22 力の集まる石 【22-5】

「どうだった?」

「話したわよ、きちんと。敦がどんな立場にいて、
これからどういう道を歩むことになるのか」


千晴は、伊豆に向かった次の日、午前中の仕事を終えると、

浩美と待ち合わせをした喫茶店にいた。

敦の相手、『古賀涼子』とはどんな女性だったかと、千晴に聞く。


「どんなって……特にどうってことなさそうな普通の人よ。
まぁ、染物なんてものをしているからなのか、化粧っけもないし……
あぁ、とてもとても、『三国屋』のお嬢さんには並べない」


千晴は、そういうとカフェオレに口をつけた。

浩美は、敦が『BEANS』から外れることを知らされ焦りもあり、

さらに自分の知らないところで、

幼なじみのような女性と親しくなったことをわかったことで、

勢いのまま行動に出てしまったのではないかと、そう後悔に近い言葉を口にする。


「勢い?」

「そう……これから二人がどうなるのかもわからないのに、
言いすぎたのではないかしら」


弱気な浩美の発言に、千晴は『それは違う』と言い返す。


「叔母さん。何を考えているの。
叔父さんと岳が二人で敦を外すことに了承したのでしょ。会社の人事に対して、
口を挟むことが出来ないのなら、せめて、岳の相手に負けない人を、
敦につけてあげないと。なにもかもが岳のものになるのよ」


千晴は、頭のいい岳のことだから、敦が本筋から外れてしまったら、

東子でさえも、自分の思うようにするのではないかと、余計なことを言い始める。


「東子を?」

「そうよ。東子の相手を、岳が選んだりしたら。叔母さんの産んだ二人の子供は、
全部岳の駒になるってこと」


千晴は、一人勝ちさせてはダメだと、そう言い返す。


「千晴……」

「あの……何もかもをわかっているような、余裕な表情が、とにかく気に入らないのよ」


千晴はそう岳を表現すると、マニキュアのかけた部分に気付く。


「ひと仕事終えたし、これからネイルに行ってくる」


そういうと、残ったカフェオレを飲みほした。





『来週、またそっちに行くよ。どこか見たいものとか考えておいて』



敦はそう涼子にメールを打つと、ランチのお皿を全て下げて賃貸部門に戻った。

4月からの異動が、社内でも正式に発表されたため、

敦は仕事を引き継げるように、資料をまとめ始める。

千晴が敦の情報を知るために利用していた園田は、敦のデスク前に座った。


「相原」

「はい」

「お前、本当に『豆風家』に行くことを、望んだのか」


園田は、あらたな情報でも入らないかと、敦から詳しい事情を聞きだそうとする。


「はい。自分で異動したいと、そう思いました。
少しですけれど向こうの仕事に関わって、自分なりに先が見える気がしたので」


敦は、『豆風家』なら、自分がこの先、何をしたらいいのかが見える気がしたと、

そう園田に語る。


「お前のその決断を、後押ししてくれるような人でも……」


園田は、涼子のことを頭に浮かべながら、そう尋ねる。


「自分の意思です」


敦はそれだけを話すと、園田の前を離れ、ダンボールを組み立て始めた。





「そうなの? コンサートに?」

「はい。壁が崩れたら一気に打ち解けてしまったというか。
音楽ってあらためてすごいですね。村田さんと『ミドルバンド』のみなさん、
一緒に演奏するそうです」


『アカデミックスポーツ』の小原とほたる。そしてあずさの3人は、

いつものように『BEANS』の社員食堂に入り、昼食を取っていた。

話題は、今まで誰とも関わらないで背を向けていた村田のことになっている。


「信じられないですね、あの人が。誰かと一緒に何かをだなんて」

「そうよね、そうそう」


昔をそれなりに知っている小原は、宮崎さんの頑張りが大きいわと、そう言い始める。

あずさは、それを聞き首を振った。


「違いますよ。これは相原会長の人徳です。
村田さんも、このビルがもう長く仕事が出来るものではないことも、
全てわかっているから。でも、『BEANS』側からは、法律的な話や、契約がどうのとか、
どこかこう一方的に思えて、それで拗ねていたのだと思います。
相原会長がこのビルで、生演奏を聴きたいというきっかけを作ってくれて、
村田さんも浮上するチャンスだと、きちんと見抜いてくれたんです」


