31 恋人の心模様 【31-5】

あずさが東京に来たのは、持ち逃げの関連ではなく、

『BEANS』の相原会長が求めたことだと聞いた。

大手の会長を務める男性が、わざわざ地方ジムの女性をと、半信半疑だったが、

岳のこの名刺の存在で、間違いない事実だったのだと証明される。


「相原岳……」


それほどまでに、『大切に扱われる理由』がどこにあるのか、

花輪は、『宮崎あずさ』自身に、興味を持ち始める。


「まぁ……そんな方だったのですね。
確かに、セールスマンではない気がしましたけれど……」

「田中さん。本当に間違いなく、相原岳、彼だったのですね」

「……本当って、名刺をくれましたよ。この名刺がウソでなければ、
本物ということでしょう。そうそう、宮崎さんも『岳さん』って名前を言いましたし。
彼、警備員さんや私が出ていったので、
仕事中の宮崎さんに迷惑をかけたのではないかと、気にしていました」


京子は、あずさのことを『妹のような』と表現していたと話す。


「『妹』は女の末席なので……」

「田中さん。これからも宮崎あずさを、しっかりと見てください」

「あ……はい?」


花輪は、京子のセリフなど聞くつもりもないのか、さっさと言葉をかぶせてしまう。


「今日は、これで帰ります」

「あ……」


京子がもらった岳の名刺を持ったまま、花輪は通販事業部を出て行ってしまう。


「持っていってしまうの? 名刺……」


京子は、何が起きたのかわからず、自分のスマートフォンを開くと、

あらためて『BEANS』のホームページを見る。

本社の場所、業績などが並んでいる中、社長として武彦の名前を見つける。


「あら……本当だ。社長さんの名前、『相原』だって」


京子は首を傾げると、次は『バラの庭で会いましょう』の漫画を探し出した。





「それでですね、社長」


柴田に再会した3人は、それぞれの場所でどういう研修をこなしたのか、

それを順番に話していった。ほたると小原は建物は同じだが、

経理部門と事務担当で教えてくれる人が別だった。


「来週からは同じフロアで仕事をすることになりました。
『アカデミックスポーツ』のものだけを行うので、今までとあまり変わりません。
でも、シャツとかタオルなどの発注は、また別なので、リズムが違いますけれど」

「そうですか」


柴田は、『Sビル』もほとんどが出ていってしまったから、

毎日静かですよと言葉を返す。


「あ、そうでした。宮崎さんにこれ」


柴田は、村田から預かったと、2つの包み紙を渡してくれる。


「一つは、岳さんに……」


柴田は、素敵な別れを演出してくれたあずさと、これからの未来を作ってくれる岳へ、

それぞれ別の紙に包まれていた。


「岳さんには、ビルが前だから直接渡したらと言ったのに、いやいやって……。
宮崎さんから渡してもらいたいと。全く、最後まで愛想がないというか……」


柴田はそう村田の態度を決めて話したが、あずさは包み紙を受け取りながら、

村田はあえてそうしたのだろうと、思っていた。

『リラクションルーム』であずさと岳が演奏していた姿を、

唯一見たことがあるのは、村田だった。

気をつかって欲しいと言ったわけでもないのに、

気付くと、スッと姿を消しているときもあった。

あずさは村田がくれた箱の包み紙を外す。

中から出てきたのは『ミニキッチン』という、プラモデルだった。


「あら、プラモデル……」

「在庫整理ってことですか」


ほたるはそう言った後、『言いすぎですね』と頭を下げる。

あずさは、自分に背を向けて、なかなか会話をしてくれなかった村田が、

こうして贈り物をしてくれたということだけで、気持ちがいっぱいになる。


「『かわいらしい嫁さんになりなさい』って……書いてあります」


プラモデルの箱の下に、小さなメモが入っていた。

あずさは無愛想な村田らしいエールだと、そのメモを手に取る。


「となると、岳さんの方もプラモデルだな」

「そうね……なんだろう、戦闘機とかかしら。戦ってきたし」


小原は中身が透けて見えないだろうかと、箱をライトの方に動かしてみる。


「以外に日本の名城とかかもしれませんよ。
君は『BEANS』という城の主になるのだ……みたいな?」


ほたるの予想を聞き、柴田はそれはあるかもと、手を叩く。

『アカデミックスポーツ本部社員』の久しぶりの再会は、

和やかに別れを惜しむものとなった。





『中村流 春の創、青葉の書』


『三国屋』でスタートした催し物の招待状が、岳に届いた。

『中村流』、『三国屋』という絡みに、岳は差出人を確かめる。



『上野愁矢』



岳に招待状を送って来たのは、逸美でも梨那でもなく愁矢だった。

岳は、悟から言われた話を思い出す。

逸美と愁矢の間が、どうなっているのかなど全くわからないし、

自分は疑われるような行動も、一切取っていない。

顔を出して、妙なことを言われるのも嫌だと、

すぐに『欠席』の部分へ丸をするためにペンに手を伸ばす。

しかし、ペンを握り、あらためて考えると、

愁矢が悟のところに顔を出し、わざわざ自分を知ろうとしたのだから、

ここはあえて避けることなどせずに、堂々と出て行くべきではないかとも考える。

出席か欠席か、その決断は出来ないまま、

招待状をとりあえずデスクの引き出しに入れた。



「エ……どういうこと?」

「どういうことも何もないよ。逸美さんが『エントリアビール』の時に、
同級生にも声をかけてくれたのだから、僕も僕なりに、イベントを盛り上げられたらと、
そう思っただけで」


愁矢は、逸美と食事をしている店で、岳に招待状を出したことを話した。

逸美は、そんなもの必要なかったのにと、低いトーンで返してしまう。


「どうして?」

「どうしてって……」


あずさの事故があり、軽蔑するようなセリフを投げつけられてから、

一切、顔を見ていない。『中村流』のイベントともなれば、父と自分が前に出て、

挨拶なりをしなければならなくなる。


「興味ないと思うし」

「そうかな……」


愁矢はそういうと、人が一人でも多く来る方がいいだろうと、

気にしている様子もなかった。逸美は、『三国屋』の娘さんが、岳の相手なのだから、

そちらから話しがいくかもしれないのでと、積極的に誘わなかった理由を、

付け足していく。


「妙な遠慮だね。招待状なんて、重なったって構わないのに」


愁矢の言葉に、逸美は顔をあげる。


「まぁ、来てくれるかどうかわからないけれど、僕は来て欲しかったからさ」


愁矢は逸美の空いたグラスに、ワインを注いだ。


「いや、単純に僕が興味を持っているんだ……相原岳って人に」


逸美は、愁矢がなぜ岳に興味を持つのかわからずに、ワインの入ったグラスを持った。





【ももんたのひとりごと】

『嫉妬』

人の感情には、色々とあると思うのですが、今、お話の中では、
この『嫉妬』があちこちに渦巻いています。『パワフリズムストーン』に頼った
逸美の感情。岳と逸美を疑う愁矢の感情。そして、あずさの転勤をうらやましがる
同僚たちの感情……さらに……『BEANS』という企業に守ってもらっているような
あずさに向ける花輪の感情……人は複雑ですね(笑)




【32-1】



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