日取材が終わったら、適当に時間をつぶしておいてくれない?」

「どうして?」

「明日はその後食事をして、『ホテルシャンタン』に泊まるから」


望は驚いた表情を向けたまま、それでも嬉しそうに頷いた。そう、彼女がこの企画に応募してから、

僕は賞を取れても取れなくても、こんな風にプレゼントをしようと決めていた。

取材の日と、予約日が重なったのは偶然だが、望が仕事の休みを取れていたので、好都合だった。


『ホテルシャンタン』の最上階にあるレストランは、スイーツが美味しいことでも有名な店で、

予約なしでは入ることも難しい。


「取材頑張れば、シャンタンのチーズケーキが食べられるってことでしょ?」

「あぁ……」

「じゃぁ、頑張る」


望はそう言うと、渡された質問用紙に、丁寧に自分の気持ちを書き始めた。僕は自分が明日、

『ホテルシャンタン』にチーズケーキを食べに行くのだと、雷おこしやランデブーに向け、

少し自慢がかった書き込みをした。





「緊張しちゃった。1位になった濱尾さんってね、素人なのにブログとかを立ち上げていて、
結構有名な人らしいの。だから、取材にも慣れていて、何を言ってるんだかわからない私と比べたら、
雲泥の差だった」

「濱尾? 濱尾の親戚とか?」

「あ……そうそう。前に濱尾さんからお姉さんが手芸の雑誌を読むって聞いていたから
聞いてみたけど、全然関係ない人みたい」

「そうか……そうだよな。あいつの親戚って感じはしない。手先が器用な人って」

「あ……失礼よ、祐作さん」


予約していた『ホテルシャンタン』の店は、平日だが、当たり前のように混んでいた。

ビルからは綺麗な東京の夜景が見え、いつもの食事と違うムードを演出する。


「おいしい……。さすがに評判以上ね」

「うん、チーズの味が濃厚だ。ワインにあうチーズケーキっていう売り文句は、よくわかる」


コースの料理を食べた後、最後に登場したチーズケーキは3種類あり、

そのケーキに似合うワインが付いてきた。望と僕とで別の種類を食べ、互いに味を確認する。


「なぁ……」

「いいと思うけど」

「言いたいことわかるの?」

「うん、残りの一つが気になるってことでしょ?」


ケーキは別にオーダーすることも可能で、僕たちは、残りの1種類をオーダーし、

心残りのないように、味わっていく。


「たくさん食べて満足なはずなのに、まだ入るのが不思議」

「エレベーターで、ブザーがなるかもな」

「……ひどい」


そんな冗談を言い合っていると、ウエイターが丁寧に包装されたワインを、僕らの前に置いた。

グラスではないボトルでの登場に、二人の会話が止まる。


「こちら、お持ち帰りいただけますか?」


最低でも10万円はするであろう高級ワインの登場に、望は驚きワインを見つめたままになり、

僕は慌てて注文を否定する。


「こちらは、『かいづか』の会長から、青山さんへのプレゼントです」


望と食事をしていて、別の客のことまで頭が回らなかったが、会長がいると聞き、

慌ててナフキンを外し、視線が届く範囲のテーブルを確認する。

それなりの服装をした客はいるが、会長の姿はわからない。


「会長はどちらですか?」

「もうお帰りになられました。ご主人とお二人で時々お見えになるんですよ」


ウエイターは、もう一度僕の方にワインボトルを差し出し、その場を去ろうとする。


「いや、でも、これ……」


こんな高価なものを、当たり前のように受け取るわけにはいかない。

どうぞと差し出すウエイターの気持ちには答えられず、僕は手で押し返す。


「青山様の価値はこの程度じゃないのだと、会長がそうおっしゃってました」


完全に1本取られた。ウエイターはそのワインを望に渡し、望は嬉しそうに頭をさげた。

僕がここで笑いながら食事をしていたのを、会長はどんな顔で見ていたのだろうか。





「青山さんの価値は、この程度じゃない……かぁ……」


望はほろ酔い気分なのか、ワインを大事そうに持ったまま窓際の椅子に腰掛けた。

僕は上着を脱ぐと、ミネラルウォーターのボトルをあける。


「気付かなかったな、会長がここを使っていることも知らなかったし……」

「すごいのね、祐作さんは。大企業の会長さんに、そんなふうに言ってもらえるなんて」


望はテーブルの上にワインを置き、窓から見える夜景に目を移した。