あずさは、それだけ会長がみなさんに尽くしてきたのだと言い、湯飲みのお茶を飲む。


「そうね……会長にはみんなお世話になったと思っているもの。
恩返しをしたいと考えて、気持ちが変わったのかもしれない」

「はい」


小原は、それでもとあずさを見る。


「宮崎さんは不思議な人ね。どこか無理に見えて、最初はみんな驚くのに。
いつの間にか、そのペースに入り込まされているというか……
楽しくなってくるというか」


小原の言葉に、ほたるも小さく頷く。


「そうですよね、岳さんの『肩もみ』だの、自分で部屋を借りたりだの。
私たちなら考えもつかなかったですよ」


ほたるの言葉に、あずさは『すみません』と謝罪する。


「あら、どうして」

「いえ、よくこれで乗り切れたなと、自分自身思うところもあったりして」


あずさはそう言いながら、自分の決定の前に、いつも岳がいたことを思い出す。

無謀な計画も、無謀なアイデアも、それを受け入れ形にしてくれた岳がいたから、

成り立つ事実だった。あずさは、社員食堂のどこかに岳が来ていないかと周りを見る。


「こうなったら、楽しみましょうね」


小原の声に、ほたるは『そうですね』と返事をした。





『ゆっくり話をしましょう。来週は私が東京に行きます』



涼子からの返信は、半日以上かかった状態で敦に届いた。

話をしたいという気持ちはあるものの、あらためてそれだけを書き込む意味がわからず、

敦は何か起こったのかと心配になる。

運転の出来ない涼子が東京に出てくるとなると、わざわざ電車を使わなければならない。

敦が、自分が行くと返信しても、それでも『東京』でというコメントが、

何度も戻ってきた。





「村田さん、『ミドルバンド』のみなさんから、メールが来ましたよ」


あずさはそういうと、

半分閉まりかかったシャッターの向こうにいる村田の顔を見ようと、しゃがみこむ。


「そんなことを、わざわざ言いに来たのか」

「はい、そうです」


村田はあずさが下から覗き込んでいるのがわかり、シャッターを全開させる。

あずさは『ありがとうございます』と言いながら、立ち上がった。


「コンサートがとっても好評だったと。村田さんの演奏が、
とにかくなにしろ素晴らしかったと」

「そういうのはお世辞というんだ。覚えておいた方がいい」

「お世辞でもなんでも、いいですよ」


あずさは、メンバーがかけてしまったため、

どうなるかと相談されていた『ミドルバンド』のコンサートに、

村田が助っ人として出て成功だったことをリーダーの佐藤から聞き、そのお礼をする。


「あんたが礼をすることじゃないだろう」


頭を下げているあずさに向かって、村田はそう声をかける。


「誰が礼をしたっていいじゃないですか。私も嬉しかったし。
嬉しい気持ちは伝えないと」


あずさはそういうと、次は『リラクションルーム』でのコンサートですねと話す。

村田はカレンダーの日付を見る。


「今日、あんたの借り日だろ」

「はい」

「まぁ、ちょっとだけ顔でも出すよ」


村田はそういうと、ダンボールを持ち、店の奥に入っていく。

あずさは『待っています』と声をかけると、そのまま階段を上がった。





【ももんたのひとりごと】

『パワフリズムストーン』

昔、雑誌の裏表紙にあった、願いの叶う石。今回の『パワフリズムストーン』は、
そんな発想から生まれました。もちろん、あちらは前向きですよ、あくまでも向上心。
こちらのように『念とか恩とか』そういう『ジトッ』としたイメージではありません。
でも、他人の幸せを素直に受け取れるときと言うのは余裕があるときだと、
自分自身の経験からも思います。大人って、実は複雑ですよね。




【23-1】



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