22 力の集まる石 【22-3】

部屋に戻った逸美は、マダムから受け取った石を、寝室の枕元に置いた。

これに押し込まれたパワーによって引き起こるはずの『小さな不幸』が、

果たしてどういうものなのかと、単純に興味を持つ。

岳の相手は間違いなく梨那なわけで、これからどんな時間が二人に流れていくのか、

それを考えると、自然に鼓動が速まった。



『石を割ること』



マダムから、全てを打ち消すためには、パワーを集めている石を割ること。

そう丁寧に教えてもらった。

『ここまで』という最終地点を自分で決められるのだと思うと、

不謹慎だと思いつつも、なぜか期待感さえ感じられた。





「『ミドルバンド』と村田さんが?」

「はい」


次の日、あずさは朝食を食べながら,敦と岳にそう話した。

東子は内容がわからないと、あずさに尋ねる。


「『リラクションルーム』で、
昔、会長が開いてくれたようなコンサートをしようと思うの」

「コンサート」

「まぁ、演奏者は村田さん以外、素人さんだけれど。
でも、あのビルを愛してくれた人たちだし。お別れを演出するにはいいかなと思って」


東子は『そうなんだ』と軽く頷く。


「そのビルって、あずさちゃんが肩もみをしたり、岳とやりあっていたところでしょ」

「やりあっていたというか……」


東子の切り返しに、あずさは岳を目の前にしているため、どう答えたらいいのか、

判断をつけにくくなる。『その通り』と言ってしまうと、

ケンカをしているように思えるし、何も問題はないと言ってしまうのは、

あまりにもウソっぽい。


「あの村田って人が、本当に演奏をするのか」


村田の態度を考えると、とても信じられない岳は、念を押すようにそう尋ねた。


「はい……昨日、初めて来てくれました。トランペットの演奏が本当に見事で、
『ミドルバンド』のみなさんも、驚きと感動で。拍手だったんですよ」


あずさは『音楽』が壁を越えたのだと、そう話していく。


「『コンサート』か……懐かしいね、あの場所を……」

「はい。すみません、勝手に決めてしまって」


あずさは話しを聞いていた武彦の声に、立ち上がって頭を下げる。


「いやいや、管理は『アカデミックスポーツ』さんにお願いしていることですし。
父が許可をしたのなら、問題はないですよ」


武彦はそういうと、敦に協力してあげなさいと、そう声をかける。

敦は、『はい』と返事をすると、岳を見た。

岳は特に意見を言うこともなく、先に食事を終える。


「ねぇ、その『コンサート』。私も見に行っていいかな」

「いいと思うよ」

「よぉし……」


東子はそういうと『ごちそうさま』と両手を合わせる。


「とりあえず、おじいさんには僕から話をしておくね」

「はい、お願いします」


敦が楽しそうにあずさと話すのを見ていた浩美は、何も言わないまま席を立つ。


「奥様……」

「ごめんなさい滝枝。朝から少しだるくて」


浩美はそういうと、朝食を残してしまったと滝枝に謝罪する。

滝枝は『いいえ』と答えると、すぐに食器をさげ始めた。





浩美があまり体調がよくないとそう言ったのは、

これから起こるであろう出来事に、『良心』がチクチク痛むからだった。

しかし、実行しなければ、さらに深みに嵌るだろうと、気持ちを奮い立たせる。

携帯を開き、千晴からの連絡を見る。



『今日、古賀涼子さんに会ってきます』



その連絡通り、千晴は泰成に車の運転を頼み、伊豆にいる涼子のところに向かっていた。

場所はあらかじめ調べていたし、

休日よりも平日の方が、時間の取れることも周りからの情報で知っていた。


「まだ、たいした付き合いもないだろうに……いいのかな」

「たいした付き合いじゃないからいいのよ。深くなられてからじゃ、女も欲を出す」


千晴はそういうと、窓から景色を見続ける。


「『豆風家』の方に、彼は異動するのだろ。
跡取りレースは、もう岳さんに決定じゃないのか」


運転しながらそう言った泰成を、千晴は睨みつける。


「そんなもの最初からわかっているわ。あの岳が上にいたら、
敦がトップに立てないことくらい、誰だってわかる。
でもね……兄と違って、僕は平凡な幸せがいいだなんて、そう思われたら困るのよ」


千晴はそういうと、ミラー越しに泰成を見る。


「マニュアルどおりは、あなただって困るでしょ?」


千晴の怪しい微笑みに、泰成は『そうだね』とつぶやいた。



【22-4】



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