22 力の集まる石 【22-1】

「逸美さんにね、岳と大学が一緒って話しをしたら……
なぜだか、少し嫌な顔をされたの」


梨那はそう言いながら、岳の表情を確かめる。


「……そう」


岳は、そんな人の話しはどうでもいいのではないかと梨那を見る。


「そう……かな」


梨那は、そういうと不安そうな目を見せた。

岳は梨那の気にしていることが、全く自分の考えている方向と逆だと思い、

ばかばかしいと思いながら息を吐く。


「梨那、今日は大事な話があるって……」

「そう……だったら教えて。どうして私と向き合ってくれないの」


梨那は、『言わなければ』と自分自身を奮い立たせて、そう言葉を切り出した。

岳の表情は変わらない。


「私だって、あなたが私のことを見ているってわかれば、
こんなみっともないこと言わない。だって、ずっと知っていたもの。
彼女との付き合いもあったって……」


梨那は、逸美との過去を知っていたけれど、黙っていたとそう唇をかみ締める。


「彼女とは会っていない。婚約をすることを聞いた、新商品の発表会に出た。
それだけだ」


岳は、『どうしても話したいこと』というのが、これだったのかと梨那を見る。


「だったら……どうして会えないの」

「連絡をした通りだ。仕事が思うようにいっていない。
計画していたことが採用されなかった。それはもちろん俺の実力不足なのだけれど、
このままではいけないと思うから、色々と……」


『色々と』のあとに、岳は言葉がつなげなかった。

実際、何をしているのかと言われたら、『クラリネット』の練習をしていることと、

祖父母の墓参りをしたことだったため、どう説明すればいいのか、わからなくなる。


「仕事を一生懸命するのは構わない……どうせ『BEANS』のことは私にわからないし」


梨那は、自分の左手をテーブルに置く。

ネイルのされた綺麗な指が、岳の前に並んだ。


「私が一番だって……何があってもそうなんだって、それだけ約束してくれたら、
ちゃんと我慢する」


梨那は、空いている指にはめるべきものがあるのではないかと、岳を見る。


「梨那……」

「それが、私の大切な話なの」


梨那の言葉に、岳はしばらくその指を見ていたが、視線をあげる。


「君も『三国屋』という大きな企業の中で、働く父親を見て育ってきたから、
分り合える部分があると、そう思ってきた。でも……」

「でも?」

「働くことに対して、それほど理解がないとは……正直驚いた」

「……岳」

「悪いけれど、今……『結婚』に関しては、何の思いもない。君だからとか、
他の人だからとか、そういうことではなくて……」


岳は、自分の目の前にあることを、一つずつこなすことしか考えられないと、

そう口にする。


「そんな……」

「今言えるのは……それだけだ」


岳はそういうと立ち上がり、伝票をつかむ。

梨那はそれに遅れてはいけないと、バッグをつかみ後ろに続く。

支払いを済ませ店の外に出るが、岳はエレベーターボタンの地下を押す。

当然、一緒に部屋を取るものだと思っていた梨那は、どうしてという表情で岳を見る。


「送るから……」


梨那は1階のボタンを押し、岳の腕を取る。


「岳……もう少しきちんと話しをして」

「少し、時間をおこう。今、話しをしていても、
きっと、冷たいことしか言えない気がする」


岳のその言葉に、梨那の回した手が、力なく下に落ちる。

開いたエレベーターに乗った岳に逆らうように、梨那は立ち止まってしまった。


「梨那……」


梨那は岳に背を向けると、別の方向へ歩き出した。



岳は地下の駐車場に停めた車に乗ると、少しシートを倒した。

なぜだかわからないが、今日は最初からお酒も飲む気がなかったし、

梨那が思っていたように、部屋を取るつもりもなかった。

話しがあると言われ、おそらく内容も『結婚』がらみだと思っていたし、

梨那が言い出した内容も、実際の自分の想像とかけ離れてはいなかった。

クリスマスに会い、それから確かに時間が空いていた。

誘われてもその気になれずに、仕事を優先していたのは自分の方で、

梨那にしてみたら不安もあっただろうと思うのに、

本人を目の前にして出て行った言葉は、自分が思っていた以上に、冷たいものだった。

『相原岳』という人間が、『BEANS』の中に生かされている限り、

その運命から逃れられないのなら、とことん仕事のためになる人生を作ろうと、

そう決めて歩いてきたはずだった。

『三国屋』という大きな企業の娘で、しかも経営には関係なく、

さらに親戚にも実力者が多い梨那との出会いは、岳にとって、『理想』なはずだった。

岳が提案したことに逆らうことなく、それと認めて着いてこようとする性格も、

常に先頭を走り続けてきた自分にとってみると、

『ストレス』のない相手だったはずで、岳はどうして自分が今、

一人でここにいるのかと、考えてしまう。



『あなたは絶対に人を幸せには出来ない。責めることしか知らないもの』



別れ際に、逸美から飛び出した言葉が、岳の中に蘇る。

この自分の生き方に、考え方に問題があるのかと、悔しさから車の扉に、

握りこぶしを当てた。





岳と梨那が微妙な関係になっている頃、

『三国屋』での打ち合わせで感じた、嫌な余韻にしばられていた逸美も、

何も知らない人に話をすれば、少しは気が晴れるとそう思いながら、

占い師の店に向かっていた。地図どおりに角を曲がると、

そこは小さな木造作りの小屋だった。

扉には『完全予約制』の文字が入っている。

逸美はとりあえず入ってみて、様子がおかしいような気がしたら、

出てしまおうとそう考えた。

扉を押してみると、カランと小さな音がする。


「いらっしゃい」


逸美を出迎えてくれたのは、小柄の女性で、

かけていたサングラスを外すと、かわいらしい丸い目が自分を見ていた。


「予約番号です」


逸美は名前を告げることなく、予約した番号だけを渡す。


「はい……どうぞ、お座りください」


『マダムライラック』と書いた木彫りの名札が、テーブルの上においてあった。


「私のことは、マダムと呼んでいただけたらそれで」


マダムはそういうと、ゆっくり気持ちを吐き出しましょうと逸美に微笑んだ。



【22-2】



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