28 東京行きの理由 【28-5】

横浜『青の家』。

『ザナーム』での話し合いを終えた柴田は、そのまま庄吉のいる『青の家』を目指した。

電話で説明すれば早いこともわかっているが、今までのいきさつもあり、

直接会うべきだと考えた。

エレベーターから降りてきた柴田を、庄吉の運転手小野が出迎える。


「柴田社長、こちらに」

「はい」


小野に案内され柴田は庄吉の部屋に入る。


「会長……申し訳ありませんでした」


庄吉の姿を見た柴田は、本当に申し訳ないと、

これ以上下げられないくらい、頭を下げ続けた。





「会長……コーヒーを入れなおしてもらいましょうか」


柴田との話し合いがあると思い、外に出ていた小野が部屋に戻りそう言った。

庄吉は、目の前に置かれたままの、カップを2つ見る。

柴田が『青の家』を出たのは、昼少し前のことだった。

これから『アカデミックスポーツ』に戻り、あずさに対して説明をすると聞き、

庄吉は自分からもまた連絡をすると、そう告げた。


「小野、コーヒーはいい……」

「いや、しかし……」

「予想外のことが起きたとはいえ、迷惑をかけてしまったな……。
彼女にも、柴田社長にも……」


庄吉は、『橙の家』で玉子の車椅子を押しながら、笑っていたあずさの顔を思い出す。


「あのまま、残してあげていたら、こんなことにはならなかったのに」

「会長……」

「こんなことになって、玉子さんに申し訳ない」


庄吉はしばらく窓の外を見つめ、運命のいたずらにため息をついていたが、

このままただここに立っているわけにはいかないと、『BEANS』本社へ電話をかけた。

その相手は、息子で現社長の武彦になる。


『もしもし……』

「武彦か」

『はい』

「忙しいところを悪いが、頼みがある」


庄吉は、そこで初めて、あずさが東京に異動となった理由を武彦に語った。




あずさの『東京』行きの本当の理由。




庄吉は、玉子の『橙の家』入居を知り、

偶然、あずさが『アカデミックスポーツ』のジムで働いていることを知った。

はるか昔、自分の人生に、玉子という心地よい『風』が吹いたことを思い出し、

高校の創立記念で、指揮者として前に立ったあずさのことも思い出す。

別人だと理解していたあずさの姿を、庄吉は何度も玉子に重ねていて、

その風を、今度は相原家に吹かせてくれたらという思いで、

『東京への転勤』を提案し、柴田社長と信頼関係にある江原に、

個人的な事情を受け入れさせてしまった。

突然の異動にも関わらず、仕事から逃げないと宣言したあずさが、

自分の思い通りに『東京』へ来ることになり、そして相原家に住んだことで、

岳や敦、そして東子にも新しい感情が芽生え始めたことを知ったが、

しかし、それが今、何も関係ないあずさ本人を苦しめる状態になってしまう。

庄吉は、柴田から聞いた話を武彦に話す。


『持ち逃げに?』

「そうだ。そんなことはもちろん関係ないし、時期が偶然に重なっていただけだが、
私のした行動が、落ち度のないあずささんの人生を狂わせてしまったかもしれない。
このまま『ザナーム』へ私が直接、話に向かうことも出来るが、
それも逆効果になるのではないかと思う。無理にとどめることはせずに、
それならば『BEANS』か『豆風家』に彼女の場所をと……」


庄吉は、あずさが『BEANS』か『豆風家』で勤められるようにして欲しいと、

武彦に話しをする。


『そうですか……』


武彦は、自分が直接動くわけにはいかないので、今から岳を呼び、

どこかに仕事を作れるように話すと約束する。

庄吉はくれぐれも頼むと念を押すと、電話を切った。



武彦は、受話器を置いた後、あずさが東京に出てくるという話が、

最初から計画されていたことだということを、そこで初めて知る。

それと同時に、庄吉にとって、亡くなった玉子の存在が、

清らかでどこまでも大きなものだということも、改めて知ることになった。


「企画の相原を、社長室に」


武彦は、岳を呼び出すと、椅子の背もたれに寄りかかった。



その頃、岳はチームのメンバーと打ち合わせの最中だった。

土地購入の方法、金額の設定など細かい部分にまで話しを進めていると、

社長室から呼び出しがかかったことを知る。


「社長?」

「はい。すぐにと」


岳は、サブの社員に場所を任せると、そのまま社長室へ向かった。

今、進めている仕事の中にトラブルでも起きたのかと、考えながら扉の前に立ち、

ノックすると『入りなさい』と声がする。

岳は扉を開け、すぐに用件は何かと尋ねた。


「ちょっと座ってくれ」

「はい」


岳はソファーに座ると、武彦を見た。

副社長や他の取締役などの姿はない。


「何か問題がありましたか」

「問題といえば問題だな。今、会長から連絡があった」

「会長?」


武彦は、庄吉から連絡が入ったのは、あずさのことだと話す。

岳は、あずさに何か起きたのかと、すぐに聞き返した。





【ももんたのひとりごと】

『ザナーム』

お人よしの社員が集まる『アカデミックスポーツ』を買い取った企業、
それが『ザナーム』です。『通販事業』で急成長ということになっていますが、
今、ニュースでも騒がれるとおり、『通販』はとんでもない伸びを見せています。
私も便利だから利用しますけれど、その便利さがどこか『冷たさ』を感じるような
気もするんですよね。花輪がどんな男なのか、なぜ冷たいのか、
それも合わせて読んでください。




【29-1】



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