40 二度目の春が来る前に 【40-4】

【40-4】

祥太郎と真帆は、部屋での夕食を取り終えると、旅館自慢の風呂に向かった。

祥太郎は浴衣を着て外へ出てきたが、

真帆はまだ出ていなかったようでソファーにはいない。

真帆には、自分の方が遅いから先に部屋に戻っていてと言われていたものの、

祥太郎は目の前にある土産物の店に入り、観光地にはよくあるクッキーや、

お饅頭などを見ながら、時々お風呂の方を見る。

『いつもと違う』真帆の姿を、すぐにでも見てみたい気持ちで、

1週回った土産物の店を、また端から回りだした。

海に近いので、海産物のお土産も、ケース内にはたくさん入っている。

キャラクターのように見える、キーホルダーを見ていたとき、

『すみません』と男の声がした。


「あ……すみません、ありがとうございました」

「いえ」


祥太郎が顔を上げると、お風呂から出てきた真帆が、

知らない男性に、小さなポーチを拾ってもらい、お礼を言っていた。


「ごめんなさい、慌ててしまって」


真帆は袋の紐を掴もうとして落としてしまったと、目の前の男性に説明している。

男性は、真帆のポーチを持ったまま、状況が落ち着くのを待っていた。

祥太郎は土産物の店を出る。


「真帆……」

「あ……」


祥太郎は『すみません』とあらためて男性に頭を下げると、

その手から真帆のポーチを受け取った。真帆が持っていた着替えの荷物を持つと、

空いている手で、真帆の手をつかむ。


「行こう」

「……うん」


真帆は祥太郎と手をつないだまま、斜め先にあるエレベーターに乗った。

扉は二人を乗せると自然と閉じていく。


「ごめんなさい、待っていてくれたんだ。時間がかかるから……」


真帆は、祥太郎の表情を見て、言葉を途中で止めた。

なんとなく不機嫌そうな気がしたため、黙ってしまう。

エレベーターは2階で別の客を乗せ、3階で止まる。

祥太郎と真帆も廊下に出ると、部屋までの道を進んだ。


「……クッ」


祥太郎は、いきなり笑い出す。


「どうしたの?」

「いや……うん。そう、俺がおかしい」


祥太郎は、真帆が知らない男と話をしていたのを見て、

なんとなく冷静になれなくなっていたと、そう言った。


「待ってたよって言ったあとの真帆の顔、どこかで想像していたのに、
予想外の展開になっていてさ。でも、そういえば、結婚式でも真帆はハンカチを落として、
司に拾ってもらったんだよなと……」


真帆は、祥太郎が怒っていたわけではなく、

ちょっとした焼き餅を焼いていたことがわかり、嬉しくなる。


「よかった……」

「ん?」

「もしかしたら怒ってしまったのかなと、ちょっと」


真帆は、祥太郎の表情を見る。


「怒らないよ、真帆はまた……って、そう思っただけで」


祥太郎は楽しそうに笑ってみせる。


「そうよ、私がドジをする人間だから、こうしていられるのだから」


真帆もほっとしたため、言い返してみせる。


「そう、そう、そうだった」

「……もう!」


真帆は荷物をあらためて祥太郎から受け取ると、部屋のカギを開けてもらう。

二人は揃って中に入ると、脱いだスリッパを並べて置いた。





真帆は、遠くに聞こえる波の音に気付き、ゆっくりと目を開けた。

祥太郎は運転で疲れたのか、まだ眠っていて、隣で真帆が動いても目は開かない。

襖の向こうは、朝焼けの見えている状態だろうと想像しながら、

真帆は、祥太郎のぬくもりに包まれている『幸せ』を実感する。

真帆は自分を守るように回された祥太郎の腕の中で、

青白い色から、だんだんと黄色がかっていく空の色を感じ取る。

自分の方に向いたままの祥太郎の顔を見ながら、真帆は鼻先同士を軽くあてる。

許されるギリギリの時間までこうしていようと思いながら、また、目を閉じた。



「おはよう」

「……うん」


朝食の時間になり、真帆は祥太郎を起こすと布団を隅に置いた。

準備をする仲居さんが姿を見せ、手際よく美味しそうな膳を用意してくれる。

朝食に出されるおかゆは、海鮮の出汁を利用した自慢の品であることなど、

説明を受けていると、しっかりと準備が整ってしまう。

真帆は『ありがとうございました』とお礼を言うと、

まだ、完全に目覚めていないように見える祥太郎と向き合った。


「祥太郎さん」

「……うん、大丈夫。気持ちは起きているから」


祥太郎は一度大きく背伸びをすると、真帆と向かい合って食事を始めた。

最初は目覚めきっていなかった祥太郎も、切り替えが早いのか、すぐにしっかりする。


「朝の海の音、素敵だった」

「ん? 朝?」


祥太郎は今も朝だけれどと、窓の方を見る。

真帆はそれはわかっていますと言いながら、軽く笑う。


「また……来たいな」


真帆は、幸せだった時間を思い出し、そうつぶやいた。

祥太郎は満足そうな真帆の顔を見る。


「どこにでも連れて行きますよ、真帆が行きたいところに」

「……うん」


祥太郎の頼もしい言葉に、真帆は『ありがとう』と頷いた。



【40-5】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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