今度『かいづか』へ行くときには、それなりの土産話を持って行かなければならないと、

今から企画のタイアップになりそうな企業名を、あれこれ考えてみた。

雑誌なのか、それともTVドラマなのか、羽の付いた扇子が、僕の前でふわりふわりと動く。


「こんなに高い場所から、東京を見るのは、小さい時に東京タワーに登った以来だな」


その声に、僕の目の前で揺れていた会長の扇子は姿を消し、思い出の箱を開け、

懐かしんでいるように見える望の表情が、窓ガラスに反射し僕に届く。

水を一口飲み、ボトルを手に持ったまま望に近づき、後ろからそっと包み込むと、

僕らの姿が光の宝石箱の上に、浮かんでいるように見えた。


「今日はとっても楽しかった。取材も緊張したけど、終わってみたら楽しかったし、
ここでの食事も、こんなふうに夜を過ごせるのも……でも……」

「でも?」


望の表情から少し光が消え、腰から前に届く僕の腕をつかむ。


「こんなに幸せなことがいっぱいあると、明日、目を開けたら、全部夢だよって
なくなっていそうな気がする……」


窓ガラスに映る僕と望の視線が重なった。

不安な気持ちをのぞかせる望にしっかりと届くよう、僕は耳元で返事をする。


「そんなことあるわけないだろ」

「そうなんだけど……」


僕は一度望を腕から外し、ボトルをテーブルに置きもう一度しっかりと抱きしめた。


「朝までこうして抱いててやるから……。余計な心配なんかしないで、
幸せの海の中でゆっくりと泳いでいればいい」

「……海?」

「あぁ……おぼれそうになったら、僕が助けてやる」


不安な気持ちをぶつけた望は、僕を頼る気持ちを腰に回す腕に込めてくれた。

鼻に届く彼女の髪の香りが、新しい二人のページを開けていく。そんな気がした夜だった。





48 騒がしい胸の内 へ……




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コメント

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うふふ(*^^*)

甘い2人いいわあ
読んでる私は、休憩中で固いソファーベッド。←勤務中なの。

いいなあ いいなあ望ちゃん今までの分、幸せになってね祐作きちんと守ってね気持ちはすっかり望ちゃんの姉です
続き待っています。

さあ、仕事するか。

幸せの海なら溺れてみたい

 アンニョン~^^

 こんな幸せな海なら 1度といわず何度でも溺れてみたい・・・。
 
 望には、助けてくれるライフセーバーもいることだし
 うらやましいかぎり。

 『ホテルシャンタン』は 撫子さんとこの姉妹店かな~!?
 (『ボレロ』は『シャンタン』だった・・・)
 私も 濃厚チーズケーキ食べてみたい!きちっと3種類とも。
 (季節のケーキを全種類、買う二人が、もう1種類を食べないはずがないと、思いました・笑)

羨ましい!

祐作、なかなか洒落たことするじゃない。望もサプライズは嬉しかったでしょうね。お気に入りのチーズケーキもたっぷり食べて
・・・羨ましいぞ!
幸せに慣れてない、望の心を丸ごと包んで『僕がいる』と何度も何度も言ってあげて。
「カイヅカ」の社長に見られちゃった。京佳さんには嫌味の一つも言われるかしら?(ププ)

祐作の価値☆☆☆☆☆

いつも一緒に過ごしている二人も
・・こんな特別なチーズケーキと夜景に・・・幸せをかみしめてる感じだね^^

「明日、目を開けたら、全部夢だよってなくなっていそうな気がする……」
まだ、その幸せに慣れていない望ちゃん・・・
その気持ち、わかるなぁ。。。
祐作~思いっきり彼女を大切にしてあげてね!

「青山様の価値はこの程度じゃないのだ」・・・
な~んて評価される祐作は、やっぱりすごい!男冥利につきるねぇ~(〃▽〃)

お仕事、お仕事

milky-tinkさん、こんばんは!


>甘い2人いいわあ
 読んでる私は、休憩中で固いソファーベッド。←勤務中なの。

ん? 勤務中? 大丈夫ですか?
眠気覚ましになったでしょうか(笑)

ここ何回かは、祐作と望の新生活を追い続けてきましたが、
話はラストへ向かって動いていきます。

お姉ちゃん気分で、待っていてくださいね。
仕事、無事終了しましたか?

シャンタン

miharuruさん、こんばんは!


>『ホテルシャンタン』は 撫子さんとこの姉妹店かな~!?
 (『ボレロ』は『シャンタン』だった・・・)

お! そうでしたか……
きっと、なでしこちゃんのことだから、素敵な意味があるんだろうな。
私は、素敵な意味が……ないの(小さな声で)
どうしてこの名前になったかは、書いちゃうとイメージが(笑)
まぁ、偶然の産物、姉妹店ということにしてやってください。

濃厚なチーズケーキに負けない、濃厚な二人と言うことで……

幸せ……

yonyonさん、こんばんは!


>祐作、なかなか洒落たことするじゃない。
 望もサプライズは嬉しかったでしょうね。

嬉しかったはずですよ。幸せ……なはず。

ここのところ二人の幸せモードが続いてますが、次回からまた話が動きます。
ラストへ向かって進みますので、最後までお付き合いくださいませ。

望の進歩

eikoさん、こんばんは!


>「明日、目を開けたら、全部夢だよってなくなっていそうな気がする……」
 まだ、その幸せに慣れていない望ちゃん・・・

祐作と一緒にいることで、幸せを感じている望ですが、
こんな不安な気持ちを、しっかり口に出来ているのは、進歩かな……と。
甘えさせてもらえることも、実はしっかりわかっているのかも。

話はまた次回から動きます。最後までおつきあいくださいね。

山はどうなの?

hujiyamaさん、こんばんは!


>切ない~辛いの山は越えたのね^^・。

ここのところ何回か、祐作と望の新生活を追ってましたけれど、ここからまた話が動きます。
ラストへ向かって行きますので、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。

祐作の価値

yokanさん、こんばんは!


>ごちそうさま、二人の甘い雰囲気にあてられちゃったわ~^m^

あはは……。ここのところ、ちょっとのんびりムードだけれども、次回からまた動きますからね。
ラストへ向かって、二人の行方を見守ってやってくださいませ。


>しかし、会長もにくいことを言うね~、
 青山君の今までの積み重ねが会長とのつながりを強固なものとしてるんだわ^^

豪快でかつ繊細な『かいづか』の会長です。
評価される祐作も優秀だし、どんと評価する会長も太っ腹でしょ。
こんなこと、実際にあるのかないのか、知らないんだけどね(笑)

サービス期間中

nunさん、こんばんは!


>幸せな二人いいですね。

ありがとうございます。幸せから遠かった望に、ちょっとだけサービス期間中です。
次回からまた、動きますからね。

二人は幸せになっていけるのか……。ラストへ向かいますので、最後までお付き合いお願いします。

幸せでいいんだよ…

二人の仲もますます❤の感じで嬉しいな~
2等賞も祐作との優しい時間も望にとっては初めてで
この幸せが夢なんじゃないかなと不安に思うのもわかるなぁ
でも、望はいままでの分もこれからは幸せにならなきゃネ

「幸せの海の中でゆっくりと泳いでいればいい
……おぼれそうになったら、僕が助けてやる」
祐作も言うねぇ~殺し文句だよ
ここに一人撃沈してます(爆)

それにしても「かいづか」の会長もなかなかですね
「青山さんの価値は、この程度じゃない……」なんて
会長の娘を断って望を選んだ祐作に
「青山ちゃん、貴方に相応しいのはその娘じゃないのよ」
って言ってるようにんじたわぁーー;
望、会長に負けるなぁ!
祐作とともにゴールに向かって前進だぁー!



会長さん

Arisa♪さん、こんばんは!


>二人の仲もますます❤の感じで嬉しいな~
 2等賞も祐作との優しい時間も望にとっては初めてで
 この幸せが夢なんじゃないかなと不安に思うのもわかるなぁ

幸せに慣れていない望なので、ついそんなことを口にしました。
でも、そんなことが言える間柄になったのよと、そのへんも
見ていただけて嬉しいです。


>それにしても「かいづか」の会長もなかなかですね

あはは……。
会長の気持ちは、また後から出てきますよ。
大企業、『かいづか』の会長も、一人の母ですからね。

最後までどうか、お付き合いお願いします。

祐作

拍手コメントさん、こんばんは

>幸せ絶頂期のお二人ですね♪

はい、祐作は自分自身にも、自信があるタイプの男なので、
俺が守ろうという気持ちも、強いのだと思います。
残りも10話くらいかな?
ぜひ、最後まで楽しんで下さい。